天命騎士団、決戦(1)
闘技場近くになると、いたるところで爆竹が鳴っている。準決勝、武術大会もいよいよ佳境だ。
「みなさん、がんばってね」アイナの激励を受けて、控室から出た。
舞台に向かって歩くなか、「がんばるのは団長だけだがな」と、皮肉めいたことをカトーが口にしたが、リリアンジェは無視していた。
ジンたちは試合舞台に上がり、相手チームと相対した。ロエンハイム騎士団(虎組)、早い話がロエンハイム騎士団の二軍だ。それでも、B級ひとりに残りはC級騎士という構成で、このトーナメントで準決勝に残るべき実力は充分にそなえている。
虎組は大将にB級をすえ、それまでのC級たちはリリアンジェの体力を削る作戦のようだ。先鋒は積極的には戦わず、リリアンジェとなんどか打ち合うとすぐに引いている。
観客の声援は、お膝元であるロエンハイム騎士団の二軍より、リリアンジェに向いていた。若く美しく、そして強い。そんなリリアンジェの躍動を、観客はもっと観たいと望んでいるのだ。
虎組の作戦でやや延びていた試合だが、それはリリアンジェが攻守にバランスをとっていたからだ。積極的な攻めに転じると、すぐに先鋒を追いつめ、三連撃で試合を終わらせた。
二試合目。虎組の意図をくみとったリリアンジェは、積極構成にでた。さっと間合いをつめ、教本をなぞるかのような基本に忠実な連撃で試合を決めた。
中堅、副将もリリアンジェの敵ではなかった。相手チームには残念なことだが、大将戦までにリリアンジェの体力を削れたかというと、そうではない。
「うん、いいウォーミングアップになりました」リリアンジェが自陣に戻って汗を拭きながら微笑む。
そして、大将戦。
虎組はリリアンジェと同じB級だ。開始の太鼓が鳴ると同時に、大将が突きを放つ。それを木刀で払いのけて、流れるような軌道で大将の胴を打ち抜く。
同じB級なのだろうかと疑うような実力差だった。
リリアンジェの圧勝に興奮して歓声が爆発する。どうやら観客も決勝で一軍対二軍が観たいわけではなく、ミガルド対リリアンジェ戦に、心を躍らせているようだった。
その決勝は二日後となる。明日は午前に三位決定戦。午後からは南の大都市ポウルから、有名な楽団と劇団を招いていた。
酒でも飲みながら熱い戦いを楽しむ男たちとは違い、婦人や子供たちは、むしろこの日を楽しみにしていた。
その日の夜ふけ、アイナが宿にやってきて、「大変なことになった」と騒ぎだした。夜も遅いということで、アラタナ以外の騎士団メンバーが宿の食堂に集まり、話を聞いた。
なんでもアイナは、ロエンハイム伯爵の晩餐会に呼ばれ、そのさいに決勝戦でのルール変更を通達されたというのだ。
その変更は、ロエンハイム騎士団の勝利を確定させるもので、勝抜戦から星取戦に変えたという。つまり、リリアンジェひとりで五人に勝てば良いところが、一回しか戦えず、彼女以外にふたりが勝利しなくてはならないのだ。
「途中でルール変更なんて卑怯だわ!」アイナは憤る。
「おのれ……団長の強さに恐れをなして姑息なまねを……」ユーマもアイナに同調する。
「私、正式に抗議してくるわ!」
「やめてください、アイナ」当のリリアンジェは怒る素振りなく、さらりという。「天命騎士団が騎士団表彰式に出席するというのが、早すぎたのです。私自身、まだ天命騎士団にはその資格はないと考えています」
「そりゃそうだ、騎士見習いがほとんどだしな」カトーが皮肉っぽい調子でいった。
「はい。だから早く騎士になれるよう、王都に戻ったら修行に励みましょう。とくにカトー、サボリは許しませんよ」
華麗なブーメランにカトーは押し黙った。
「リリ、ほんとうに、いいの?」アイナが蒼い瞳を曇らせる。
「ええ、いいの」
「……あと、伯爵からの伝言。先鋒はミガルドさんだそうよ。素晴らしい戦いを期待しています、だってさ」
「素敵な挑戦状だわ」リリアンジェの瞳がきらりと光る。
アイナひとりで夜道を帰すのは危険だろうと、彼女の宿まではジンが送ることになった。というか、そのように仕向けた。
「不躾なことを聞いて、申し訳ありません。第一王子と会われたりしましたか?」
「いいえ」とアイナは首を振る。「そもそも第一王子は、私をオガイアから守るためだけに求婚してくださったのだから」
「オガイア侯爵が来た夜のことは覚えていますか?」
「それが……よく覚えていないのです。あの夜……オガイア侯爵につめよられて……朝目が覚めたら、カトーさんが朝食を作って待っていて……」
あの夜、ユーマはオガイア一味を混乱させたと、いっていた。その術がアイナへも施されていたというのは、想像にたやすい。
「カトーが第一王子宛てに伝書鳩を送ったと聞いています」
「カトーさんは、朝食後すぐにいなくなって……。第一王子のことを知らせてくれたのは、その日の夕方でした」
「アイナ様に了承も得ずに、カトーがコトを進めたのですか?」
「はい、事後報告でした」アイナはため息混じりの息を吐く。「あくどい侯爵からミューラル子爵嬢を救うために嘘の求婚をしてくれ、などという不敬罪に問われそうな内容の手紙を王子に送り、印章つきで『いいよ』と返ってきた返信を見せられました」
「そうですか……」いいながらジンは考える。
カトーは異世界人だからよくわからずに、このような無謀な手段にでたのだろうか? それとも第一王子となにかしらのコネクションがあるのだろうか?
アイナを貴族にふさわしい高級宿に届けてから、安宿に戻る。食堂ではユーマがひとりでおり、なにやら考え込んでいた。それは見なかったことにして、ジンは自分の部屋に入った。




