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「ふわぁあ。

 おっきい、広い…… すごい」

 

 馬車を降りた先の大きな階段を上って入った建物の天井を見上げて、あたしは息を吐く。

 

 目の前に広がったホールのなかは見上げるほどの書架が並び、壁に作られたそれにもぎっしりと本が詰っていた。

 

「ここ、図書館? 」

 

「そう。

 やっぱり来たことなかった? 」

 

 隣に立つグレンがあたしの顔を見下ろして訊いてくる。

 改めて並んで立つとこの人本当に背丈が高いな。

 そういえば、例の攻略者の中で一番背が高くて、確か195センチ越えっていう設定だったけっか。

 実問題、あたしは苦手。

 こうやって並ぶと大男過ぎて、なんか怖いなぁ。

 

「女性はキッチンに篭るのが当たり前の世の中だからね」

 

 グレンが目を細める。

 

 確かに…… 

 物心つく前からキッチンに居て、王都にこんな場所があるなんて全く知らなかった。

 お父さまもケイトも教えてくれなかったし、お恥ずかしい話、前世からあんまり本を読む習慣がなかったんだよね、あたし。

 それに欲しい本はひと言お願いすればお父さまが皆手に入れてきてくれたから、図書館なんて物なくても不自由しなかった。

 

「いいの? 

 わたしが入っても? 」

 

 ざっとみると入っているのは男性のお客さんばかりで、女性の姿がない。

 まさかご婦人立ち入り禁止とか言うんじゃないでしょうね? 

 

 一抹の不安を抱えつつ訊いてみる。

 

「いいの、いいの。

 別に入場規制しているわけじゃないよ。

 単に使う女性が少ないってだけ」

 

 言われて見れば、奥のほう書架の影にドレスっぽい影が二・三ある。

 

「でも、どうしてデートがここなの? 」

 

 どう考えてもデートには不釣合いの場所にあたしはグレンを見上げる。

 

「その顔がみたかったんだよね。

 ロレッタ、動物園も植物園も王宮庭園も飽きるほど会長に連れてきてもらってるでしょ? 

 カフェやデパートは自分でプロデュースしてるんだもんね、ネタがわかってたんじゃ驚かないだろうし。

 ここなら絶対来たことないんじゃないかって、推測した」

 

 ふぅん、よく相手のこと見ているんだな。

 確かに、動物園とか植物園とかお父さまとだけじゃなくてケネスやレイモンドとも子供の頃にはよく行っていたっけ。

 

「それに、人目に付く場所で俺と並んで歩いていたら、どんな噂が立つかわからないしね」

 

「だったら、わたしなんて誘わなければいいんですわ」

 

「そう言うなよ。

 俺としては君に興味が尽きないから、もう少し懇意になりたいなって思っただけなんだけどな」

 

 興味ねぇ…… 

 あんまり持ってもらいたくないんだけどな。

 

 正直、転生物ラノベで言うところのチートだらけだもん。

 別に特別なものすごい能力もらって産まれてきたわけじゃないけどね。

 前世の記憶だけでも充分すぎるほどのギフトだった。

 

 でもね、それは全部内緒。

 言っても信じてもらえないかも知れないし、信じられてもこの先起こる事を予言するのって何だかな? だから。

 

「ね? どんな本が置いてあるの? 

 美術書は? 恋愛小説はあるのかしら? 

 ケイト、行きましょう! 」

 

 あたしはわざと声を張り上げて図書室の奥へ向かった。

 

 

 通りに面した階段を上って入ったエントランスのドアを潜ると三階分が吹き抜けになった大きなホールになっていた。

 天窓から注ぐ光で室内は結構明るい。

 壁は一面書架になっていてぎっしりと本が並んでいる。

 

「美術書は、あっちだよ」

 

 グレンがあたしの耳もとで声を落として囁くと二階奥の一角を指し示し苦笑している。

 

 そんなにはしゃいだつもりはなかったんだけどな、なんか前世の世界にはあったけどこっちにはないって思っていたものが見つかって、ついテンション上がっちゃった。

 

 教えてもらった一角には本当にいろんな美術関係の本が並んでいた。

 これ、お料理の盛り付けとか彩りを考える時の参考になるんだよね。

 

 あ、ロイ・シャックの画集がある。しかも新しいヤツ。

 古いのは買ってもらって手元にあるんだけど、新刊が出ているなんて思わなかった。

 

 あたしは目に入ったその画集に手を伸ばす。

 

 う~ん、あと、ちょ、っと。

 

 天井まである書架の、あたしの背丈より上にある本をとりたいんだけど、手をいっぱいまで伸ばして爪先立ちしても、あとちょっと届かない。

 

 グレンなら余裕だと思うんだけど…… 

 

 頼ろうと思ってグレンを探すと、入り口付近のカウンターに居るお姉さん達と楽しそうに歓談している。

 

 さすが手が早いな。

 

 と、思う反面。自分は全く興味がないのにわざわざこんな場所に連れて来た心配りにも感嘆する。

 

 だから、声を掛けるのは諦めた。

 

 仕方がない、自力でなんとかするか。

 

 と、思ったら、背後から大きな手がすっと伸びて、目的の本を書架から抜き出した。

 

「どうぞ、お嬢さん。

 この本ですよね? 」

 

 イケメンさんとはいえないけど、背の高い若い男の人がにこやかな笑顔を浮べて、その本を差し出してくれた。

 

「あ、ありがとう。助かりました」

 

 差し出された本を受け取って、お礼を言う。

 

「高いところの本は、無理してとろうとしないであそこにある踏み台を使うといいよ」

 

 親切に教えてくれて、その人は奥の方に行ってしまった。

 

 うん、いい。

 

 ここって、イケメンさんじゃないけど、文系の本の虫さんかもしれないけど、とりあえず若い男性がそこそこ居るじゃない。

 お婿さん探しの穴場だよぉ。

 

 よっし、明日から日参しよう。

 

「ケイト、今日はもう帰ろうか? 」

 

 とってもらった本を暫く眺めてから、教えてもらったとおり踏み台を持ってきて元に戻して、ケイトに声を掛けた。

 

 

「今日はありがとう。

 素敵な場所を教えてくれて」

 

 グレンにお礼を言って、家に戻る。

 

 ようやくお婿さん探せる場所見つけてテンション上がりまくり。

 問題は、どうやって相手をその気にさせるかなんだけどね。

 なんとかなるでしょう。

 そもそも相手を探さなくちゃその先なんていくら計画立てても無駄だし。

 

 明日は、リンガム先生来る日じゃないから、またお豆腐を作るように豆を仕込んで、それからご飯を炊いて…… 

 朝食はなんにしようかな? 

 ざっと、明日の予定と献立を考えながらベッドに入った。

 

 

 

 


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