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天命騎士団、冒険(5)

次の日、ロッドとエルザはリリアンジェが指定した広場で会った。


まず初めに、リリアンジェは怪我の様子を気にかけてくれた。それには謝辞を返し、本題に入る。父が危篤でしばらく実家に帰ることとなり、騎士団への合流が遅れる旨を告げた。


「そんなこと気にしないでください。それより私にできることはありますか?」


「いえ、お気づかいなく。父は長く病気で臥せっていました。すでに覚悟はしていたことです」


「そう……ですか」


「それよりリリアンジェ殿、妹のエルザがアナタにお話したいことが」


「なにかしら?」


「まずは、私を救ってくださりありがとうございます。リリアンジェ様」エルザはまっすぐにリリアンジェを見て、スカートの両はしを持ちながら膝を少し曲げる。


「エルザが無事でなによりです」リリアンジェも騎士式の挨拶で答えてくれた。


「さっそくですが、私を天命騎士団の一員としてください」


「ロッドにそうお願いされたの?」


「これは私の意思です。リリアンジェ様のもとで、ともに進んでいきたいのです」


「ありがとう。でも、本当にロッドが強要したのではないのよね?」


「はい。自分のことは自分で決めます。私はずっとそうしてきました。これからもそうです」


「わかりました。でも、ひとつ条件をつけていいかしら」


「はい。おっしゃってください」


「私のことは『リリ』って呼んで。あと、敬語もなしにして。エルザとは、そういう仲でいたいの」


「わかったわ、リリ」即座にエルザが応じる。


少しは遠慮だとか躊躇だとかの態度を見せてほしいものだと、ロッドとしてはヤキモキした。


「では、ようこそ! 天命騎士団へ」リリアンジェが手を差し出す。エルザもその手を握った。


「リリ、さっそくだけど、訊きたいことがあるの」


「なに?」


「私、カトー様に結婚を申し込むつもりだけど、いい?」


「ダメダメダメッ! なんでなんでなんで!?」リリアンジェはエルザの手を離し、アワワと踊るようにいった。


「わかったわ。じゃあ、リリとカトー様の未来を祝福するわ」


「えっ!? なに、どうゆうこと?」


「はじめから決めていたの。リリとカトー様が恋仲にあるなら、私はあきらめて、全力でふたりを応援すると」


「私とカトーが恋仲なんて、ありえないからっ!」リリアンジェの表情に照れ隠しなどなく、ただ本気で怒っているようだった。少なくてもロッドにはそう見えた。


「じゃあ、リリの片想いなのね。でも安心して、横恋慕なんてせずに、片想いでもちゃんと応援するから」


「片想いっていうのすらありえないからっ!」リリアンジェが怒鳴る。


「だったら、なぜ私の求婚に反対するの?」


「エルザとカトーじゃ、釣り合わないじゃない!」


「私は平民の出だけど、カトー様は貴族なの?」


「カトーが貴族なんてありえないわ!」


「じゃあ、身分違いではなさそうね」


エルザが嬉しそうに首を縦に振り、リリアンジェはぶんぶんと横に首を振った。


「エルザはこんなにも若くて可愛いのよ! いいヒトなんて探せばいっぱいいるわ。あんなオッサンにはもったいないっ!」


「でも私は、カトー様がいいの」


「どうして! どうして! どうして!?」


「カトー様の騎士道に感動したからよ」


「カトーの騎士道!? そんなものいったいどこにあるというの!」リリアンジェは目を剥いた。美しいエメラルドの瞳が露わになる。


「兄が暴言を吐いたあとに、カトー様はいったわ。それでも、私たちを助けるって。あの場、あの状況であのセリフ、聖人かと思ったわ」


最後の最後でエルザの命を救ったのはカトーだが、それをエルザは知らない。誰にも喋らない、それがカトーとの約束だったからだ。


だからエルザは、邂逅時のその一言だけで二十ほども離れたカトーにゾッコンとなっており、今回の救出劇がなくても、やがて求婚する予定だったという。


そうなれば、さすがに兄としては反対したはずだが、いかんせん妹は兄の忠告など虫の鳴き声ていどにしか思っていない。結局は、認めざるをえなかったのであろう。


だが、今の状況は違う。カトーあってのエルザの命だ。反対するつもりはない。


その代わりといってはなんだが、リリアンジェが必死に反対してくれていた。


「カトーが聖人なわけないじゃない! 目を覚まして、エルザ! お願いっ!」


「聖人よ。すべてを赦し、すべてを愛さないと、私たちを助けるなんていわないわ」


「それをいうなら、実際にエルザたちを助けたのは私よ! でも私は一介の騎士、聖人なんかじゃないわ!」


「もちろん、リリには感謝してるわ。でも、同じ状況にいれば私も同じことをした。リリが酷く傷ついているのに、光魔法を使わずに見捨てるなんてありえない。もし、兄がリリを本当に見殺しにするようであれば、家族の縁を切ったし」


「それは、その……」


「ヒルドの件もそう。命を救うためなら私も迷わずサインしたわ。たとえ、冒険者ライセンス剥奪が条件でも」


「……」


「私のなかでは、困ったひとは助ける。それは当然のこと。リリもそうなんだよね」


「まあ……その……」


「でも、カトー様は違うの。まだ困ってもいないのに、助けるといってくれたのよ!」


「カトーの言葉は、ただの皮肉よ! 聖人なんかじゃない!」


「ただの皮肉で、あの場をおさめたの? カトー様ってすごい! 聖人じゃなくて賢者なのかしら?」


「どちらでもないしっ!」地団駄を踏んでから、リリアンジェはがっくり肩を落とす。「ねえ、ロッド……。どうしたら、エルザの眼を覚ますことができるの?」


「実家に戻っている間に説得するつもりだ」リリアンジェの手前ではそういったロッドだが、無駄な努力をするつもりはなかった。


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