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天命騎士団、初陣(1)

リリアンジェと修行しているはずのユーマとアラタナが、すぐに戻ってきた。


「今日の修行は中止になりました。団長がここに引っ越してくるので、明日からは屋敷の庭で修行することになります」


「どーせ、お前が煽ったんだろ」忌々しそうにカトーがいう。


「事実をいったまでです」


「勝手に借金返済したこともいったのか?」ジンが訊いた。


「それはすでに昨日伝えてあります」


「怒っただろ、団長」


「ええ。でも、私に銀行と同じ利子で返済するということで、納得してもらいました」


「団長はアホだから、ユーマへの返済に困ったら、また銀行に借りよるぞ」カトーはいって、グラスを傾ける。


「そうなれば、また私が勝手に返済するまでです」


「団長がくるなら、この屋敷から出ようかなぁ」カトーがぼやく。


「おやおや、時守の秘術を探りたくてきたんでしょ。もう諦めるのですか?」ユーマが肩をすくめると、カトーは口をへの字にした。



ジンがここに住むと決めたのは、カトーとは少し違う理由だった。時守が秘術を死んでも明かさないのはわかっている。時守との貴重なコネクションを維持できればそれでいいのだ。


とはいえ、この屋敷にいても本来の任務に近づくでもない。少し遠方に行って情報収集しようかと思いはじめた矢先に、入口のほうが騒がしくなり、食堂に駆け込んできたのはリリアンジェだった。


大きなリュックを背負いながら肩で息をしているリリアンジェは、エメラルドの瞳をギラつかせた。


「カトー! ジン! 修行しましょう。今すぐにっ!」




天命騎士団全員がユーマの新しい屋敷に住むようになって一週間、狩猟祭はやってきた。


ジンたちは王都東区に前日入りし、朝早くに王都東門近くに集まった。そこではじめて、くだんの令嬢と顔を会わせた。


「はじめまして、アイナ・ミューラルです。アイナと呼んでください」


アイナは優しげな表情の美人だった。長い黒髪に蒼く澄んだ瞳も涼やかだ。


「はじめましてアイナ様。天命騎士団団長、リリアンジェ・アールメィです。左からユーマ、アラタナ、ジン、カトーです」


「リリアンジェさん、みなさん、本日はありがとうございます」貴族だというのに、親しげに話してくる。


「いえいえ、そんな、お礼なんて」リリアンジェは首を振る。


「でも、みなさんに謝らなければならないことがあります。おそらく今回の狩猟祭では、イヤな目にあうと思われます。それだけならまだしも、危険なことすらあるかもしれません」アイナが視線をアラタナに向けた。「アラタナさんはお留守番とさせていただけないかしら?」


「お気遣い、感謝いたします。ですが、見習いではあるものの、アラタナは立派な騎士道の持ち主です。かならずやアイナ様の力になるでしょう」


「みなさまが、素晴らしい騎士道をお持ちなの?」


「もちろんです」そう答えたリリアンジェはカトーに一瞬だけ視線をやって、表情をやや引きつらせた。



東門を出てすぐのところに、会場が設営されていた。東区に住居をかまえる三十人の貴族、その七倍の騎士、さらに七倍に膨らんだ一般の見物客。多くの出店もあり、祭りは大盛況だ。


東区公爵、グラッドル家当主が挨拶し、まもなく猟を開始すると告げる。


この狩猟祭は獲物の数ではなく大きさで競うことになる。だから狙うのはウサギなどの小物ではなく大型のシカだ。稀にトラも出没するので、運と実力があればさらに大物を手に入れることができる。


もうすぐ出発というところで、騎士がふたりやってきた。四十歳ほどの太った男と、ガリガリのネズミみたいな顔をした男だ。


「おやおや、アイナ様。ずいぶんと貧相な騎士たちをお連れですな」太った男がニヤつきながらいう。


「彼女たちを悪くいうのは許しませんよ」


「どう許さないというんだ、あぁぁん?」ガリガリのほうが甲高い声で目を剥く。


「……」


「結局だんまりかよ」太った男がペッとリリアンジェにツバを吐きつけ、戻っていった。


「ああ、リリアンジェさん……」泣きそうな顔でアイナはいう。


「問題ありません」リリアンジェは頬にかかった唾液をハンカチで拭った。「彼らが、オガイア侯爵の騎士ですか?」


「いいえ。その取り巻き貴族の騎士です」


「そんなモノまでがアイナ様を!?」


「私を侮辱すると、オガイア侯爵にお小遣いがもらえるそうです」アイナはいいながら馬に乗った。「お気を悪くさせて申しわけありませんでした。さあ、まいりましょう」


リリアンジェは一瞬悔しげな表情を見せるも、大きな荷物を載せた馬を引き、アイナのあとに続く。ジンたちもその後ろをゆく。


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