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 走り出した馬車の中でケイトが訊いてくる。

 

「まさか、違うわよ。

 違うんだけど…… 

 どうしようかな」

 

 社交界にもでられないし、お父さまに誰か紹介してもらうわけにも行かないし、こうなったら、グレンに誰か紹介してもらおうかと思ったんだけど、こういう時に限って、顔を現さないんだよね。

 たまに見かけても、忙しいのか声を掛けてこないと聞いたら。

 これじゃ、婚活どころかケイトも言うように本当にただお茶しているだけ。

 

 他に誰か…… 

 

 思いをめぐらせていると、馬車の窓を流れる光景に、歩道に立つ二人の男女の姿をあたしの目が捉えた。

 

 あれは…… 

 

 パティの家庭教師のエリナさんとジョシュアさんだ。

 こんなところで何して…… 

 

 首を傾げそうになった時、ジョシュアさんはごく自然にエリナさんを抱きしめ二人は唇を合わせた。

 

 それが目に入った瞬間、馬車はその場所を通り過ぎてしまう。

 覗き見趣味はないから構わないけど、エリナさん嫌がっていた様子がないから、そう言う仲なんだろうな。

 こんな往来で大っぴらに婚約者宣言しているんだもん。

 

 何にもしないで一組くっついた。

 もう、これ以上喜ばしいことなんかないはずなんだけど。

 

 ……なんだろ、素直に喜べない。

 だよね、人のことどころじゃないんだもん。

 

 あと、誰か、他にいないかな? 

 あたしにお婿さん紹介してくれる人。

 

「そういえば、そろそろですね。

 大奥様からのプレゼントが届くの。

 今年はどんなドレスなんでしょう? 

 毎年楽しみですよね? 」

 

 ケイトが思い出したように訊いてくる。

 

 あぁ、そっか。

 もうそんな時季だったんだ。

 

 何故かお父さまと疎遠になっている、お父さまのお母さま、つまりロレッタのおばあさまは王都の片隅に小さな隠居邸を構えて一人暮らしをしている。

 毎年お誕生日にセンスのいいドレスを贈ってくれるのと、新年に親族で集まるホームパーティーの時に顔を合わせるしか交流がないから忘れてたけど、若い時には美人さんで社交界の華だったって聞いている。

 

 そっか、昔顔の広かったおばあさまなら、お婿さん候補の一人や二人紹介してもらえるかも知れない。

 

 帰ったら、おばあさまに手紙を書こう。

 

「ね、ケイト。

 おばあさま、お菓子何がおすきかしら? 」

 

「急にどうなさったんですか? 

 大奥様へのお礼は毎年チョコレートにカードを添えるって決まっているじゃないですか? 」

 

 ロレッタがまだキッチンに立てない赤ん坊の頃からおばあさまへの贈り物は何故か、チョコレートって決まっている。


「うん、そうなんだけどね。

 たまにはお手紙だけじゃなくて、きちんとお会いしてご挨拶したいなって、思って」

 

 それは口実なんだけどね。

 まさか手紙で済ませられるお願いことじゃないから、お礼を口実に会いに行きたいなって思ったんだけど、ダメかな? 

 

 疎遠になっているって事はお父さまと仲が悪くて、顔を見るのも嫌ってことないよね? 

 

「そうですね。

 では、奥様にでも訊いてみましょう」

 

「ありがと、ケイト。

 お願いね」

 

「それはそうと、誰だったんでしょうね」

 

 馬車がもうそろそろ邸に着こうとした頃、ケイトが思い出したようにふと口にした。

 

「誰って? 」

 

「エリカさんが見間違えたって言うお方ですよ」

 

「誰でもいいでしょう、別に」

 

 ケイトが気にするようなことじゃないと思うんだけどな。

 

「いえ、お嬢様の御髪の色どこにでもある色ではないんですよ。

 スタリナール家の血を引く方にだけ出る色で、それも十人に一人でるかでないかって言う珍しい色だとお聞きしていますわ。

 確か今ご存命のスタリナール家の方の中でこの髪色をしている若い女性はお嬢様だけだと記憶しています」

 

「そう、なの? 」

 

 デビュタントもまだのせいであんまり世間の人と接点がないから気がつかなかった。

 お父さまは普通の黒髪だけど、新年に一度だけ集まる親族の中にはたまにいたし。

 前世の記憶が戻った時には自分の髪、ありえない微妙な色だと思ったんだけど、ケイトの髪もピンクだし、そう言うものだと思っていた。

 

「さぁ、お嬢様。

 つきましたよ。今日の奥様の晩餐なんでしょうね? 」

 

 首をかしげているうちにエントランスの前で止った馬車の扉をケイトは押し開けた。

 

 


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