天命騎士団、対決(5)
「ゴーレム!?」
「ちゃんとライセンスは取ってませんが、私の実力はC級ランクの魔導士と同列なんですよ」
「へえ……」
「そういうわけで、さっそくコレと戦ってもらいましょう」
「お安い御用です」
リリアンジェは木刀をかまえると、ドスドスとゴーレムが迫りきて拳を振り抜く。
華麗に躱して木刀を一閃。ゴーレムの胴をまっぷたつに叩き割った。
「うーん、私が修行するには、ちょっと弱すぎるかな」
「そうですか?」
「はい。私は私で、毎日ちゃんと鍛錬していますから、心配無用です」
「でも、これで団長の課題がはっきりしましたよ」
「え?」
「ゴーレムの攻撃を躱す動きが視覚に頼りすぎています。そこに魔法探知も組み込むべきです」
「いえ、私は魔法剣士ではないので……」
「走るのが速い遅いはあっても、まったく走れない人間はいません。それと同じように、魔法もまったく使えないという人間は少ないのです。実用的でもある火を出す魔法の敷居は高くても、火を感知する魔法は案外簡単です」
「はあ……」
「では、実践してみましょう」ユーマはリリアンジェの肩をつかみ、なにかつぶやいた。
瞬間、振動がどっとリリアンジェを襲い、その後はナニかがぐるぐると体内で暴れだした。
「これは!?」
「団長の眠っていた魔力をたたき起こしました。今どんな感じですか?」
「なんでしょう……妙な焦燥感と……なにか得体の知れないものに届きそうで届かない感覚が……」
「その得体の知れないものが魔源です。そこに手が届いてこそ、魔導士を名乗ることができます」
「あの、私は……」
「ゴーレムを見てください。いまなら感じるはずです」
すでに元どおり戻ったゴーレムがのっそり近づいてくる。そのようすを、肌で感じるような奇妙な感覚がある。
「あの……妙な表現かもしれないけど……ゴーレムを感じます」
「団長の魔力が辺りに延びています。さながら木の根っこのように。その魔力にゴーレムが接触したのです」
ゴーレムが腕を振り下ろしてきた。それは魔力でも感じてはいたが、結局今まで培ってきた騎士の技術で、リリアンジェは避ける方向と剣を振るタイミンを決めた。
先ほどと同じく、ゴーレムの胴を分断する。
「情報が多くなったせいで、動きが若干悪くなりました。ですがそれは鍛錬あるのみです。魔力探知が騎士のそれに追いつけば、団長の判断力とそのスピードはさらに上がるでしょう。また、暗闇でもパフォーマンスが落ちることがなくなります」
「はあ……」リリアンジェはあっけにとられながらも、頷いた。
「さて、もう一回です」ユーマの隣で、すでに胴のつながったゴーレムがゆっくり起き上がる。
次の日も、ジンとカトーは欠席したままの修行となった。
やはり、アラタナのセンスは抜群で、リリアンジェは嬉しくなった。
続いてリリアンジェの鍛錬もユーマ指導で行われた。騎士見習いに、逆に教えを乞うのもどうかと思うが、ユーマはC級魔導士相当ということで、そこは気にしないことにした。
じっさい、ユーマの教えのおかげで、自身が成長しているとの手応えがあった。
昼も近くなり、本日の修行の終わりを告げた。
「明日も頑張ろうね、リリおねーちゃん!」
アラタナが笑顔でいい、リリアンジェの頬も緩む。だが、次のユーマの言葉で真顔になった。
「屋敷を購入しました。一緒に住みませんか? 庭が広いので、修行もできますよ」
「いや、住むのはちょっと……」
「アラタナはもちろんですが、カトーとジンにも声をかけたら、一緒に住むことになりましたよ」
「えっ!? あのふたりが!」
「はい、だから団長も……ああ、ひょっとして家賃とか気にしてます?」
「えと、その」混乱から言葉が出ないでいると、さらにユーマがとんでもないことをいった。
「お金の心配はいりません。団長の借金も私が返しておきました」
「なっ、なんて勝手なことを!」怒りと驚きで声が震えた。
「借金をかかえた騎士団にいるのなんて、私はイヤですから」悪びれもせずにユーマはいう。
「ごめんね、リリおねーちゃん。ユーマってすごくワガママなんだ。あとで叱っておくね」
アラタナの天使のような声のおかげで、なんとか冷静になったリリアンジェは、銀行と同じ利子を取るよう、ユーマにいいわたして解散とした。
さらに次の日も、ジンとカトーは来なかった。ほぼ詰問口調で、「どういうことっ!?」と、ユーマに投げつける。
「ジンは二日酔いです。カトーは夜呑んで、さらに朝からも呑んでます」
「ジンは騎士見習いとしてあるまじき態度です。カトーにいたってはもうヒトとしてダメじゃないですか! どうして、注意しないのですかっ!?」
「私は衣食住を無償で提供してはいますが、それにたいして条件をつけてはいません。だから、私のいうことをきく筋合いは、あのふたりにはないのです」
「でも、同じ騎士団の仲間でしょ! 注意してあげなくちゃ!」
「団員どうしでそういったことをすると、内輪もめの火種となります。やはりふたりを指導する立場のモノ、つまり団長がなすべきだと考えます」
たしかに正論なんだけど……。まるでカトーと話してるみたい……。
そう、うんざりとしたところで、ユーマがまた爆弾を落とした。
「それよりも、さっそく騎士団の仕事が取れましたよ」
「えっ!?」
「来週、東区公爵主催で狩猟祭があります。そこで子爵令嬢の護衛を頼まれています」
「狩猟で貴族令嬢の護衛!?」
「そのわりには、報酬はやや寂しい額となってしまいましたが、まあ、のんびりと実績を積み上げるところからはじめましょう」
「のんびりなんてしていられないわっ! もし天命騎士団が未熟なせいで令嬢になにかあったら……」
「天命騎士団の行末のため、カトーに首輪をつけてでも修行をさせるべきです。そのためにも、一時的にでもいいから、私の屋敷に来てください!」
「……いいえ、ユーマ」リリアンジェは首を振る。「申しわけないけど、この話はお断りしてください」
「失敗して、天命騎士団の経歴に泥を塗るのがイヤなのですか?」
「そうではありません。私の騎士道では、令嬢の安全が第一優先です。残念ですが、今の天命騎士団にはそれをなせる実力がないのです」
「しかし、天命騎士団が断ると、令嬢はひとりで、魔獣のすむ草原に放りこまれることになります」
「……どういうことです?」
「わかりやすくいうと、団長と似たような立場にいる令嬢なのです。護衛を引き受けてくれる騎士団はいません」
「私と似てる……ということは……」
「その令嬢は、悪評高いオガイア侯爵からの求婚を断りました。それからというものさまざまなイヤガラセを受け、ついに当主は病に倒れ、今は御令嬢が孤軍奮闘しているのです!」
「なんですって!」リリアンジェの心に炎が灯った。




