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天命騎士団、発足(2)

鋭い目の男が斬りかかってきた。その一刀を払うと、相手の剣は宙を飛んだ。


かなりの実力差がないとできない芸当だ。鋭い目の男は啞然とした表情を見せるも、すぐさま叫ぶ。


「なにをしている! 全員でかからんか!」


応じて残りの騎士たちが次々とリリアンジェに斬りかかってくるが、全ての剣を跳ね飛ばした。騎士たちは驚愕の表情だ。


「斬り捨ててやろうと本気で思っていましたが、ここまでの実力差があるのに命を奪うというのは、私の騎士道に反します」


「この役立たずどもめ! 早く剣を拾って小娘を串刺しにしなさい!」カルマンは吠えるが、騎士たちは動こうとしない。


「覚悟なさいまし」リリアンジェがカルマンに迫る。


「なっ、なんです……。私を殺すというのですか!? 金なら払いますよ、いくら欲しいの?」カルマンは後退りながら、いやいやと首を振る。


「殺しはしません。おとなしくお縄についてください」リリアンジェはため息混じりでいい、カルマンを縄で縛る。


奇しくもその縄は、リリアンジェの首にかけて街中を引き回すはずのものだった。


翌日、王都からきた兵士たちにカルマンを引き渡すと、リリアンジェはすぐさま街を出て、王都に向かった。


カトーはどうやら昨日のうちに街を去っていたようで、お礼をいう機会は逃した。





ヒルアナ王国に二千人しかいない騎士ランクB級は、超がつくエリートといっていい。だから若干十八歳のリリアンジェにも、気前よく銀行は融資してくれた。


それを元手に、天命騎士団に入団してくれる騎士を募った。今の段階で大盤振舞などできないので、騎士を募るにはいたらない給金だ。もっというと、騎士ではなく傭兵すら厳しい。集まるのは自分よりさらに若い、騎士見習いしかいないのだろう。


「いくら自分がB級だからといって、少ない給金で騎士が集まると夢想するほどバカじゃないわ。まだ幼く未熟な騎士見習いたちと一緒に、天命騎士団は成長していけばいいのよ!」


王立西区公会堂の大会議室の扉を前にして、リリアンジェは拳を握る。この部屋をおさえるのに相応の金額を払ったが後悔はしていない。


「お父様、私の初舞台です!」リリアンジェは扉を開いた。


大会議室は五十人が余裕で座れる広さがある。さすがに満杯はないだろうが、若い騎士見習いたちで半分近くは埋まっているだろう!


その予想も虚しく、だらけた態度のカトーがひとり座っているだけだった。


リリアンジェは頭がくらくらするのに耐えながら、壇上に立つ。


「天命騎士団の団長、リリアンジェ・アールメィです。アナタたちと共に、私も成長していきたいと思っています。例え大言壮語だと笑われようと、世界を救って歴史に名を残す騎士団とするのが目標です」


