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天命騎士団、対決(1)

次の日の朝、みなが集まっての朝食となった。パンとチーズと羊のミルク、さらに数種類のフルーツを堪能してからしばらくして、四人が門の前に集まった。アラタナを除く四人だ。


「では、参りましょう」ユーマの先導で森の中を歩く。穏やかな森で、魔獣の気配はなかった。


森を抜けると、雄大な岩壁が迫る狭路が続いていた。


「遠いのですか?」リリアンジェがいった。


「うーん、どうでしょう。そろそろいそうな気もするのですが……」


ユーマの言葉が聞こえていたかのように、岩陰から巨体があらわれた。


成人男性ふたり分はあろう身長に、クマのように分厚い身体、顔は獣ではなく人間のものだが、目が釣り上がり口もやや裂けていて、人間離れした獰猛さがある。肌は青みがかっていて、冷酷なイメージも湧く。


「さがってください!」リリアンジェが剣をかまえ、「はあああぁぁ!」とうなりながら気力をためる。


ジンは氣の流れを見て、相手の力量を把握する。カトーやユーマは不気味なくらい低い評価となるが、リリアンジェは素晴らしい素質と内存するパワーを感じる。鍛錬に励めば、A級となるのも遠い先ではないだろう。いっぽうの魔人は、B級が束になってかかっても、どうにもできない存在だった。


A級なら十人ほどいればなんとかなるだろうか? いや、たぶん無理だろうと、ジンは首を振る。


ギリノス帝国もヒルアナ王国も、B級より上はA級とさだめているが、その幅は広い。B級からなんとかA級になりあがった騎士も、もはや生きる伝説となっている世界最強の帝国騎士も、同じA級なのだ。つまり、A級より先に公式なランク付けはない。


ただ、普通のA級とは一線を画すモノたちの存在は民衆も知っており、好き勝手に命名する。レジェンド級であったり、S級であったり、Aプラスであったり。


そういったなかで、ジンは「Aプラス」の呼称を採用している。だが、民衆が傑物を楽しく語るのとはわけが違い、ジンの場合は戦うことを想定したランク付けだ。だから、Aプラス1、であったり、Aプラス3などの評価をつくり、それでもって戦略を立てるのだ。


そしてジンの見立てでは、魔人はAプラス5。自分と同格だと評価している同僚の赤髪女はプラス8。まだ余裕はあるので、自分は防御に徹しながら、カトーの戦いぶりを観察してやる腹づもりだ。


ともあれ、魔人がリリアンジェの手におえる存在ではないのは間違いない。魔人に殺されないように、当身で静かにさせておこう。そう決意した直後に、彼女はグニャリと崩れて地べたに転がり、寝息を立てだした。


「おふたりの邪魔でしょうから、眠らせました」ユーマがニコリと笑みを向ける。「さあ、これでリリアンジェ様に知られることはありません。ご存分に自分の力を発揮してください」


「バカバカしい、逃げるぞ」カトーが団長を背負い、踵を返す。


「つれないこと、いわないでください」ユーマが腕を振ると光の壁が退路を塞いだ。


かなり高度な光魔法だ。あの壁を突破するには、相応のスキルが必要となるだろう。自分ひとりならなんとでもなるが、意識のないリリアンジェだと無事ではすまない。命にかかわる事態も否定できない。


魔人がのそりと歩き、近づいてきた。眠りについてるリリアンジェに近づかせたくはない。


ジンは魔人に駆け、拳を振り抜いた。するりと躱した魔人だが、追随する風の拳を全身に浴びながら後退していき、やがて遠く後方の岩壁にめり込み、さらに岩壁を崩して魔人を生き埋めにした。


「風遁、紫陽花崩し」


「忍術? 久々に見ました」ユーマが愉快そうにいう。


「奇妙な移動術は忍術だとほざいてなかったか?」


「失礼。まさかホンモノの忍者がいるとは思わなかったので」


「じゃあ、アンタの移動術は忍術じゃなきゃなんだっていうんだ?」


「それは、秘密です」


「アンタ、時守(ときもり)だろ」ズバリとジンはいう。


「ふふふ。お見事、正解です」


「やはりそうか」カトーがリリアンジェを岩の陰に隠すように降ろしながらいった。「世界の行末を見守る不老不死の一族。この世で唯一、時空魔法というものを使う。魔導士としても世界最強ランクで、他の追随をゆるさない……らしいな」


「はいはい。本に書いてることですね。まあ、だいたいは合ってます」


「俺としては、ぜひとも時空魔法について教えてほしいものだ」カトーがユーマを見据えた。


「我が一族の秘事です。誰にも教えるわけにはいきませんよ」


「無理やり聞きだしてもいいんだが」


いつになく好戦的なカトーに、ジンはやや驚いた。


「やれやれ……。時守とわかってて喧嘩を売られたのは、いつ以来でしょうか……」


「『異世界人』には、時守の偉大さがわからないんじゃないのか?」


ジンはカトーの正体にも、前口上なしに踏み込んでみた。


「ほう」と反応したのはユーマで、カトーは無言だった。


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