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確かに、妙な髪形のせいで顔のよくわからない没個性の同じくらいの年の女の子、もしかしてヒロインじゃないのかなって思って声を掛けたら、かったっぱしからエリちゃんだった。
こうなるともう、偶然とかじゃないよね?
そういえば、あのゲーム。攻略対象によってヒロインの女の子の性格微妙にと言うか大幅に変わっていたっけ。
基本の街の普通の家庭で育った普通の女の子って、ところは同じなんだけど、元気でお節介その上気が強かったたり、おとなしめで情が厚かったり、しっかり者だけど何処か抜けてたり。人懐こくて甘えんぼだったり。
そりゃそうだ。
攻略対象の王子様方、皆タイプが違う。
気の強い相手に気の強い女の子引き合わせても反発するだけだろうし、寡黙な上に人嫌いな人にこっちから話し掛けるのも恥ずかしいような大人しい娘カップリングしようとしても基本話が進展しない。
現にあたしはエリオットとグレンがすっごく苦手。
エリオットとは会話にすらならないし、グレンはうるさいって思っちゃう。
この間怪我した時にグレンのしてくれたお姫様抱っこだってさ、相手によっては胸きゅんのシーンになるんだろうけど。
あたし的には「目立つ行動はやめてくれ、迷惑だ」って感じの鳥肌ものだったもん。
ついでに時代背景もびみょーに違っていたけど、それは多分書いているシナリオライターさんの時代背景把握がばらばらだったんだよね。
どうして煮炊きに竈を使っている世界で煙草に火をつけるのは電子ライターなんだ???って突っ込みたくなったこともあったし。
そして、今。
あたしの前にはヒロインと思しき、エリちゃんが五人。
まだ把握していない娘もいるけど、とりあえず名前と見た目というか雰囲気は一緒なんだけど、性格は皆ばらばらなんだよね。
エリーは少し引っ込み思案だけど、優しくて。
エリカさんは元気で好奇心旺盛。
エリナ先生はあたしとろくに年が違わないのに、もろ大人。自分に対しても他人に対してもすごく厳しい。
とにかく、王子様が五人にヒロインが五人。
揃っちゃった?
やったぁ!
五人の攻略相手にそれぞれの女の子押し付ければ、あたしの分はナシっ!
あたしは晴れて自由の身だぁ!!!!!
思わず叫びだしそうになった口をあたしは慌てて引き締める。
これまでヒロインは一人だと思い込んでいたから、目の前に現れたエリちゃんの誰がヒロインなんだ? ってずっと悩んでいたんだけど。
五人いたら五人のうちの誰かがロイヤルエンドしてくれるでしょう。
でもって空いた四人がノーマルエンドしてくれれば、完了っ!
よかったぁ。あんまりややこしいことにならないで。
さっきヒロインらしき女の子が、一度にまとめて五人現れたってわかった時には、一瞬どうしていいかわからなくなったんだけど。
「四人もなんて、まるで、ロレッタ様が引き寄せているみたい」
ぎくっ。
まるでみたい、じゃなくって、そうなんだよね。
もっさいエリちゃん見つけるとあたし率先して声をかけてたもん。
それも四人じゃなくて五人目の目安もついていたりするんだな、これが。
「まさか、そんな筈なくてよ。偶然でしてよ」
とりあえず面倒なことにならないように否定しておく。
「それより、隣国の姫君も大変ね。
降って湧いた縁談のせいで、いきなり料理修行しなければいけなくなるなんて。
わたしたちは子供の頃からそういうものだって、教えられて育っているからなんとも思わないけど、随分負担だと思いますわ。
お気の毒に…… 」
落ち着き払ってカップを手にとると、口元に運ぶ。
あれ?
いいながら、妙な違和感があたしの頭に引っかかった。
エリちゃんが五人と、ライバルのあたし。
そしてレイモンドの婚約者になるかも知れないお姫様が一人?
あたしは引き合いに出される存在だからいいにしても、お姫様なんてキャラあのゲームに出てこなかったよね?
