天命騎士団、因縁(4)
「ヒルド団長がね、ちょっとした武者修行として若手騎士を大会にエントリーしたんだ」スレイは大げさに肩をすくめる。「でも、決勝戦ではロエンハイム騎士団に勝ちを譲るようにだってさ」
「そう……」
「紹介しとくね。僕たちのチーム。右からマーシュ、レット、ミキア、ハーズ」
あのお披露目式でスレイが連れてきていた騎士たちだ。
「よろしく、天命騎士団の団長殿」その騎士たちがあざ笑うようにいう。
リリアンジェは唇を噛みながら屈辱に耐えつつも、スレイを睨めつけた。スレイは不敵な笑顔で応じながら、たまにジンのほうをチラチラ見ていた。
「あの、私のことは……」スレイのうしろにいる美しい赤毛の女が申しわけなさそうにいう。
「ああ、ローズさん、紹介が遅れて申しわけありません」スレイは赤毛の女に微笑んでから、リリアンジェに顔を向けた。「こちらは、ローズさん。僕たちの監督役なんだ」
「監督役なんて名ばかりなんです!」ローズは慌てた様子でいう。「スレイくんたちはC級ですが、私なんて騎士ライセンスをなんとか取れただけの底辺騎士です。一番下のF級ランク試験にも、ぜんぜん手が届かないの。一応は補欠として大会エントリーはしてますけど、スレイ君たちのお世話係です」
「そうですか……」
「それより、先ほどのリリアンジェ様の活躍には感動しましたわ! 同じ女騎士として憧れます。ぜひとも握手を……」
ローズが手を伸ばして近づいてきたので、「まあ……」とリリアンジェは手を差し出す。
だが、その間にジンが割り込んだ。
「それ以上近づくな」低い声で脅すようにジンはいう。
異様なほどのジンの迫力にリリアンジェは驚いた。
「えっあっ、ごめんなさい……」ローズは悲しげな表情で謝罪する。
リリアンジェが苦言をだす前に、スレイ以外の騎士たちが騒ぎだした。
「なんだその口のききかたは!」「騎士見習いが調子のってんじゃねーぞ!」「この前みたいに、また痛い目にあいたいのか!」
「まあまあ、みんな。それより早く行こう。そろそろ僕たちの試合がはじまるよ」スレイが控室から出る。
不服そうな表情を浮かべながらも若い騎士たちは従う。ローズも会釈してから、彼らのあとを追った。
「次の試合の勝者が明日の相手になるのですよね。みんなで観ていきましょうか?」
ユーマがいうも、リリアンジェは首を振った。
「私は宿に戻って休みます」そう残してさっさと部屋を出た。
ノックの音がして反射的に、「はい」と答える。入ってきたのはユーマだ。
「晩ごはんに行きましょう」
「え、もうそんな時間!?」
視線を窓にやる。空は赤く染まっていた。ただただベッドに座っていただけで、ずいぶんと時間が経っていたようだ。
「さあさあ、行きましょう。明日に備えてタクサン食べなきゃ!」
ここでずっと塞ぎ込んでいてもしかたない。リリアンジェは頷いた。
ユーマとアラタナに連れられ、近くの食堂に入った。大会中だというのもあってか、かなり盛況している。
「カトーとジンは?」席に座り、リリアンジェがいった。
「ふたりとも部屋にいませんでした」
「あっ、カトーなら少し前に見かけたよ。違う店で綺麗な女のヒトとお酒を飲んでた。試合のあとに会った赤毛のおねーさんだよ」アラタナがいった。
「カトーもすみにおけませんねー」ユーマがにやり。
対戦相手のヒトじゃない……。それにカトーならスレイとのあのことも知っているはずなのに……。
リリアンジェはうつむき、首を振った。
青く澄みわたった空に、歓声が響く。午後の第一試合は天命騎士団と若獅子会。つまり、スレイを筆頭とする天響騎士団の若手たちだ。
試合前の整列、五人の若獅子会に相対したのは、天命騎士団の四名だけだった。カトーが来ていないのだ。
「呑み過ぎてどこかで寝てるんでしょうかねぇ」自陣に戻り、ユーマがのん気な声をだす。
それを無視してリリアンジェは試合舞台に上がった。先鋒として出てきた同年代の精悍な騎士が、隙のないかまえで木刀を握りしめている。
あのお披露目式でスレイが連れてきていた騎士のひとりだ。
開始の太鼓が響く中、すたすたとリリアンジェは距離をつめる。先鋒騎士は慌てたようすで木刀を振り下ろした。リリアンジェはそれを力まかせに打ち払う。
相手の木刀は砕け散った。
「まだやりますか?」冷たくいい放つ。
「まいりました」悔しそうに先鋒騎士はいい、下がっていった。
次鋒戦は大会最速レコードを狙った。開始の太鼓が鳴ると同時に駆けて突きを放つ。
次鋒騎士は吹き飛び、立会人がすぐさま勝利を宣言した。
中堅戦でも最速レコードを狙ったが、相手はかなり警戒していた。だから初段の突きは防がれたが、リリアンジェが放っていたのは二連突きだ。
中堅が吹き飛んだのが一瞬遅くなったにすぎない。
ともあれ三戦連続で、太鼓の響きが鳴り止むまでの勝利宣言となった。
次の副将騎士は、スレイとヒソヒソ話してから試合舞台に上がってきた。どんな作戦を立てたのやらと思ったら、開始そうそう大きく距離をとり、逃げ腰といっていい戦いかただった。彼にたいして、観客からも容赦なくヤジが飛ぶ。
こんな試合を長引かせるつもりはない。強引にでも終わらせてやろうと間合いを詰めだすと、副将は届かない距離で木刀を振った。
死亡するおそれがあるので斬撃を飛ばすのはルール違反となる。だが、飛んだのは斬撃でなく砂だった。それが目に入り、リリアンジェは思わず目をつむる。
暗闇となったその瞬間に副将が攻めてきたことは、魔力探知で把握していた。脳天めがけて放たれた一閃を回避しながら、胴を払う。
リリアンジェが手で拭いながら目を開けると、足元で副将がのたうち回って苦しんでいるのが見えた。目が見えない状況で防衛本能が働き、手加減がややおろそかになってしまった。だが、それにたいする罪悪感などなかった。
リリアンジェへの歓声が響くなか、副将は担架で運ばれていった。
そして……大将のスレイが試合舞台に上がってきた。