その言葉はあらかじめ用意していたものだ。もちろん、若く幼い騎士見習いたちに向けて考えた言葉だったので、今の状況で発するものではない。


ショックで思考力が落ちていたこともあり、カトーひとりに向けて放ってしまった。


「素晴らしい御高説に、感動感激であります」


じつにニヤけた表情でいいやがる。


「なにをしにきたのですか」


「なにって、騎士団のメンバーを集めてるんだよな?」


「だからこそ、アナタがなぜっ!?」


「団員になったら、お給金がもらえるからに決まってるだろ」


「そういえば、この前は助かりました。ありがとうございます!」リリアンジェはカトーを睨みながら早口でいった。


「俺への礼はいらん。自身の浅はかさを反省してくれりゃあ、それでいい」


コイツ、ぶん殴ってやる! との想いを抑えるのに震えていたところ、不意に扉が開く。


「おっ、もう始まってたか」と、不遜な態度で男が入ってきた。


歳は二十代後半だろうか? 細身ではあるが立派な筋肉を見せつけるような薄手のシャツ、ピンクに染めた短い髪、左腕には戦神ズオウの彫物、なかなかの迫力だ。


まあ、悪くいうと街のゴロツキなのだが。


「あの……アナタは?」


「ジンだ。よろしくな」挑発的な表情で、男は名乗る。


「騎士ライセンスはお持ちですか?」


「そんなモノはないが、ケンカじゃ負けたことはないぜ!」


「はぁ……」リリアンジェは薄く長く息を吐く。


ともあれ、今回の団員募集は失敗だ。エリートであるB級が募れば、若い騎士見習いぐらいは集められると思っていたが、考えが甘かったようだ。


いったいなにが問題だったのだろう? 天命騎士団の知名度、自身の実績、給金の貧しさ、宣伝の不足。パッと考えただけで、どんどん課題が見つかった。


自分の不甲斐なさを噛みしめながら、仕切り直しを決意した直後に扉が開く。栗色の髪をした精悍な青年が入ってきた。


「久しぶりだね、リリ」青年が微笑む。


「スレイ!? スレイなの!」


「そうだよ、リリ。なんだい、僕のこと忘れてたのかい?」


「ごめんなさい。いろいろあったから……」


「うん、そうだね。僕こそごめん。ほんとうにキミが苦しいときに、なにも助けてあげられなかった」


「いいの」とリリアンジェは首を振った。



スレイとは幼なじみだった。


スレイの父はリリアンジェの父の部下だったが、そういった垣根を超えて家族ぐるみの付き合いがあった。


だから幼いころから、よく遊んだ仲だ。騎士ごっこと称して、修行モドキをしたこともある。


そんなスレイが今、私のために駆けつけてくれたのだ! そう考えると、胸がいっぱいになった。



「そいつにも訊いてやれよ。『騎士ライセンスはお持ちですか』ってな」カトーが水をさす。


リリアンジェがキッとカトーを睨むのと同時に、スレイは答える。


「もちろんライセンスはあるさ。僕は騎士ランクC級だからね」


「C級受かったの!? すごい!」とリリアンジェは反射的に答える。


「B級にいわれると、ちょっとなぁ」スレイは眉をよせる。


「ごめんなさい! そんなつもりじゃ!」


「ははは、冗談だよ、リリ。僕は怒ってなんかいないよ」


「よかった」リリアンジェは胸をなでおろす。


「それより、もちろん僕は入団OKなんだろ?」


「そうしたいのはやまやまだけど……スレイはC級なんでしょ。私なんかと一緒にいるよりも……」リリアンジェは下を向いた。


入団してくれたら、どれだけありがたいことか……。そうは思いつつもリリアンジェは言葉を濁した。


天命騎士団にはまだ、地位も名誉もない。これから騎士見習いたちと育てていくべきものだ。スレイの未来を思えば、こんな行末のわからない船にのせるわけにはいかない。


そしてなにより、C級を雇えるような金銭がなかった。


「お金のことだったら、出世払いでいいさ。僕たちで、天命騎士団を栄光に導こう!」


スレイが澄んだ声を響かせ、リリアンジェは泣きそうになった。



今日は事務的な説明をしたあと、入団希望者全員とじっくり話すつもりでいた。だがこの人数では、すぐに解散となった。


「晩御飯でも一緒にどう?」


スレイの誘いにリリアンジェはふたつ返事で答えた。


連れられてきたのはスレイ行きつけ、王国最南端の郷土料理がウリの店だった。王都ではあまり見かけない魚の燻製やドライフルーツをツマミに果実酒を楽しんだ。


ヒルアナ王国では十六歳から飲酒可能だが、リリアンジェはめったに酒を呑むことはなく、騎士ランク獲得や卒業式などの、大きな祝いの場ぐらいだ。


スレイの熱心な勧めもあり、今日は飲酒することにした。


幼い頃の想い出話があってから、お互いの騎士ライセンス、騎士ランク獲得までの軌跡を語り合う。充実した楽しいこの時間に、リリアンジェの心は弾んだ。


「リリってさあ、僕よりお酒強いんじゃない?」


