表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/46

天命騎士団、因縁(5)

「さすがだね、リリ」スレイがニコリと微笑みを向ける。


栗色の髪に、少年のおもかげを残す人懐っこい表情。


幼い頃から、スレイに恋心が微塵もなかったといえば、嘘になる。王都から逃げるよう離れ、母と父が亡くなるも、孤軍奮闘で騎士ランクB級にまで昇りつめた。


苦しくてうずくまったあのとき、絶望で叫びだしたあのとき、となりにスレイがいてくれたらと妄想したことは、一度や二度ではないのだ。


感傷の波が押し寄せてくるのを払ったのは、カトーだった。


ああそうだ。こんな試合なんてとっとと終わらせて、カトーに大説教してから少しでも修行させなきゃ! そう決意して、スレイの笑みにも笑みで返してやった。


だが、「カトーとかいう寄生虫は僕たちが拉致している」とスレイが早口でいい、リリアンジェの表情が抜け落ちた。


それと同時に太鼓が鳴る。


スレイが明らかに手の抜いた攻撃で詰めよってくる。それをさばきながら、鍔迫り合いに応じた。


「どういう意味?」お互いの木刀を顔の前でせめぎ合わせながら、リリアンジェは問う。


「すぐにでも、あの寄生虫を殺せるってことさ」スレイがにんまりという。


「騎士として恥ずかしくないの?」


「そういう正義ぶって説教くさいリリが、僕は大キライなんだよ!」スレイがぱっと離れて剣を払う。


リリアンジェの木刀は後方に飛ばされた。


それからのスレイは水を得た魚のように木刀を振り、迫ってくる。リリアンジェは躱しながら後退した。


「たまには当たってよ、リリ。そうじゃないと、代わりに寄生虫が痛い目にあうよ」


「……」


スレイの攻撃がリリアンジェの肩口をかすった。次には脇腹もかする。


「そうそう、それそれ」スレイの顔は悦に歪んでいた。


どうすれば、どうすればいいの……。リリアンジェが唇を噛みしめた直後、自陣から声があがる。


「どうした団長! 軽そうな胸のわりには、動きが重たいぞ」


振り向くとカトーがいた。


数瞬、唖然としてしまった。その間にスレイは小賢しくも、リリアンジェの木刀を蹴り飛ばして場外に落としやっていた。


「ふん! 今さら寄生虫がご帰還したところで、リリの木刀はないし、僕の勝ちは揺るがないけどね」


スレイがリリアンジェの顔面めがけて突きを放つ。その一撃を、リリアンジェは素手でつかみ取った。


「あなたごときに、剣など必要ありません!」リリアンジェは力いっぱいスレイの頬を張った。


スレイは宙を舞ってからドサリと落ち、動く気配はない。気を失っているようだ。


「アイツ、ビンタで気絶しやがったぞ!」「だっせーやつだなぁ」「二度とこの街に来るんじゃねーぞ」


立会人の勝利宣言は、嘲笑混じりの大歓声でかき消された。


「でたっ! カトー直伝、必殺ビンタ!」


「別に伝授したつもりはないがなぁ」


歓声の合間をぬって、ユーマとカトーの与太話が聞こえてきた。




控室に戻るとすぐに、リリアンジェはカトーに詰めよった。「どこでなにをやってたのです!」


「赤毛のネーチャンと呑んでたらジンに邪魔された。あとはひとりでやけ酒、目が覚めたら公園のベンチだった」


「誰かに拉致されてたわけじゃないんですね!」


「ああ」


「よかった……」リリアンジェはホッと息を吐くも、すぐに目を吊り上げた。「だいたい試合前日に相手チームと呑みに行くとはどういうことですか!?」


「だって俺、試合出ないし」


「それでも他にできることがあるでしょ! 修行とか、修行とか、修行とかっ!」


「そんなことより、もう宿に戻っていいか? 二日酔いなんだ」


「なにをいってるのです! 今日はまだ、試合が残っているのですよ!」


「あっ、俺も帰っていいか? やはり昨日呑みすぎてな」ジンがいいだした。


「なんなのっ! アンタたち!」


「あ、そうだ。アラタナ」ユーマがぽんっと手を叩く。「カトーとジンの気分がすぐれないみたいだから、アナタも戻って介抱してあげてください」


「どうしてアラタナがカトーとジンの介抱しなけゃいけないのよっ!」リリアンジェは地団駄を踏んだ。


「そんなにカリカリしないの、リリ」


ふわりとした声がして、リリアンジェは振り返る。


「アイナ!」


「お久しぶり」


「お久しぶり!」


「推薦人だけど、私も補欠としてエントリーしてたの。カトーさんたちの代わりに、私が試合舞台のそでに行っていい?」


「もちろんよ!」リリアンジェは眼を輝かせてから、少し俯きかげんでいった。「あの……おめでとうごさいます、そういってもいいの?」


「第一王子のことね。うん、オガイア侯爵からは逃げられたから、とりあえずはその言葉を受けとっておくわ」アイナは微笑む。


「そう。よかった」


「さあさあ、ここで立ち話もなんです。試合まではまだ時間があるので、お茶にでも行きましょう」ユーマが歌うようにいう。


「あっ、私は試合が見たいから」リリアンジェは首を振る。


「なら、私もリリと一緒に観戦するわ」


「そうですか……」ユーマはがっくりうなだれてから、カトーたちを見た。「こちらは私がいてますので、あとのことはよろしくお願いします」


なにをよろしくお願いしたのだろう? 疑問に思ったリリアンジェだが、「早く行こう」とアイナが歩きだしたので、「ええ」と頷きあとを追った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