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「それで、お相手になりそうな方は見つかったんですか? 」
少しスピードをあげて走る馬車の中でケイトが訊いてくる。
「えぇ……と? 」
「隠さなくても大丈夫ですよ。
だんな様には言いつけませんから」
少しジト目で呆れるようにあたしを見て、ケイトは言う。
そうか、ケイトはあたしが今日何処かの夜会に潜り込んだってことは把握してるんだ。
おばあ様のお家で散々待たせたものね。
その間、メイド同士で雑談しててもおかしくない。
中にはあたし達が出かけたのを知っているメイドもいた筈だから、ケイトの耳に入って当然。
その上でそれを、あたしの言うところの婚活をしにいったって勝手に解釈したんだ。
そっか、その手があったんだ。
せっかく行ったんだから、適当な人探してくれば良かった。
今頃気がつくなんて、あたしも相当抜けてるな。
もっとも、あの状態じゃ、そのつもりで行ったとしても尻尾巻いて逃げ出してくる羽目になったんだろうけど。
「お嬢様? 」
「もう、散々よ。
せっかく行ったのにまさかケネスやグレンと鉢合わせするなんて」
「自業自得ですよ。
そのご様子だとなんとかばれないで抜け出してこられたんじゃないですか?
これに懲りてこういったことは今後謹んでくださいね」
少しお説教じみたケイトの言葉。
いつものことだけど、お父さまにばれたらそれこそお説教かクビになるのはケイトだもんね。
「ごめんね、ケイト」
次からしないとは言えないけど。
今のあたしの状態で婚活にうってつけの手段だって気がついちゃった以上、機会があればまた出かけたいし。
「それにしても、なんですか?
この香りは」
不意にケイトがわたしの耳もとに顔を寄せたとおもったら、訊いてくる。
「ん、ちょっと、成り行きでね。
匂う? 」
お香を炊き込めた着物を着ただけで、香水みたいなものはつけていないんだけどな?
「ええ、かすかにかいだことのない珍しい香料のにおいが馬車の中に香っていますから、でどころは何処かと思いましたら、お嬢様ですね」
やっぱり……
着ているうちに肌に移っちゃったんだよね。
「ケイト、こんな時間で悪いんだけど帰ったら、お風呂用意してくれる? 」
香りひとつでお父さまに勘付かれて、騒ぎになること考えたら、今夜ベッドに入る前に落としておくほうが身のためだよね。
「お願いされなくても、そうしていただきます」
考えていたことはケイトも同じだったみたい。
「奥様も特別なときでない限り香水などおつけになりませんからね。
このままベッドに入られては、リネン類のお洗濯をするモリーが明日予定にない洗濯物を託されて悲鳴をあげます。
明日リンガム先生の来る日でなくて良かったですよ。先生にかぎつけられたら、絶対お小言の上に旦那様に筒抜けですから」
溜息混じりに言われた。
幸い、キッチンをリフォームした時に、お風呂も最新式にリフォームしてもらったから、以前のようにメイドにお湯を運んでもらわなくてもお湯が出る。
もっとも、離れたところではメイドが火を焚いてお湯を沸かしてくれているし、温度調整も微妙。追い炊きとかの前世の便利機能もないけどとりあえず、バケツリレーより便利になったしお湯も多少たっぷり使えるのが嬉しい。
お湯がたまるのを待って、バスタブにつかる。
「あ~、極楽」
思わず声が出る。
正直前世の記憶を思い出した直後ちびっこだったけど、思った時にお風呂に入れないのはかなり辛かったんだよね。
それにしても今夜の舞踏会、なんか意味ありげだったよね。
秘密の集会って、子供の遊びじゃないんだから何か重大な……
そういえば、主催者ジョシュアさんだった。
ちょっと、待って。
えっと、今のロレッタだけなら何にもわからないけど、前世のあたしが何か重大な情報を握っているような?
何かが引っかかり、あたしは思いっきり頭を捻った。
なんだっけか?
これから大変なことが起こるような?
