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-8-

 ぶわっつと一気に目の前が白く染まってあたしは目を開けた。

 

 見渡すと、窓際にたってケイトがカーテンを纏めている。

 

「お嬢様、また何か考えながら寝落ちなさいましたでしょう? 」

 

 あたしの様子を目に、少し呆れるように言ってきた。

 

 もう、付き合いが長いせいかケイトはあたしのこと何でもわかっちゃうのよね。

 

「ね? ケイト。

 どうやったら街にいけると思う? 」

 

 ベッドを抜け出しながら訊く。

 

「また、何をお考えなんですか? 

 今、街は治安が悪くなっていて危ないと思いますよ。

 お怪我もまだ直っていませんのに…… 」

 

 ケイトは眉根を寄せた。

 

「足なんてもうとっくに治ってるわよ」

 

 あたしは足を大げさに上げて見せる。

 

「それでも、です。

 一体何の御用があるのですか? 」

 

「だって、気にならない? 

 お父さまに訊きたくてもお帰りにならないし、ここにいたら噂ひとつ届かないじゃない」

 

 着替えを手伝ってもらいながら口を尖らせる。

 

 レイモンドのこととか、花嫁修業にいそしむ隣国の姫君のこととか、戦争がはじまるのかとか、知りたいことは山ほどある。


「余計なことをお考えにならずに、大人しくなさっていてください。

 そのうちにだんな様もお帰りになりますよ。

 それより、急いで朝食になさいませんと。

 今日はリンガム先生がいらっしゃる日ですよ」

 

 

 

 着替えを済ませエプロンを手にとると、あたしは自分のキッチンへ向かう。

 

 ドアを開けると、まだ新しい木の匂いが少し漂う。

 去年三度目の改装をしてもらったキッチンは最初の頃よりかなり使いよくなった。

 

 何しろコンロが入っている。

 燃料は相変わらず薪でストーブみたいな奴なんだけど、直火に鍋をかける竈よりはよっぽど進歩的。

 火力の調節もしやすくなった。

 少し低かった調理台の高さも調節してもらったし、とにかくお料理するのが楽しい。

 

「ケイト、何食べたい? 」

 

 パントリーの中を覗きながらあたしは訊く。

 

「そうですね、今日は先生がいらっしゃるとなるとお昼はまた凝ったコース料理ですよね。

 でしたら、朝はさっぱり食べたいです、かね? 」

 

 ついこの間まで週五で来てくれていた料理の先生は、もうあたしには教えることがないとか何とか言って、教師を辞退しようとした。

 試験の時にあたしに師事した先生がいないのはまずいからって、お父さまがそれを強引に引き止めた為、週一ってことになった。

 

 相変わらず教えてくれるのはこの国の貴族の間で標準的な晩餐にでるお料理ばかり。

 それがコースになるから少し難易度は上がるってだけ。

 しかも教えてもらって作った料理は食べなきゃならないから、昼から晩餐用のコース料理はさすがに辛い。

 

「じゃぁ、塩麹の卵焼きと、青菜の白和えなんて、どう? 」

 

「いいですね。ご飯は紫ご飯ですか? 」

 

 早速お米を取り出しながらケイトが頷いた。

 

 

 

「お嬢様、お茶のお菓子、どうしますか? 」

 

 昼食後のお皿を洗いながらケイトが訊いてきた。

 

「う、いい。お茶だけで…… 

 晩餐だって入るかどうかわからないもの」

 

 息をつきながらあたしは言う。

 

 さすがに今日のフルコースはきつかった。

 何しろあの量は三人前じゃないでしょ。

 

 とか言いながらケイトと二人平らげたあたしもあたしなんだけどね。

 

 

「ふわぁ…… 」

 

 おなかがいっぱいになったら、なんだか眠くなっちゃった。

 

 あたしはひとつ欠伸を漏らす。

 

「お昼寝なさいますか? 

 今日はこの後いらっしゃる家庭教師の予定もありませんし」

 

「うん、いい。

 夜眠れなくなっちゃうもの」

 

 ケイトが洗ってくれたお皿を棚に戻しながら答えると、突然ドアが開いた。

 

「お父さま? 」

 

 不意に現れた姿にあたしは目を見開く。

 この人がノックもせずにドアを開くところなんか初めて見た。まるで何かに急かされるよう。

 

「何時お帰りになりましたの? 

 またすぐにお出かけ? 」

 

 とりあえず訊く。

 

「まぁ、そうだな」

 

 あたしの問いに呟くように答えて、お父さまは手近にあった椅子を引き寄せて腰を降ろした。

 

 三日間何をしていたのかわからないけど、目の下には薄ら隈が浮かんで相当疲れている表情が隠しきれない。

 

「お忙しい、みたいね。

 お体大丈夫? あんまり無理しないでね」

 

 ねぎらいながらあたしは妙な違和感に首を傾げた。

 

 何かがヘン。

 

 いつもなら、お父さまはあたしのところに来ると必ず過剰なスキンシップして、今日あったこととか訊くのに、今日はそれがない。

 ただあたしの顔をじっと眺めている。

 

「お父さま、何か隠していらっしゃらない? 」

 

 あたしは訊く。

 

「いや、ないよ、何にも。

 ないか、なぁ。多分」

 

 バレバレの妙な答えが返ってきた。

 

「お父さま! 」

 

 ケイトが淹れてくれたお茶を手にカップの縁に何度となく指を這わせてせわしなく動かしている。

 

 ……こんなお父さま、初めてみたなぁ。

 

「ね? どうかなさって? 

 随分、お疲れのようだし、お休みになったほうがいいんじゃない? 」

 

「いや、その暇は…… 

 また王城に戻らないと、いけないんだが…… 」

 

 どうも今日のお父さまは歯切れが悪い。

 

 どうしちゃったんだろう? 

 

 

 


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