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ピクニックなんて何年ぶりだろう?
ケネスが社交界にデビューして例のランチ会が解散になって以来だから……
四年ぶり?
あの時、週一といえど毎週お弁当作るのは本当に大変だったんだけど、久しぶりだと楽しいな。
ご飯を焚いて、おむすびにして、具は焼き鱒と、ツナマヨと、あと何にしよう。
たまごはかつお出汁を聞かせた出汁巻、それから唐揚にしようかな? それとも一口コロッケ? あ、一口ハンバーグなんかもいいかも。
デザートには栗の甘煮があるから栗羊羹かな。
あとは……
「お嬢様、楽しそうですね」
邸に戻るとすぐに食材を確認しながら、できるものを考えていたら、すかさずケイトに言われた。
「久しぶりだもの」
あたしは答えるけど、それだけじゃないような気がする。
どうしてかわからないけど、なんだかわくわくしている。
お弁当は何度も作っているけれど、こんなの初めて。
キッチンでケイトと二人、お米を計り、具材やおかずの材料を用意して下準備していると、突然ドアがノックされた。
「お嬢様、ケネス殿下がお見えです」
顔をあげ返事をすると、表務めのパーラーメイドが言ってきた。
「へ? 何かの間違いじゃ…… 」
もう晩餐近くの時間になっている。
こんな時間に予告もなく人のおうちを訪問するなんてマナー違反も甚だしい。
「間違いじゃないよ」
子供の頃と同じように案内も請わずにケネスはふらりとあたしのキッチンに顔を出した。
「えっとぉ、何か御用でしょうか? 」
とは言え相手は王子様、無下にはできないからとりあえず用事を伺う。
「ちょっと仕事でこの近所まできたんだけど、これから帰ると遅くなるだろ?
だから、ロレッタに何か食べる物作ってもらおうかと思って、ね? 」
いつものような、あの「嫌」とは絶対言えないような笑顔を向けられた。
何が「ね? 」だよ。
「ああ、気を使わないで、簡単なものでいいよ。
久しぶりにおむすびなんか食べたいな」
調理台の上に広げた材料を目にケネスは注文してくる。
「あのね、ケネス。
おむすびは、ご飯今から炊かなくちゃならないから、時間が掛かるんだけど? 」
正直サンドイッチでもさくっと食べて帰って欲しいんだけど。
「いいよ。待ってる。
どうせ、皆が揃うまで暫く掛かるし」
「皆? 」
「そう、此処にはとある人物の護衛に来たんだ。
だから僕の他に部下が五人、今からくるけど構わないよね? 」
嘘でしょう?
この時間にいきなり来て、しかも六人分の食事を作れって?
お父さまだって、そんなこと一度もしたことがないのに。
いくら何でも非常識でしょうが!
と、叫んで追い出したいけど、できないところが痛いよね。
何しろ相手は王子様で、おまけに国の治安を守る騎士のお仕事の真っ最中。
断って追い出したりしたら、それこそスタリナール侯爵家は国中から白い目で見られる。
……仕方ない。
「わかりました。
暫くお時間下さいね」
言い置いて重い腰を上げる。
「あ、それとね。
僕達今夜、夜警の当番なんだ。
何か夜食になるようなもの、サンドイッチでいいから、これも六人前、いや他のヤツも居るからもう少し沢山作ってくれると嬉しいな」
お米を研ごうと思ったら、背後から言われた。
後ろで見えないからだけど、ケネスはやっぱりいつものあの笑みを浮べているんだろう。
おまけに「嬉しいな」って脅迫文句……
何回いわれても慣れない。
「お嬢様、お米はわたしが…… 」
ケイトが慌てて手を出してくれる。
「ありがと。
お米はわたしがとぐから、お母さまに事情を説明して晩餐は後でいただきますって言って。
それから、ダイニングを使ってもいいかって訊いてきて。
あと、モリーに応援を頼んでもらって。食材、おむすびの具になりそうなものとサンドイッチの材料適当に持ってきてくれる? 」
六人分となるとさすがにパントリーから何か持ってきてもらわないと、このキッチンにある材料だけじゃ到底足りない。
言いつけて、あたしはご飯を焚く準備に掛かる。
