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天命騎士団、因縁(1)

狩猟祭から十日がたった。


今のところ新しい依頼はないが、ユーマの口ぶりでは護衛ぐらいならそう難しくない、とのことだ。


だから今は、それにそなえて修行の日々が続いている。自身の鍛錬もそうだが、騎士見習いたちを一刻も早く一人前の騎士にせねばならない。


アラタナはあいかわらず修行熱心で、抜群のセンスだ。少年とは思えない体力、鋭い剣の振り、鍛錬に前向きな心構え。今すぐにでも騎士ライセンス試験を受けさせてあげたいぐらいの、実力をそなえている。


ひとつだけ不安要素をあげると、実戦試験においての実力は未知数だ。というのも、木刀での模擬戦だけは、頑として受け入れてくれないのだ。


「これは訓練です」とリリアンジェは何度もいうが、「リリおねーちゃんに振り下ろす剣は、僕の中にないんだよ!」との一点ばりだ。



本日の修行の最後は素振り千回だ。リリアンジェとアラタナはまったく剣筋がブレることなく、やり遂げた。


ユーマはふらふらになりながらも終わらせ、「ひゃー、もうだめー」とその場に転がる。


正直、技も体力も、騎士を名乗るレベルにはほど遠い。それでも、毎日修行を休まないだけまだましだ。


いっぽうのジンは、二日に一度の参加率。しかも自主性はなく、逃げる前に捕まえての強制参加だ。


ジンの素振りにセンスは感じないが、身体能力は高いのでへばることはない。あとは、心と技を鍛えればなんとかなるだろう。


問題なのはカトーだ。いつの間にか消えてしまい、まったく修行ができていない。


「あー、お腹へった! カトーのお昼ご飯、楽しみだなぁ!」アラタナが声を弾ませる。


「そうね」とリリアンジェは応じるが、こころ穏やではない。


食堂に入るとカトーの姿はなかったが、昼ご飯は用意してあった。なんという食べ物かわからないが、白くて太い麺料理だった。


それを黒くてさらさらのソースにつけて食べる。しこしこと喉越しが良くて美味しい。暑い時期にはぴったりだと思えた。


「カトーの料理は珍しくて美味しいね!」アラタナが楽しげにいう。


「でも、カトーはコックではなく、騎士見習いよ。明日こそはなんとしても修行させなきゃ!」


「私としてはカトーがコックに専念してくれたほうが嬉しいですけどね」


ユーマが軽くいうのをキッと睨んでから、リリアンジェはため息を落とした。


カトーにはそのほうがいいのかしら? いくら私ががんばったところで、やる気のないモノまで騎士にしてやることはできない……。


食事が終わって一休みしていると、アラタナが地図の描かれたメモ用紙を渡してきた。


「ねえ、リリおねーちゃん。時間があったらココに行ってごらん」


「ココになにが?」


「カトーがいるはずだよ」


「わかった」リリアンジェは決意を込めて立ち上がった。今日こそは白黒はっきりさせるつもりだった。



地図に記されていたのは、スラムとまではいわないが、貧困街で治安のよくない場所だった。


実際、なんどか男たちに絡まれた。B級騎士だと知ると、逃げていきはしたが。


目的の路地に着くと、『天命騎士団』との垂幕があり、カトーが炊き出しをしていた。そこには、お椀を持った子供たちが多く集まっている。


「カトーはなにを……」リリアンジェはつぶやく。


「ああ」カトーは面倒そうにこちらを見た。「草の根活動ってやつかな。地道にコツコツ、天命騎士団の評判をあげてるんだ」


「……」


「手伝うか?」


「はいっ!」リリアンジェは大きく頷き、カトーのもとに駆けた。


湧きだった釜の中には昼ご飯と同じ麺が踊っていた。


「はいっ」と六歳ぐらいの男の子がお椀を差し出す。


リリアンジェは受け取り、カトーに渡す。カトーは白く太い麺を入れ、黒いソースを注ぎ、リリアンジェに返す。


「どうぞ」と子供に渡してやると、素手で麺をつかみ、アチチッアチチッと苦戦しながらも頬張る。


「はい」「はいっ」「僕も」「はい」


リリアンジェの前へいっせいにお椀が突きつけられた。


「順番、順番!」いいながら、最初にきたお椀を受け取り、カトーへ。カトーも手慣れた手つきで麺とソースを入れて返してくる。


「子供はタダだが、大人は百フェンだ」


「うん」とうなずきながら、リリアンジェは手早く動いた。



一時間もしないうちに釜の中身がなくなり、子供たちはパタリといなくなった。


リリアンジェが受け取ったのは二百フェンだけなので、カトーの料理は、ほとんどが子供の胃袋に入ったことになる。


「毎日こんなことを?」


「今まではたまにだったけど、ユーマがアホほど食材を用意してるから、狩猟祭のあとはほぼ毎日だな」


「アラタナに聞きました。どうして私にはいってくれなかったのですか?」


「誰にもいってねーよ」カトーは舌打ちを落とした。「ユーマが、アラタナに俺の行動を監視させてたのだろう」


どうしてユーマがカトーを監視したのだろう? そんな疑問が湧いたが、リリアンジェが問いたいことは別にあった。


「天命騎士団のために動いていたのなら、その努力を私に伝えて欲しかったです」


「いちいち口にせんでも、俺の天命騎士団愛は、伝わると思っていたからな」カトーは耳をほじりながらいう。


リリアンジェはカトーの手をつかんで近くに引きよせた。「おろかなことに、私はいっさい知りませんでした」 


「ちょっと、顔、近いって!」


カトーが顔をそむけるが、リリアンジェはその方向にも顔をよせていった。


「私はカトーを誤解していました」


「そうか……」


「カトーは騎士になれないと、決めつけてしまいました」


「あっそう、だから、顔、近いって」


「ともに頑張りましょう。午前だけでなく、午後にも修行の時間をつくります」


「ん?」


「よしっ! さっそく今から帰って修行です。私、あきらめません。カトーを立派な騎士にしてみせます」


リリアンジェは取り押さえるようにカトーと腕を組んだ。


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