天命騎士団、初陣(2)
しばらくするとユーマが騒ぎだした。「なんなんです、アイツらは! あーくやしい! なんとかギャフンといわせてやらないと!」
「どうやってだよ」カトーが訊いた。
「そうだ、ジン。アナタがアイツらをぶちのめしてきてくださいよ!」
「俺が? 無茶いうなよ。この広い草原でアイツらがどこにいるかなんて……」
「帝国の特級スパイ集団、『七犬牙』の一員であるアナタなら、簡単でしょ!」
ジンはギョッとした。
そこまで詳しく教えたつもりはないのになぜ知っている? 時守だからか? だとしても、なにをいきなりバラしてくれてんだ!
「あらっ、ジンさん。そんな怖いヒトだったの?」アイナがウフフと笑顔だ。
「まったくユーマの冗談はキツイぜ。俺がスパイ容疑で憲兵に捕まったらどうしてくれるんだ」ジンは肩をすくめて見せた。
「そうだそうだ!」ユーマはジンの返答など見向きもせずに手を叩く。「ドラゴンを狩って、アイツらをビビらせましょう。狩猟祭でドラゴンを仕留めれば、アイナ様の名声は大陸中に響きわたりますよ」
「この草原にドラゴンがいるのですか?」アイナは柔らかい笑みで応じる。
「ここにはいませんが、私なら遠くからおびき寄せることができます!」
「ユーマさんって、愉快なかたですね」
「信じてませんね。よし、実際にご覧にいれましょう」
世界最高峰の魔導士である時守なら、ほんとうにやりかねない……。
ジンはユーマの背中を小突いて囁く。「狩猟祭が終わったらアイツらを痛い目にあわせてやるから、少し落ちつけ」
「今年度一番の痛い目にあわせるように」ユーマはニンマリ。
カトーもクセが強いが、コイツもなかなかだなと、ジンは薄くため息を漏らす。ふと、アラタナが目に入ると、こちらの苦労をさっしたかのように、ウンウンとうなずいていた。
おお、同士よ! との感想はもちろん、心の中での戯言だ。
獲物の気配はなく、正午を越えた。リリアンジェと談笑していたアイナが会話の流れで、「カトーさんのお弁当! ぜひともいただきたいわ!」といいだした。
「承知しましたが……アイナ様のお口にあうかどうかは……」
「『様』は禁止といったでしょ、リリッ!」アイナが口を尖らせる。
「でも……それは……」
「じゃあ、私もリリアンジェ様って呼んでやろうかしら?」
「わかりました……アイナ」
「そうそう」とアイナは柔らかい笑みで、サファイアの瞳を煌めかせた。
好意を向けたモノにしか、この蒼い輝きは舞い降りないことを、どこぞの侯爵閣下は理解するべきなのだろう。
アイナが望んだので、草原で布を敷いての昼食となった。リリアンジェが馬に背負わせたリュックから弁当をだす。前日にカトーが作ったカレーという異世界料理だった。
カトーが求める食材は、ユーマがなんでも用意した。その見返りに、この世界にはない料理をカトーは披露する。
ユーマは永く生きてきて初めてのモノに、いたく感動するたちだった。そして最近のカトーは、ユーマの屋敷のコックになりつつある。それを理由に修行をサボることも多く、リリアンジェは憤慨していた。
「まあ、はじめて食べますわ! それに美味しい!」
「そうでしょう、そうでしょう」とユーマが自慢げにいう。実際に調理したカトーは無関心な表情だった。
昼食が終わり、再び草原をゆく。シカと遭遇した。かなりの大物だ。
「アイナ! 早く弓を!」そうリリアンジェは急かすだけだ。護衛の騎士は狩を手伝ってはいけない、そういう決まりとなっている。
「ええ」とアイナは弓を引いて放った。
矢はうまく飛ばず、少し先にポトリと落ちた。もう一度弓を引くが、すでにシカの姿はない。次に獲物とでくわしたとしても、アイナの腕では成果など期待できそうになかった。
日が傾いてきた。そろそろ終わりに近い。もちろん獲物はゼロだ。
「そろそろ戻りましょうか?」
アイナがいった直後に、ヒュンと弓矢が近くをとおりすぎる音。アイナが乗る馬の尻尾を矢がかすめた。
矢が放たれた方向に視線をやると、散々な態度をとったふたりの騎士と狩猟犬がいた。
「いやー失礼、失礼。獲物かと思って」デブのほうが、からかう態度でいう。
「なんて危険なことを! 怪我をしたらどうするのです!」アイナは語気を強める。
「だから、謝ってんだろ!」ガリガリがキンキン声で怒鳴る。
「ほら、お前も謝れ」デブが狩猟犬の頭をなでると、犬は駆けだしてアイナの前でギャンギャン吠える。
それに驚いた馬は大きく鳴いて、アイナを乗せたまま走っていった。犬もそれを追いかける。馬が逃げた先は背の高い草が生えているエリアで、トラがいる可能性が高くなる。
リリアンジェはすぐさま、もう一頭の馬から荷物をおろして自身が乗り、アイナを追いかけた。
「アラタナ! あなたも追ってください!」
ユーマの言葉にアラタナは頷き、駆けていった。




