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ロイヤルエンドで負けたロレッタがその後どうなったかなんてわかんないけど、とにかく王太子妃にはならないからとりあえず問題ナシ。
問題はノーマルエンドの場合。
この場合の、王座が問題で。
レイモンド以外が攻略対象だった場合、王座はレイモンドに。
レイモンドが攻略対象だった場合はケネスが王座につき、どちらの場合も妃になるのはスタリナール侯爵令嬢。
すなわち、あたし。
だから、あたしの最初の予定では。
とにかく誰かを王座に座らせて、ヒロインちゃんとロイヤルエンドを迎えてくれれば終了、あたしは王太子妃にならなくて済むって無条件に思っていたんだよね。
何しろ、王座はひとつなんだから、五人が五人全員が国王になれるわけじゃない。
当然王太子妃の席もひとつ、埋まってしまえば空きはなくなる。
当時シナリオを読んでいた時には気がつかなかったんだけど、五人が五人とも王座に座れるっていうそれぞれのエンドは、時間軸こそ同じだけど登場人物の位置が微妙に違ってくることからも、各攻略相手、攻略ルート別にパラレルワールドになっていたって事だよね?
世界観と背景登場人物、基本設定が一緒だったから一連のお話のように感じられていたけれど、実際はひとつのシナリオの終了と共に、その世界でのお話は終わり別の平行世界でのもうひとつのシナリオを、時間をさかのぼってまたはじめる、みたいな?
この世界はその中のパラレルワールドのどれかひとつ。
だからヒロインちゃんは一人いればいい。
そう無意識に思い込んでいた。
決まっているのは、ロレッタが、王妃の座をかけた対決のヒロインの対戦相手だって事。
だからヒロインを潰す…… じゃなかった持ち上げるべく策を練って。
ただ、それが誰かわからないからヒロインちゃんになりそうな子に片っ端からアプローチかけていたんだけど。
そもそもその考え自体が間違っていたのかな?
ここは、あたしロレッタ・スタリナールが王妃の座を避けるべく模索する、もうひとつのパラレルワールド。
そう考えれば、レイモンドが健康を取り戻し、ヒロインが五人も集まり、新しい王太子妃候補が現れたのも全部納得がいく。
思い至ったら身体中がぶわっと粟立った。
「冗談じゃ、ないでしょ…… 」
何時の間にか暗くなった室内で、あたしは小さく呟く。
……だったら、あたしが今までしてきた努力って一体何?
あたしの持っている前世の記憶なんて全く役に立たないってことだよね?
「お嬢様?
どうかしたんですか、明りもつけないで。
だんな様と奥様が晩餐にしたいと待っていますよ」
ドアがノックされたと思ったら、向こうからケイトの声がした。
「あっ、えっと、はい」
あたしは慌てて顔をあげる。
暗くなったのは気がついていたけど、もうそんな時間になっているなんて思わなかった。
「ケイト、着替え手伝って! 」
あたしはドアの向こうに声をはりあげた。
「ごめんなさい、お父さま、お母さま、遅くなりました」
大慌てで着替えを済ませダイニングのドアを開けた。
「どうしたの、ロレッタ?
あなたが時間に遅れるなんて珍しいこと。
お勉強を熱心にするのもいいけど、もう少し気を配ってね」
帰ってきたのはいつものお父さまの声じゃなく、お母さまのものだった。
「はい、次からは気をつけます。
っと、お父さまは? 」
ダイニングを見渡してあたしは首を傾げた。
いつもなら必ず居る筈のお父さまの姿がない。
「さっきまであなたを待っていたのよ。
でも急に王宮からお呼びが掛かって、出かけていったわ」
溜息混じりにお母さまが説明してくれる。
じゃ、もしかして晩餐とらないで出かけてしまったのかな?
遅れるなんて悪いことしちゃった。
「ごめんなさい」
「いいから、お座りなさい。
お父さまのお戻りは何時になるかわからないから、済ませてしまいましょう」
「はい」
頷いて席に着く。
「それで、何のお勉強……
人払いしてたってきいたから、新しいレシピでも考えていたのかしら?
いいお料理は浮かんで? 」
食事をはじめながらお母さまが訊いてくる。
「ええ、まぁ……
内緒、ですわ」
あたしはわざと小首を傾げ笑顔をうかべる。
都合がいいことに料理のレシピは口外しないのが当たり前の世の中だから、そう言っておけば問題ない。
「そう?
