天命騎士団、初陣(4)
広い玄関口でアイナひとり、大人数と対峙している。リリアンジェたちとは別行動をとったジンが、その様子を隠れてうかがっていた。
「やあやあ、お久しぶり。ミューラル卿」
三十歳過ぎのやたらと着飾った男がいった。アイナ・ミューラルに求婚して断られた張本人、オガイア家の嫡男であるサハート・オガイアだ。
「お久しぶりです」と静かにアイナが応える。
「さてさて、困ったことがおきた。僕の友だちであるロウゼール卿がお抱えしている騎士たちが、キミの雇った騎士に酷い仕打ちを受けたというのだ」
「そうですか」
「そうなのだよ! ではイラメザ君、もう一度詳しく教えてくれたまえ」
オガイアが話を振ったのは、あのデブだ。
「承知しました、オガイア閣下」デブが神妙な表情で続ける。「ロウゼール様の安全確保のために、一行から離れて活動していたところ、親しげに男が近づいてきました。朝、ミューラル様に挨拶したときに顔を合わせていたので、とくに警戒などはせずに話していたところ、後ろから棍棒でワタクシの腹部を強打したのです」デブがいった。
「なんとっ、なんとっ! 卑怯きわまりない! この責任、どうとっていただけるのか、ミューラル卿」オガイアは歌うようにいう。
「私が知る事実とは異なります。そこの騎士に危害をくわえられそうになり、正当防衛で応じたと聞いています」
「イラメザ君はC級騎士ですよ! それが騎士見習いに痛めつけられるなんて、常識的にありえない! イラメザ君のヒトの良さにつけ込んだ不意打ちがあったのは明白です!」
あのデブが良いヒトときたか……。
ジンはあきれながらも、あらためてオガイア一行を見る。デブ以外には、高ランクであろう騎士と剣士を二十人ほどつれていた。この一晩だけアイナの安全を守ればいいのであれば、彼らを追っ払っうだけだ。正直、簡単なことだ。
だがそうなれば、オガイアはさらに恨みをつのらせ、報復のために後日やってくる。根本的な解決とはならない。
「なにごとです、なにごとです」ユーマが庭の噴水の陰からひょっこりあらわれた。
ジンはため息を落とす。
ユーマが潜んでいることを、ジンは当然のように察知していた。それでいうと、カトーも庭の奥の木に潜んでいるのがバレバレだ。
つまり三人ともアイナの危機を察して、個別に駆けつけてきたというわけだ。
夜は東区の有名レストランに行くこととなっていたが、結果的に三人ともすっぽかしたことなる。
まあ、団長お気に入りのアラタナさえいればいいだろう。そう、ジンはたかをくくっている。
「ユーマさん!? どうしてここに!」アイナが目を見開いた。
「誰です?」と不審がるオガイアにデブが耳打ちする。「なるほど、アナタもミューラル卿が雇った騎士見習いですか。狩猟祭は終わりましたよ。なぜ、こんなところに?」
「アイナ様からの依頼は、本日の護衛です。つまり狩猟のあとも有効なのですよ。だからしっかり、悪い虫からも守ってさしあげねば」
「無礼者!」オガイアが声を荒らげる。
それを合図に騎士や剣士が剣を抜き、ユーマを取り囲む。
「待ってください! 彼の無礼は私が謝ります! だから、剣をおさめてください!」アイナはユーマの前に立ち、両手を広げる。必死の形相だった。
「ほう、どのように謝罪してくれると?」オガイアは手を上げ、騎士と剣士を一歩さがらせた。
「臥せってはいますが、ミューラル家当主から直々に謝罪のため参じます。また、そのさいには御土産の品も受けとっていただきたく思います」
「ほうほう、どのような御土産を?」化粧をほどこしたオガイアの顔がニンマリと崩れる。
「美術品をいくつかと、考えています」
「子爵が持ってる美術品なんてものに興味はないです」オガイアはさらに、自身の家が所有している美術品の素晴らしさや価値を語りだした。
自慢話が落ちついたところで、「土地ではどうでしょうか?」とアイナはいう。
その提案にも辛辣な回答だった。そもそも侯爵家は充分に広くて良い土地を所有している。我が土地に比べると質も量も不足な飛び地など、邪魔でしかないとのことだ。
「では、どのような?」
「わかっているでしょうに、ミューラル卿。あなた、自身ですよ」
「婚姻の件であればお断りしたはずです」
「それはわかっている。だから、ひと晩のお相手てでかまいませんよ」
「……」
「イヤなら別にかまいません。さあ、みなさん! そこの軟弱そうな男をひっ捕らえてください。わが屋に持ちかえり、しかるべき死に様を与えてやります」
ひとりの剣士がユーマの足を払う。いとも簡単にユーマは地べたを転がり、捕縛された。
「おやめください!」果敢にもアイナがその剣士につかみかかる。
「邪魔をするのですか!」オガイアみずからが、アイナに迫る。そして、アイナの宝満な胸を鷲づかみにした。
「なにをするのです!」アイナは突発的にオガイアの頬をぶった。
「みなさん、見ましたね!」オガイアは待ってましたとばかり、声を張る。
騎士たちが機敏に動き、アイナを挟んで、その腕をつかんだ。その前でオガイアが剣を抜き、大きく振りかぶる。
「この一刀は正当防衛です」
「私を殺すというのですか!?」アイナは眼を見開く。
「そもそも今夜はそのつもりで来たのです」オガイアの瞳に、ドス黒い炎が灯った。「下級貴族ごときが私の求婚を断った時点で、万死に値する、思い知れ!」
オガイアが剣を振り下ろす。
その瞬間、アイナが消える、オガイアの剣が砕ける、オガイアの顔面に拳が入る、このみっつが同時に起きていた。