「学園の受業や日々の修行に影響でるといけないから、あまり呑まないようにしていたけど、お酒には強いようなの」


「真面目だなぁ、リリは。真面目すぎるよ」


「私はどうせ、真面目過ぎて面白くない女ですよ」と舌を出し、おどけてみせる。


普段の自分らしくない態度に、なにやらむず痒い気もするが、スレイの前ではそれもいいかと思った。


「あのさぁ、リリ。彼らはどうするの?」ふとスレイが声色を落とす。


「……カトーとジンのこと?」


「そう。彼らは天命騎士団にはふさわしくないと思うんだ」


「……たしかに彼らは、騎士ではないしね」


「騎士見習いでもないよ。だいたい騎士見習いだって、簡単になれるものじゃない。指定学園の中等部以上で騎士コースに受かるか、D級以上の騎士の弟子になるかだ」


「私の弟子にして、騎士見習いとして頑張ってもらおうと思っていたのだけど……」


「彼らにたいして、リリがそこまでする価値はあるのかい?」


正直いうと、カトーとジンには期待していない。だが、自分が募集をかけて、それにたいして彼らが集まったのだ。自分が責任を持つべきだとは考えている。


「カトーとジンには、私を師と仰いで騎士見習いになるつもりはあるか、確認するわ」


「それは早いほうがいいね」


「うん」


「あと、これはお願いというか、僕が天命騎士団に入る条件になるんだけど」


「えっ、なに?」軽い口調でいいながらも、リリアンジェは姿勢を正した。


「記者や観衆を呼んで、お披露目式をしないか? 僕たちの門出に」


「そういう目立つのは……ちょっと」


「これが天命騎士団に入る条件だと、僕はいったよね?」


「うん、そうね。わかった」


「今日と同じ会場でやろうよ!」


「わかった。予約しておく」


「明後日でいいかな?」


「えっ、そんなに早く?」


「なんにしても早いほうがいいよ。お披露目式のあとは、ここで打ち上げしよう。そのときの払いは僕持ちでいいから」


「でも、それは……」


「いいからいいから」というスレイには、「ありがとう」と答えるしかなかった。




次の日、リリアンジェはさっそくふたりに会いにいった。そして、「天命騎士団に入団するには騎士見習いとして私の弟子になってください。それが入団の条件となります」と各々に問う。


ゴロツキが集まる酒場にいたジンは、「別にいいけど」と、なにも考えていない様子だった。翌日のお披露目式にも、「わかった」と気軽そうに答えた。


次に会いにいったカトーは、先日聞いたとおり王立図書館にいた。分厚い歴史書が並ぶ本棚の前で、なにやら難しい顔をして本を手にしている。


「歴史に興味があるんですか?」


「一万年前の魔王襲来。およそ千年ごとにヒトとして生を受ける厄災の主(ドミリィーナ)。大量の血が流れる事件が幾度かあったというのに、この世界の文明や科学は、詳細な記録が残っている二万年前からほとんど進歩していないのだな」


「はあ」と首を傾げる。


「とはいえ、神話じみていない体系立った歴史書があるのは素晴らしい。不老不死の一族、『時守(ときもり)』が編纂に加わっているのだろうか……」


「さあ? どうなんでしょう」


「魔王の再来はさすがに予見できないが、前回の厄災の主からは千年が経っている。厄災の主を討ち果たせば、この世界を救ったことになるはずだが、どう思う?」


「まあ、そうなるんじゃないですか」と返しておき、騎士見習いとお披露目式の件を説明する。意外にもカトーは快諾した。


そして翌日、急遽設けたお披露目の場は、相応の部屋がなく、先日のものより豪華で広いものとなった。スレイが声をかけた記者が四人と、これまたスレイが声をかけた若い騎士が四人いる。騎士たちは同級生とのことだ。


リリアンジェたちは壇上に上がる。明朗な声で挨拶し、集まってくれたことにたいして謝辞を述べた。続けて天命騎士団の所信表明と、リリアンジェ本人の説明をした。


「では次は、友人でもあるスレイの自己紹介です」リリアンジェは一歩さがり、スレイに微笑む。


壇上の真ん中に進んだスレイは、リリアンジェとは幼なじみであることと、都内の名門学園で騎士ランクC級を取得したことを話す。


咳払いをひとつしてから、スレイは続ける。


「さて、僕は今をもって、天命騎士団を脱退します」


「へっ?」リリアンジェは目をぱちくりした。


「悪いねぇ、リリ。実は在学中からヒルドさんにスカウトされてたんだ。もちろん、かの有名な天響騎士団だよ」


「……」


「さあ、行こう。みんな」スレイがいうと若い騎士たちも立ち上がり、部屋を出ていった。


取り残されたリリアンジェに駆けよってきたのは記者たちだ。


「今どんな気持ちですか?」とニヤけた表情を貼りつけたまま、メモ帳とペンを持って問いかけてくる。


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