お米を研ぎきらないうちにモリーが来てコンロと竈に火を入れてくれた。
「お嬢様、奥様がコールドビーフを下さいましたよ」
程なく食材を持ってケイトが戻って来た。
よっし、サンドイッチの具一品確保。お母さま感謝。
ご飯が炊ける間に、お魚を焼いて玉子を茹でて……
唐揚にしようと思っていたチキンは薄切りにして焼く。
マヨネーズを作ってツナを和える。
野菜を洗って水を切る。
等々、おむすびとサンドイッチの具を同時に準備。
ご飯が焚けたところで、ケイトと二人でおむすびを握る。
それが終わるのと同時に、まるで時間を計っていたかのようにケネスの部下が来たと、表から知らせが入った。
「ふぅ、終わりましたねぇ」
ケネスとその部下が食事を終えて帰ったところで、ケイトが散らかったキチンで大きな息を吐いた。
「……本当にケネス殿下は何をお考えなんでしょう? 」
「さあ? 」
あたしは首を傾げる。
少なくともこっちの迷惑は考えていないのは確か。
とにかく、この散らかり放題のキッチン片付けなくちゃ。
「遅くなってしまいましたけど、お嬢様は御食事済ませてきて下さい。
奥様、お待ちになっていたらいけないので」
ケイトが言ってくれる。
「うん、ありがと、ケイト」
あたしはキッチンの傍らに置かれたダイニングチェアに座り込み、落胆しながらとりあえず返事だけする。
「どうか、しましたか? お嬢様」
「ね、パントリーに食材まだ残っている? 」
調理しているときから抱えていた一抹の不安。
急に来られた複数人のお客様、おまけにお弁当まで持って帰って。
大型の冷蔵庫なんてないから、生物は常時当日から翌日までに使いきれる分しか置いていない。
毎日出入りの業者が届けてはくれるけど、届くのは明日の午後近く。
「そうですね、鱒は終わってしまいましたけど、お肉はまだありましたよ。
それから、野菜が少し。根菜と豆、小麦粉は充分ありました。
生物は…… 使用人用の食材でしたらまだありますけど? 」
首をかしげながらケイトが答える。
言っちゃ悪いけど、使用人用の食材って少し質が落ちるのよね。
量が沢山いるから、さすがにクマミツバチの蜂蜜なんていった高級品は使えない。蜂蜜なら普通のミツバチの百貨蜜。牛乳だってジャージー牛のミルクじゃなくて近所の牧場のいろんな種類の牛のミルクが雑多に混じったヤツって具合。けして不味いわけじゃないんだけど、風味や食感とかにこだわるとどうしようもない。
「明日のお弁当、どうしよう…… 」
あたしは青ざめてうめいた。
考えていたお弁当に使える食材根こそぎ食べられてしまったって感じ。
家族で食べるんなら、こういう事態だから残った食材で充分間に合うんだけど、お客様にお出しするにはあたしのプライドがそれじゃ許さない。
「困りましたね。
振舞う相手が晶様なので、お国のお料理をって思っていらっしゃったんですよね? 」
ケイトも首を傾ける。
「そうだ! お嬢様、あれなんかいかがです?
ほら、以前作ってくださった、冷やしうどんとか言う麺料理」
「え、でもあれは、麺だからめんつゆに入れて時間が経つと伸びちゃうし…… 」
提案してくれるのは嬉しいけど、麺料理はどうしようもないな。
「ですからお出汁はポットに入れて別にしたらいかがでしょう?
麺の方はお弁当箱に入れて食べる直前に一緒にすれば、伸びないのでは? 」
そうか、その手があったっけ。
コンビニのお弁当の冷やしうどんってめんつゆが袋に入っていたけど、その袋がこの世界じゃ手に入らないから、お弁当から除外していたんだけど。
何もめんつゆ入れるのは袋でなくても良かったんだよね。
ポットでもお鍋でも。
多少重くても運んでもらえるわけだし。
「ケイト、ありがと」
あたしは勢いをつけて椅子から立ち上がる。
じゃ早速、小麦粉捏ねて麺を作って、出かける直前に茹でる。ゆで時間は少し短めかな?
それからてんぷらを添えて。
よっし、決まり!
そうと決まれば、おなかが空いてきた。
「じゃ、ケイト、食事に行ってくるね。
あとお願いね」
言ってキッチンを出ると、あたしはダイニングに向かった。