また、お父さまの会社の新商品のお手伝いをしていたのではなくて?
いい加減にしておきなさいね。
お父さまは会社のこととなると見境がなくなるから。
後で困ったことになるかも知れないのはあなたなのよ、ロレッタ」
お母さまは言ってくれるけど、あたしにしてみたらお父さま、さまさま、なんだけどな。
去年十五になった時に渡された、ロレッタ名義の貯金は相当な額になっていた。
おまけに去年から会社のお手伝いーといっても新商品のアイディアだしだけなんだけどーを定期的にするようになったらお給料もくれるようになった。
あ、これは「女性が仕事をするなんてとんでもない」っていう考えの持ち主のお母さまには内緒だから言えないんだけど、ね。
「わかっていてよ、お母さま」
とりあえず頷いた。
「お父さまは?
まだ、お戻りじゃないの? 」
夜、ダイニングに入るとあたしは訊く。
今日でもう三日目。
あの晩出かけていったまま、お父さまは戻ってこない。
もう、街の彼方此方で、戦争がはじまるかもって噂が流れている。
それは何かの発端に尾鰭がついたものなのかも知れないけど。
最近街を歩くと集会や演説会をかなりの頻度で見かけるようになった。
だからお父さまのお出かけも、何かよっぽど切羽つまった事案があるのだろうけど。
きっと街では話題になってる。
だけど、ここには何の情報も入ってこないし、使用人たちもわかっていてもあたしの前では口を閉ざす。
情報収集するには街に出るしかないんだけど。
我が家の使用人、ケイトをはじめとしてみんなお父さまの言いつけには絶対だからなぁ。
あたしが馬車を出してってお願いしたって、聞いてくれるはずがないんだよね。
だったら自分で行っちゃえっ!
と、簡単に言えないところがこの世界の都合の悪いところ。
せめてバスでも通っていればなぁ。
えぇとぉ。
まず邸の人間じゃない誰かに馬車をお願いして……
誰かって、誰だ?
エリーやエリカさんは自分の自由になる馬車もっていないし。
ケネスは二つ返事で来てくれるだろうけど、ケネス自身もおまけについてきちゃうんだよね。
エリックは「何の利益もないのに君に協力する筋合いはない」とか平然と言われちゃいそうだし。
グレンは借りを作ると後が厄介なことになりそうだし。
パティは幼すぎてやっぱり自分の意志で馬車を出せそうにないよね。
商会の社員サンたちもお父さまの言うこと絶対だし。
「はぁー 」
あたしは大きく溜息をついた。
どう考えてもこれ以上の知り合いの顔が出てこない。
「ロレッタ、無作法ですよ。
お食事中に、会話と食事を愉しむ以外のことを考えるだけではなく、そんなあからさまなため息をついて」
お母さまのたしなめる声にあたしは我に返る。
「ごめんなさい、お母さま。
お父さまのことを考えていて…… 」
「いつも食卓を囲む人が欠けていて淋しいのはわたくしも同じよ」
お母さまが淋しそうな笑顔を浮べた。
そうなんだよね。
お父さま、どんなに仕事が忙しくても、何処かの晩餐会にお招きされた時以外は絶対に家で食事をしていた。
こんなに長いこといないなんていうこと今までなかった。
「あらっ? 」
お母さまの言葉に促されるように目の前のお皿に視線を動かしあたしは声をあげた。
「今日のお魚のソース、新作ですの? お母さま」
白身のお魚をそっくり包み込むようにかけられたサーモンピンクのソースは今まで出てきた事がない。
プチプチした見た目と食感があるからたらこみたいなものが混ぜてあるんだと思う。
「あぁ、ロレッタは初めてだったかしら?
レシピはわたくしが結婚する前に考案したのだけれど、お父さまの評価が余りよくなかったのよ。
ロレッタは、どう? 」
「いつもと同じように美味しいわ」
あたしは笑顔を浮べる。
いつも絶品のお母さまのお魚料理と比較するとどうって言えないけど、充分美味しい。
お父さまもしかしてたらこ苦手なのかな?
そんなお父さまに遠慮して、お母さまこのお料理作らなかったんだよね。
それを今日作るって言うことは、お父さま今日もお泊りか。
でもってお母さまにはその連絡が一応来ているってことだよね。
今、何が起こっているんだろう?
あたしはただ首を傾げるしかなかった。




