天命騎士団、因縁(2)
そのまま屋敷に戻ると、ユーマが意味ありげに微笑んだ。「あらあら、仲良くふたりでご帰還ですね」
「はい。カトーとこれから修行です!」
「ほうほう、カトーもやっとやる気になりましたか。それはよかった! 団長に伝える吉報にも、熱が入るというものです」
「新しい依頼?」
「いえいえ、そちらはもう少しお待ちください。西区はヒルド、東区はオガイア、我が騎士団もなかなか敵が多くてですね。中央、北、南と幅を広げているところです」
「私がいたらぬばかりに……苦労をかけていますね」
「なんのなんの、お気になさらず。それより今回は逆転の一手を持ってきました」
「え?」リリアンジェは眉をよせた。そんな都合のいいものがあるとは思えない。
「王国府主催の騎士団表彰式へ馳せ参じ、天命騎士団の名を売るのです」
王国府主催騎士団受賞式は、この一年で輝かしい活躍をした騎士団を称えるものだ。リリアンジェの父が天響騎士団を率いていたときにも、金賞の栄誉をいただいている。
そしてヒルドは、二年連続で金賞を授与されていた。その式で授与を行うのは軍務省長で、西区公爵の親族なのだ。ヒルドとは蜜月の関係といえる。
それはともかく、金銀銅の賞にあやかれなくとも、騎士団受賞式に呼ばれること自体が一流騎士団の証となるのだ。
「式への招待は、軍務省長が決めるのでしょ。天命騎士団では……」
「南の大都市ポウルに向かう途中に、タタランという街があります。そこで開かれる武術大会で優勝すれば、その権利が得られます。すでに私のほうで申し込んでおきました」
「なにを勝手に……」
「挑戦しましょう、団長! なに、片田舎の大会です。たいしたヤツもいませんよ」
リリアンジェはユーマの暴走に呆れながらも、考える仕草をした。
「武術大会か……。私自身、感が鈍らぬよう、たまには実戦をこなしておくのも悪くないわね……。それに私の闘いを観ることが、みなさんの修行にもなります。いわゆる見稽古というものです」
「五人の団体戦です。私たちも闘士登録していますよ」
「えっ!? じゃあ、ダメじゃないですか!」
「どうしてです?」
「危険だからです! 武術大会では木刀を使いますが、それでも大怪我することは普通にありますし、死人がでることもしばしばです。そんな生死をかけた闘いに挑めるほど、皆の修行は進んでいません!」
「大会への申し込みには推薦人が必要なので、アイナ様に頼みました。不参加となればアイナ様の顔をつぶすことになります」
「えっ!」
「開催は三日後なので、明日には出発です。馬車も借りていますよ」
「ええっ!」
馬車は王都を出て南に進む。車内では、ユーマの勝手な行動を全員で責め立てたが、当の本人はどこ吹く風だった。
なだらかな道が続き、トラブルもなくタタランに着いた。それでも距離があるので、すでに日は落ちていた。
武術大会が開催されるからだろう、夜になってもヒトが多くて賑やかだ。
宿で少し休んでから、街の中心に向かう。屋台がたくさん並んでおり、そこで夕食をとることになった。
「旅行みたいで楽しいですねー」そうユーマははしゃぐが、リリアンジェたちはシラケた表情だ。
次の日、リリアンジェはユーマと大会会場となる闘技場に向かった。さすがに王都の闘技場とは比べものにならないが、街の規模にしては立派なものだった。五千の観客が入れるとのことだ。
入口に設置されていた本部で受け付けをすませ、大会要項とトーナメント表を受け取った。
ユーマがいっていたとおり、勝抜戦となっている。
つまり、相手の先鋒から大将の五人を、リリアンジェが勝ち抜けば、天命騎士団の勝利となるわけだ。
もし星取戦だったなら、リリアンジェ以外にもふたりの勝利が必要となるので、一回戦負けは必定だった。
トーナメント表を確認すると三十二チームがエントリーされていた。五回勝てば優勝だ。天命騎士団でいうと、リリアンジェの二十五連勝が条件となる。
どんなチームが出るんだろう? トーナメント表のチーム名を読んでいくも、知っている名はなかった。
「この大会は十年前から開催されていますが、ロエンハイム騎士団が十連覇中です」
「ロエンハイム騎士団……。聞いたことないですね」
「ひらたくいえば、ロエンハイム伯爵の私兵団です。だからこの大会は、ロエンハイム騎士団を騎士団表彰式へ送り込むために開催されているのです。大会自体は軍務省の管轄ですが、開催資金はロエンハイム家がほとんどまかなっているそうですよ」
「はあ」とリリアンジェは息を吐く。「健全な大会とはいえませんね」
「だからこそ、つけいる隙があります。この大会には推薦人が必要ですが、さらに隠れルールがあります。強いチームは参加させない、というルールです」
「B級騎士ひとりに、あとは騎士見習い。だから天命騎士団もエントリーができたと?」
「そのとおり。私たちが全員A級騎士ならば、選考漏れです」ユーマは愉快そうに肩をすくめる。「とはいえ伯爵のチームも、A級騎士をひとり擁する難敵ですよ」
「A級ですか……。真剣勝負の場で格上と剣を交えるのは、久しぶりのことです」ぎらりとリリアンジェはエメラルドの瞳を光らせた。
学徒のうちにB級となってからもうすぐ一年、慢心することなく鍛錬を続けてきた。最近ではユーマとの鍛錬で、魔力による感知が視覚のそれに並ぶ状態にまできている。
ぜひともA級と戦ってみたい! リリアンジェは心を震わせた。