えっと、ケネスやレイモンドコースのシナリオにはない全く別の……
確か、ジョシュアさんが革命を起こす先導をして……
「革命っ? 」
思い出したシナリオの一端にあたしは思わず立ち上がった。
「お嬢様、どうかなさいました? 」
バスルームの向こうから着替えを用意してくれている気配のケイトが訊いてくる。
「ううん、何でもない」
口ではそう答えるけど、頭の中は完全にパニクっていた。
革命って、あれだよね?
ある個人や団体が今ある国の最高権力者をその座から引きずり下ろして他の主義の人が最高権力者に成り代わるって奴。
ジョシュアのシナリオおおよそを聞いた時には、おかしいなって思った。
だってこの国、それほど貧富の差がないっていうか、確かに貴族はそれなりの生活をしているけど、中流以下の人だって食うやくわずの貧しい生活はしていない。社会福利厚生もそれなりに手厚いらしいって設定だったから。
現に今だって、そんなに市民が貧困にあえいでいるわけじゃない。
だからジョシュアのシナリオ大まか聞いた時には変だなぁって思ったんだけど、ロイヤルエンドを成立させるために一般市民のジョシュアを王座に担ぎ上げるには少々乱暴だけど、必要な手段なんだろうなって納得した。
だけど、今ここで、ジョシュアケースのシナリオ出てこなくってもいいはずなんだけど。
やっぱり一般市民にしてみたら王政より民主制がいいってことなんだろうか?
とにかく血なまぐさいのは遠慮したい。
こういう時って、やっぱりお父さまに報告するべき?
だけど、この情報は前世のあたしの記憶で、ロレッタの知識じゃない。話の流れで言ったらロレッタはまだジョシュア・ゴードンが革命家だとは知らない。
先走って父親の耳に入れるのもどうかと思う。
何しろ、あたしの前世の記憶、パレレルワールドの全コースが絶妙な感じで混ざり合って、なおかつずれて、他のパラレルワールドになっている。
もしかしたら、ジョシュアさん今は革命家じゃないかも知れないし。
立ち位置の全く違うケネスが一緒にいること自体、ジョシュアコースのシナリオから大分ずれているのがその証拠かも知れない。
あたし、どうしたらいいんだろう?
「それで、どうしたんですか? 」
考えあぐねていると、ケイトがいつものようにバスルームに遠慮なく入ってくると、髪を洗うのを手伝ってくれながら聞いてくる。
本当は人に手伝ってもらうのは気恥ずかしいんだけど、湯量も少ないシャワーもないこの浴室で前世とは比較にならない長い巻き毛を洗うのはけっこう骨が折れるから、仕方なく黙って手伝ってもらう。
「何が? 」
あたしはぎくりとしながら訊き返す。
どうしたら? なんて考えていたら、どうした? なんて訊かれて、一瞬頭の中を読まれたのかと思ったわ。
「ケネス殿下ですよ」
この様子じゃ、ケイト完全に面白がっているよね?
「どうもこうもないわよ。
もう、ばれたらどうしようって、心臓バクバクしっぱなし」
「でも、ケネス殿下、気がつかなかったんですよね? 」
「たぶん、ね」
今思うとばれたら絶対ヤバかったんだけどね。さすがにケイトには言えないよね。
「珍しいこともあるものですね」
「どうして? 」
「ケネス殿下のことですもの、絶対お嬢様のこと気がつくものと思ったんですけど」
バスタブに浸かったままのあたしの洗いあがった髪をケイトは丁寧に櫛を入れて何度もタオルドライしてくれながら首を傾げる。
「仮面舞踏会だったから、お互い仮面被っていたし、ばれると困るからとにかく黙っていたもの。
本当にピンチの時には晶さん、あ、瑠璃さんのお兄様ね。が助けてくれたし」
「本当にもう、お願いですから…… 」
「わかってるわ」
あたしはケイトの言葉を遮るとバスタブを上がる。
「後は自分でやるから、ケイトはもう休んで。
遅くまでごめんなさい」
言い置いてあたしは自室へ引き上げた。




