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天命騎士団、救出(3)

「さあっ! 早くここから逃げましょう!」


「いや、でも、もうすぐ……」


「『もうすぐ』なんですか!?」


「持ってきたよ、カトー」十歳ほどの可愛らしい少年が、銀のカップを運んできた。


「ああ」と受けとり、カトーは口に運ぶ。


「それにしても、こんな朝からお酒なんて……」少年が呆れた口調でいう。


『もうすぐ』というのは、もうすぐ酒が来る、ということだったらしい。


「……あのー、アナタは……」リリアンジェはカトーの前から一歩さがり、少年に視線をやった。


「僕はアラタナ。この屋敷の主人の友人みたいなものかな。おねえさんは?」


「私は天命騎士団団長、リリアンジェ・アールメィです!」


混乱しているのだろう、リリアンジェは大声で名乗る。


「カトーの友達?」


「カトーの上司です! カトーを助けにきました!」


「助ける? なにから?」アラタナと名乗った少年が、一気に呑み干しておかわりをしてきたカトーを一瞥しながら問う。


「ご、拷問とか、から……」


「拷問?」わざとらしくアラタナは首をかしげて見せて、「同じお酒でいいよね」とカトーに返して屋敷の中に入っていった。


「今のうちです! 逃げましょう!」


リリアンジェがカトーに迫るなか、ジンはため息を呑み込んだ。


「でも、おかわりが……」


「……おかわり?」


しばらくの沈黙のあと、アラタナが戻ってきて、カトーの前に銀のカップを置く。カトーはすぐさま口にやって、プハーと息を吐く。


「えっえっ! なんでお酒?」リリアンジェはようやく、この状況に気づいたようだ。


「俺のことよりダンチョー、その小汚いナリはなんだ? 野良犬のほうがまだサッパリしてるぞ」


「バカァー!」


リリアンジェのビンタが炸裂し、カトーは宙で二回転して手入れされた芝生に転がる。拷問どころか傷ひとつなかったカトーの頬に、リリアンジェの手形がくっきりと浮かびあがった。



少しの間失神していたカトーが目覚めるころに、くだんの男が姿を見せた。歳は三十前後だろうか。ほっそりとして柔和な顔つきだ。


「これはこれは、ようこそ」身分の高さを感じさせる優雅な所作で、男はイスに座る。


「カトーをさらっておいて、ずいぶんな態度じゃないか」ジンはいいながら肩をすくめて見せたが、最大限に警戒していた。


「そうです、そうです、そうです! アナタはいったいナニモノなんですか!?」興奮気味にリリアンジェは男を指差す。


「ユーマと呼んでください」


「カトーをさらった目的は!?」


「ゆっくり話がしたかったんです」


「話がしたいだけなら、あんなことをする必要はなかったはずです!」


「はい、そうですね。申しわけありませんでした」ユーマと名乗った男はあっさり頭を下げてから、アラタナに視線をやった。「みなの分のお茶を」


「僕は召使いじゃないよ。自分でやりなよ」


「そうですね」ユーマは立ち上がり屋敷に戻っていく。


「あっ、俺は酒で」そうカトーが投げかけるのを、キッとリリアンジェが睨んでいた。



お茶とお酒が全員にいきわたり、ユーマが話を続けた。


「いやー。こんな寂しいところに住んでいると、たまには話し相手が欲しくなるんです」


そんな与太話を信じろというのか? そう呆れたジンだが、口は出さないことにした。


「だったら、そう相談してくれたらよかったのです」与太話にもリリアンジェは真面目に返す。


「そうですね。かさねがさね申しわけありませんでした。なにぶん私はテレ屋なものでして」


「ヒルドに私の邪魔をするように頼まれたのではありませんか?」


イッカクオオカミはヒルドのさしがねだったことは調査済みだが、この男、ユーマはまったく違う目的のはずだ。そう、ジンは踏んでいる。


ズバリ、カトーの正体を突き止めることだ。


「ヒルドとやらは関係ありませんよ。カトーに聞きましたが、アナタを目の敵にしてる酷い男のようですね」


「……」


「よろしければ、私が騎士団としての仕事を紹介しましょうか? 帝国と停戦して二十年、騎士団の仕事も限られてきました。じつは私、知りあいの貴族は多いのです。旅の護衛などであれば、すぐにでも」


「調子のいいこといわないでください」


「いや、ユーマさんにお世話になろうじゃないか」ジンがいった。


「ほう」とユーマは笑みを向ける。


「ちょっと! 勝手なことをいわないで!」


「いいじゃないか、団長。こんなきっかけがないと、天命騎士団は冒険者パーティーから抜けだせないぞ。どこかで勝負にでる必要がある」


「カトーをさらったことに、私はまだ納得していません!」


「ユーマさんは謝ってるぜ」


「私は天命騎士団の団長として、団員の命をおびやかすような行動をとったモノを信用はしません!」


「そうですか……」ユーマは残念そうに首を振った。


「はい。さらにいうと、私への恩恵をチラつかせるような発言も、不快に感じています」


「なるほどです……」


「ジン、カトー」リリアンジェが席を立つ。「帰りましょう」


「そうだな」とカトーも、酒を呑み干してから、立ち上がった。


「待ってください。じつは私、困っていることがあるのです。助けてもらえませんか?」とってつけたようにユーマがいう。


リリアンジェが無視したので、ジンが「なんだ」と応じた。


「最近話題になっている魔人のことです。この屋敷に来たらどうしようと、怖くて怖くてろくに眠れてません」


「ユーマさんが困っているってさ、団長」


「……知りません」


「ダンチョー! 助けてやろうぜ!」ジンが食い下がると、カトーが近くに来て「なにをたくらんでる」とボソリ。


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