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よかった、気を悪くはしていないみたい。
「じゃ、お茶が冷めないうちにはじめましょうか? 」
茶葉少なめで薄めのお茶をポットから注いでミルクと蜂蜜をたっぷり入れる。
クマミツバチの蜂蜜だから、大人でも甘ったるくなく飲めると思う。
「これは、何ですの? 」
サンドウィッチとスコーンを片付け上のプレートのお菓子に手を伸ばしてパティは首を傾げる。
白玉団子にみたらし餡をたっぷり絡ませた。
他にも色々、さくらんぼの砂糖漬けにミルクチョコレートをかけたり、餡子玉に黄粉をまぶして。早稲のぶどうを一粒ずつ砂糖衣でコーティング。等など……
お話の中の「なんじゃもんじゃの七色木の実」に見立てた。
できるだけお話の中のお茶会に近付けたくて。
他にも食べられるお花のケーキに見立てたお花を象ったケーキとか、お菓子のプレートにも工夫を凝らしてみた。
「ほんと、なぁにこれ? 」
エリカも興味を隠せないみたい。
「ほら、以前話していた白玉団子よ。
単価が高くってカキ氷に添えるのは諦めたけど。
味を見てもらいたくて。
どうぞ、食べてみて」
あたしはプレートに乗せたお菓子をそれぞれに配る。
「ほら、スミレ獏さんも。
テンション低いわよ」
コスプレなんて慣れないこと、エリカは楽しんでいるみたいだけど、エリーの方は戸惑いのほうが多すぎるみたい。
「面白い食感だわ。
でもお兄様は好きじゃないかも知れないわ」
パティは白玉団子を一つ頬張って、首を傾げる。
「もしかして食感がダメ? 」
「ううん、そうじゃなくて、味が。
これ外国の調味料使っているでしょう?
お兄様、お嫌いなの。
黴臭いとか仰って」
なる。
確かにお味噌も醤油も発酵調味料だもんね。
どっちも大豆に米麹を合わせて発酵させるんだっけか?
いいこと聞いた。
そうよね、グレン本人がいなくてもグレンの妹から多少の事は聞きだせる。
むしろ本人より引き出しやすいかも?
何しろ本人からだと自覚していないこともあるし、見得が先に立って黙ってしまうこともある。
その点子供は純粋だもの、嘘隠ししないよね。
「そうなのね。
じゃぁ、お家ではあまり出てこないんじゃない?
堪能して行ってね」
あたしはお菓子を取皿に取り進める。
そういえば、この家庭教師、さっきから全く喋らないなぁ。
ただ、あたし達の会話の邪魔にならないように気配を殺して黙ってお茶を飲んでいる。
時々、パティのジャムで汚れた口元を拭うように指示したり、お嬢様には気を配っているみたいだけど。
「あの、お茶大丈夫でした?
今日はパティにあわせてみたんだけど」
とりあえず話題を振ってみる。
「ええ、とても美味しいです。
これは…… 蜂蜜が違うんですね」
お茶を飲み干して顔を綻ばせた。
「じゃ、苦手でなければこれもどうぞ」
あたしはお菓子を取って差し出す。
「ありがとうございます」
軽く頷いてお皿を受け取る所作がすごくきれい。
きっと、身分はそこそこだけど育ちはいいんだろうな?
だから無作法にならない限りはお嬢様の言動に口は出さないし、邪魔もしない。
正直今お友達になるのは諦めたほうがいいかな?
この人とお友達になるにはパティの姿がないところでないと無理そう。
だけど、どこで顔合わせるようにすればいいのかな?
難しいかも、なんたってケイトもそうだけどお嬢様抜きに一人で外出なんてほとんどないもんね。
「今日はありがとうございました。
すごく楽しかったです。
あの、またお邪魔してもいいですか? 」
エントランスで迎えに来た馬車の前でパティはちょこんと頭を下げた。
「ええ、お待ちしているわ」
あたしは笑みを浮べた。
パティの乗った馬車が出ると、待ちかねていた我が家の馬車が入ってくる。
「エリー今日は協力してくれて、ありがとう。
エリカさんも助かったわ」
「いいえ、こちらこそ」
「また、何か面白いことする時には呼んでくださいねっ」
エリーはいつものことだけど、エリカさんは気に入ってくれたみたい。
「また、次にもお願いね。
じゃ、ジム二人を送って」
御者のジムに言いつけると二人の乗り込んだ馬車がゆっくりと走り出す。
それを見送ってあたしはキッチンへ戻った。
「ケイトも、ご苦労様」
段取りよく使い終わった食器を片付けているケイトに声を掛ける。
「お嬢様! 」
それに対して不機嫌そうな声が帰ってきた。
えっとぉ……
ケイトの機嫌を損ねるようなこと、したかな?
「途中からうわの空でしたよね? 」
首をかしげていると、指摘された。
「何を考えていらっしゃったんですか?
いくらお客様がお小さい方だからって、気を抜いていいってもんじゃありませんよ。
こんなこと、奥様に知られたらまたお小言ですよ」
ケイトの不機嫌はこれだったか。
確かに途中からどうやってエリナ先生と御近づきになれるかなって、そのことばっかり考えていたんだよね。
付き合いが長いせいで、ケイトにはこういうところお見通し。
「お小言は、今ケイトにもらったからもういいわ。
そもそもあたしだけじゃ小さな子の相手は手に余るからエリーとエリカさんにもお手伝いしてもらったんだもの。
少しくらい手を抜いても構わないでしょう? 」
「そのお考えがそもそもいけないんですよ」
もぅ、ケイトのお小言はいつものことだけど、図星なだけに痛いなぁ。
「わかりました。
次から気をつけるから。
それより、ね? パティちゃんの家庭教師と御近づきになる方法、何かないかな?
ケイトも一緒に考えてくれる? 」
「お嬢様は、どうしてそんなにご身分の下の方に興味がおありなんですか?
お友達なら侯爵令嬢とか伯爵家のお嬢様とか同じご身分の方の方が身のためですよ」
ケイトは呆れたように息を吐いた。
そんなこと言われたって、仕方ないじゃない。
あたしの運命を握っているのは、ごく普通の暮らしをしている、ごく普通の身分の、ごく普通の女の子。
相手が普通の女の子でなけりゃシンデレラストーリーは成立しないんだから。
そのヒロインらしき女の子が三人、だけどどの子がヒロインなのかわからない今の状態じゃ、皆と仲良くなっておくに限るってものでしょう?
だけど、正直、まさかヒロイン候補が三人になるなんて思っていなかったのよね。




