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天命騎士団、因縁(7)

「ちょっと来てもらっていいかな」スレイは少年の腕をつかみ、ぐっと引きよせる。


「痛いよ、離してよ」


少年が抵抗したので、副将のマーシュが殴りつけた。


「いうことをきかんかっ、こぞう!」


「おいおい、マーシュ。大事な人質なんだから」スレイはいうも、もちろん少年を気づかってのことではない。


「わかってる、ほどほどにしろってことだな」マーシュはまた、少年を殴りつけた。


それで静かになった少年を肩に担ぎ、素早く移動する。街の外れまで進み、廃屋に入った。


そこは五年前までマーシュの生家だった。マーシュはこの街の出身なのだ。


「ここらはほとんどヒトがこないぜ」マーシュがいう。


「よしよし」スレイは少年の服を破りとり、中堅に渡す。「これを持ってリリを連れてきてくれ」


「さーて、今夜は存分に楽しめそうだ。待ちきれないぜ」マーシュはヨダレでもたらしそうな顔だ。


「わかったわかった、急いで連れてきてやるよ」呆れ顔の中堅ではあったが、知ってか知らずか舌なめずりをしていた。


「そんなことさせないよ!」少年がスレイの腕を振りほどき、出入り口の前に陣取った。


やれやれと、スレイは肩をすくめる。


「おい、こぞう。また殴られたいのか?」マーシュが迫り、拳を振り下ろす。


少年はひらりと躱し、舌を出した。


「このガキ!」マーシュはさらに拳を繰りだすが、少年には当たらない。


それどころか、少年は反撃とばかりにマーシュの股間を蹴った。マーシュはうずくまる。


続けて中堅と次鋒がふたりがかりで拳を振るが、少年には当たらない。やがて同じように股間を蹴られた。


「いい加減にしなよ!」スレイは剣を抜いた。


「スレイ! 殺すのはまずいぞ」先鋒がいさめる。


「なに、ちょっと脅してやるだけさ」スレイは剣を振り、斬撃を飛ばした。少年の頭上をかすり、窓が砕け散る。


「それがなんだっていうんだい」少年はさっと間合いを詰めて、スレイの頬をぶった。


なかなかの衝撃で頭がくらくらしたが、リリアンジェの一撃を思いだして一気に血が昇る。


「このガキ! ぶっ殺してやる!」


スレイの言葉に応じるように、うずくまっていたマーシュ、中堅と次鋒も立ち上がり、目を剥きながら剣を抜く。


「おいおい、まずいって!」先鋒はなおもいうが、スレイの耳には届かなかった。


四人の剣が飛び交うも、少年は舌を出したまま平然と躱し続ける。どうして当たらないんだ、という驚きよりも、屈辱のほうが大きかった。


「ユーマからは、できる限り屈辱的にするための細かい注文があったけど、もう面倒だよ」うんざりした表情で少年がいう。


「なにがだっ!」そう怒鳴った直後に、三人がバタリと倒れる。


今立っているのは、スレイと少年だけだ。恐怖が一瞬脳裏をかすめたが、「うがぁぁ!」と気合いで撥ねつけて、全霊の一刀を放つ。


それを少年が、指でつまんで止めた。スレイのなかで、封じ込めた記憶がよみがえった。


ジンとかいうゴロツキにも同じことをされた……。いや、そんなことはない。僕はあのゴロツキを、ボコボコにしてやったんだ! そうだ! そうだったはずだ!


忌まわしき記憶にフタをして、再び剣を振り上げた。


「リリの性玩具が、騎士様に逆らうんじゃねぇ!」全力で剣を振り下ろす。


少年の頭頂に直撃、スレイの腕は一気に膝あたりまで降りていた。


クソガキをまっぷたつにしてやったぜ!


鼻息荒くスレイが顔を上げるも少年は平然としており、逆に剣がひしゃげているのに気づく。


少年が手を上げた。スレイはビクリと震えて縮こまる。


「なんか、かわいそうだし、もういいや」そう残して少年は去っていった。


その場で立っている気力さえなく、スレイは床にゴロンと転がる。


明日も騎士でいられる自信がなかった。おおいに酒でも呑んで、なにもかも忘れたいと思った。


いや、もっと危ない薬に手をださないと、生きていけないかもしれない。そんな予感すらあった。



     □□□□



アラタナが連れ込まれた廃屋の隣も、やはり廃屋だった。そこにジンは隠れ、息を潜めていた。


廃屋でドタバタと騒ぎがあってから、アラタナが出てきた。ジンも外に出る。


「無事のようだな」


「無事? えと、なにが?」アラタナは首をかしげる。


「いや、なんでもない」


失言だった。C級騎士の彼らには、アラタナにかすり傷すらつけることも叶わないのだ。


「ところで、ローズさんは来たの?」


「いや、来なかった」


「僕はリリおねーちゃんのところに行こうかな。ユーマがいるから大丈夫だとは思うけど……」


「行ってくれ。団長もそのほうが喜ぶだろう」


「ジンは?」


「ローズを探す。いっておきたいこともあるしな」


「ねえ。ローズさんってほんとうにジンと同じくらい強いの? そんなふうにはぜんぜん見えなかったけど」


「いろいろと恐ろしい女だぜ」ジンは肩をすくめて見せた。



アラタナと別れてから、クロを召喚した。クロに追わせるとローズはすぐに見つかった。


闘技場近くの屋台街で、ハフッハフッと熱心に麺をすすっている。ジンはローズの対面に座った。


「やあ、ローズさん」


「えーと、ジンさんでしたっけ、なにか御用?」


『ローズ』なんてものは仮名だ。次にあったら変わっているだろう。もちろんそれは『ジン』にもいえることだ。だから、ジンたちの組織ではコードネームでお互いを認識している。


「こんなところでなにをしているんだ、忠犬(ハッチグ)


「アナタには関係ないことよ、野犬(フーリグ)


「ひとつだけ忠告しておこう」


「私もひとつだけいっておくことがあるわ」


ジンとローズは睨みあい、同じ言葉を口にした。


「邪魔をしたら殺すぞ!」


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