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天命騎士団、初陣(5)

「遅いですよ、ふたりとも。アイナ様の危機になにをちんたらと」ユーマが不満を口にしたのは瞬間移動した先、屋敷の扉の前だった。アイナはその隣でキョトンとしている。


時守の秘術だ。なんど見ても、目を疑ってしまう。


「な、なんだ」騎士や剣士たちも驚きざわめく。


「ささっ、アイナ様、中に戻りましょう。あとは、我が騎士団が誇る最強の騎士見習いたちにまかせて」


「えっ? えっ?」アイナは混乱した表情を見せるも、ユーマはなかば強引に屋敷の中へ連れ込んだ。


「なにをしているのです! 早くそいつらを殺せ!」無様にひっくり返っていたオガイアは身体を起こし、わめき散らす。


「しかしカトー、侯爵様を殴るかね。あとで面倒だぞ」いいながらジンは、剣士の一閃を躱して顎を蹴り上げる。


「ムカついたんだから、しょうがねーだろ」カトーは答えながら、騎士の突きを手で払い、そのまま顔面を殴りつけた。


「そうだな」ジンも憂さばらしと、たて続けに騎士や剣士をノしていく。「この前みたいに光の槍が出たり、左手が蒼く光ったりしないのか?」


「コイツら相手にそんな必要はない。ジンこそ忍術とやらは使わないのか?」


「ああ。理由はカトーと同じだ」ジンは最後のひとりに回し蹴りを浴びせ、残るはオガイアだけとなった。


「バカな……。うすのろのイラメザ以外は、全員B級だというのに……」オガイアは唖然といった。


「さて、侯爵。覚悟はできているんだろうな」カトーがオガイアの前にたち、剣を拾って振り上げる。


「まっ、まて! なにが望みだ!?」


「金輪際、アイナ様の前に姿を見せるな。あと、天命騎士団のことも忘れろ」


「わかった、そうする、そうする! だから命だけは!」


「ほんとうだな!」


「神に誓って!」


「ウソをつけっ!」カトーは剣を振り下ろす。


オガイアの脳天に直撃し、ゴチンと鳴った。刃を横にしていたので、たんこぶができるていどの一撃のはずだ。


それでも、オガイアは泡を吹いて倒れた。死の恐怖にやられたのだろう。


「いやー、お見事お見事」ユーマが手を叩き、扉から出てきた。


「侯爵に喧嘩売っちまって……これからどうするつもりなんだ? アイナ様の立場はますます悪くなるぞ」ジンがぼやく。


「ジンの手引きで、帝国に亡命させればいい」


「あのなぁ」ジンはカトーを睨む。「……で、本気で侯爵とコトをかまえるつもりか?」


「俺たち以外にコトをかまえてもらえばいいんじゃないか」カトーはユーマを見た。「知り合いに公爵とかいないのか?」


「昔はいたのですけど、ここ百年はさっぱり」ユーマは肩をすくめた。「それよりも、いい方法があります」


「なんだ?」ジンとカトーが声を重ねる。


「私の屋敷に隠れてしまえばいいのですよ。じつはさらに山奥に、もっと広い屋敷があるんです。そこで、みな一緒に暮らしましょう。なになに、男女が二組いるのです。やがて子が産まれ孫が産まれる。カトーとジンの子孫は、私が責任持って末永く面倒みますよ」


「俺たちの孫だとかの与太話はともかく、少しの間雲隠れするのはいいかもしれん、だが、それは天命騎士団に限っての話だ。アイナ様は家を守らねばならない」ジンがいった。


しばらくの沈黙があってから、カトーが口を開く。


「ジンもユーマも本気になれば、なんとかできる算段があったから、この場にきたんだろ。違うのか?」


「時守の名を、なりふりかまわず振りかざしたらね」ユーマは面倒そうに頭を掻く。


ジンにも泥臭い解決策はあった。スパイとしての技術をフル活用し、オガイア侯爵を没落させればいいのだ。多少の時間は必要だが、あのバカが嫡男の侯爵家などおそるるに足りない。


「とりあえずこの件は俺があずかる。だが、失敗したらあとは頼むぞ」カトーがいった。


失敗前提で話を進めるつもりじゃないだろうな? ジンがそれをいう前に、ユーマが先んじた。「この手の問題にたいする、異世界人のお手並み拝見です!」



その後、オガイアたちはユーマが近くの河原まで移動させた。記憶を混乱させておいたので、数日は報復に動くことはないということだ。


「アイナ様にはぐっすりお眠りいただいてますし、今日は解散でいいですかね。あとはカトーにまかせましょう」ユーマがいい、さっと姿を消した。


「あんまり無茶苦茶なことはしないでくれよ」ジンもそう残して、ミューラル家の屋敷をあとにした。



次の日、西区に戻るために、カトー以外が宿屋の前に集合した。昨晩の約束を三人ともすっぽかしたことには多少の愚痴ですましたリリアンジェだが、カトーがいないことについては詰問口調となっていた。


「カトーはどこでなにをしているの!?」


旧友と親交を深めていることにしておこう。ジンがその旨で弁解する前に、ユーマが先に答えた。


「どうしても心配なら、みんなで捜しましょうか?」


「いえ、先に帰りましょう」プイッと顔をそむけ、リリアンジェは歩きだした。



夕方にはユーマの屋敷に到着した。その日、カトーは帰ってこなかった。そして次の日、衝撃のニュースがジンを驚かせた。


ヒルアナ王国第一王子が、アイナ・ミューラルに求婚したというのだ。しかも返答期限は十年だ。


これで十年間は誰もアイナに手を出すことはできない。もちろん、アイナが結婚を承諾すれば永年となる。


そもそも、王族が返答期限をもうけた求婚をするなど、前例にない。まるで、アイナを守るためだけの求婚だ。しかも、ジンが追っている第一王子からの……。


カトーのやつ……第一王子とつながりがあったのか? 俺はなにか見過ごしていたというのか?


ジンは歯噛みした。



そして翌日、カトーが戻ってきた。


「おいおい、カトー! 第一王子とは、いったいどんな魔法を使ったんだ?」ジンは驚いた表情をつくりながら、軽い口調でいう。


ほんとうは痛めつけてでも吐かせたい想いに駆られているが、そうはいかない。帝国のスパイとバレていても、その任務内容までバラすわけにはいかない。


「第一王子って変わり者っていうウワサじゃないか。だから王宮に伝書鳩を飛ばして、頼んでみた」


「バカなことをいうなよ」そのセリフに感情が入りすぎないようするには、努力が必要だった。


「じっさい、やってみたぞ」


「なにっ!?」


「ほら、その返答だ」カトーが見せた厚紙には、『いいよ』とヘタクソな字でかかれ、まぎれもなく第一王子の印章が刻まれていた。


まさか……そんな方法で第一王子と接触可能だったというのか……。


ジンが呆然としていると、リリアンジェの怒声が響いた。


「カトー! 今までどこでなにをしてたのっ!?」


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