レイモンドの婚約者になるってことはレイモンドコースだと思うんだけど、確かにでてきた記憶がない。
レイモンドコースはノーマルだけどあたしクリアしているから、登場人物に落しはないと思うんだけど。
「ロレッタ様、どうかして? 」
うっかり口を閉じてしまったら、すかさずエリカさんの顔を覗き込まれた。
……だめだ、この状態じゃ上手く考えられない。
一人になって落ち着かないと、思い出すものも思い出せないし、まとまる考えもまとまらない。
とにかく、もう一度ゆっくり考えなくっちゃ!
お茶とお菓子。
それからおしゃべり。
楽しい時間はあっという間。
普通はそう言うものなんだろうけど、さっきの会話の一端があたしの思考を占めていた。
ちょっと待て、何かが違う。
その何かがわからなくてもやもやする。
だから、僅か一時間ばかりの時が経つのを待つのが苦痛で仕方がなかった。
「ケイト、悪いけど暫く誰も部屋に近づけないでね」
二人を送り出して、あたしは部屋に篭る。
待って、待って、待って……
何かが絶対違う。
確か、前世の記憶だとレイモンドの相手はヒロインかロレッタだったよね?
王女様なんて出てこなかったような?
あたしは思いっきり頭を捻る。
……落ち着いて、ゆっくり考えて思い出してみよう。
とは言ってもあたしが前世の記憶を思い出したのって十数年前で、以来生身のロレッタのそれからの行動を上書きされ、少しずつ曖昧になってきている。
しかも、思い出さなくちゃいけないは前世に実際に体験した日常じゃなくて、そのとき読んだシナリオのストーリー。
あたしは書き物机の前に座ると組んだ手を机の上に置いた。
目を閉じると何度か大きく深呼吸して気持ちを落ち着ける。
庭先で小鳥の囀る声。そよ風が木の枝を揺らす音、邸の何処かで使用人が歩く音。
そんな雑多な音がかすかに耳に届く。
そう、確か、この部屋からあたしの前世の記憶の復活は始まったんだっけ。
蜂に刺されて腫れた頬、それから一気に情景がひっくり返る。
ひっきりなしに自動車のエンジン音の響く公園。
噴水の水の落ちる音、近所のコンビニの来客を知らせる音……
寝坊して飛び起きた自室のベッド。
枕元に置かれたスマホ……
それを取り上げスワイプすると、三度目のエンドをようやく迎え少し嫌気の指しているあたしがいる。
……
……
……
基本設定と、ゲーム条件はこの際スルーしていいよね。
問題はシナリオの中身。
攻略相手は五人。
レイモンド王太子、ケネス王太子弟、隣国からの人質エリオット、亡き王弟の隠し子グレン、そして革命家のジョシュア。
各々エンドは二種類。
ヒロインが王妃になれるロイヤルエンドと王妃になれないけど攻略対象とはくっつけるノーマルエンド。
あたしがクリアしたのは三人、それもノーマルエンドどまり。
後はこのゲームを紹介してくれたというか「お友達招待特典」目当てに勧めてくれた友人が教えてくれた大まかなストーリーなんだけど。
両方を総合して。
レイモンドの場合。
病弱な王子の体質を知ったヒロインが手を尽くした料理で健康を取り戻す。
ケネスの場合。
病が悪化し死亡した兄王子の代わりに王太子になる。
エリックの場合。
もともと人質としてとられていた隣国の王子なので、隣国に帰され王座に着く。
グレンの場合。
レイモンド病悪化につき王太子を辞退。ケネス戦死、亡き王弟の落胤だったことが発覚し、王太子に担ぎ上げられる。
ジョシュアの場合。
革命を起こし、王室を排除、王座に着く。
等の理由でそれぞれ一旦、王太子の位置につき王太子妃選定試験が行われる。
有力ライバルは表向きロレッタ。
余計な話だけど、これまでのシナリオの選択肢で既に大まかなエンドは決まっている。
勝てばロイヤルエンド。王妃になれて贅沢で胸きゅんする甘いシナリオが用意されている。
負ければ、ノーマルエンド。元居た場所で以前と変わらぬ生活に戻ったところに攻略対象が追いかけてきたところであっけなく終わる。
……だったような?




