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食事が終わると、お父さまたちは喫煙室に。
あたしがご一緒できるのはここまでだから、諦めて部屋に帰る。
「お嬢様、どうでした。
お客様の反応は? 」
待ちかねていたケイトが早速訊いてくる。
「けっこうよく食べたわ。
ケネスと違って目新しいものより、昔からある定番料理の方が好きみたい」
「よくみてますねぇ。
お客様に失礼じゃありません? 」
ケイトは呆れたように言った。
「確かにそうかも知れないけど、観察しておかなきゃ次の時また苦手なものお出ししちゃうかも知れないじゃない。
それより、ね、今度ハミルトン子爵家のお嬢さんがお庭を見に来ることになったの。
どんなお菓子でおもてなししたらいいと思う? 」
もっともらしい言い訳をして、てっとりばやく話題を変える。
わたしの全人生の掛かっているとっても重要なことだけど、さすがにケイトにも言えないもんね。
「ん~、いい天気! 」
キッチンの窓を開け、あたしは深呼吸した。
「よかったですね、お天気になって」
竈にお湯をかけながらケイトが頷く。
「ええ、グレンの妹さんせっかくご招待したのに、お天気が悪かったら最悪だもの」
「お嬢様、本当にお茶でいいんですか?
今日ご招待しているのは先日のお嬢様ですよね?
レモネードとかの方が無難だと思うんですけど」
ケイトが首を傾げる。
「いいの、いいの。
せっかくのお茶会なんだもの、雰囲気だけでも大人のお茶会と同じ方がテンション上がると思うのよね。
なんか、すごくお姉さんになった気分で。
その代わりミルクと蜂蜜たっぷりで茶葉は少なめでね? 」
プレートに小さなサンドウィッチとスコーンを並べながらあたしは言う。
子供の頃、お誕生日におばあ様がご招待してくれたお茶会を参考にして、サンドウィッチはフルーツサンド、スコーンに添えるジャムは多め。
並べるお菓子も、苦味が利いたものはできるだけ避けた。
「かしこまりました。
そろそろ準備、してしまいますね」
「あ、お願い。
わたしも着替えてお出迎えに行くから、あと頼んだわ」
言い置いてキッチンを出ると客間に向かった。
「どう? エリー。
着替えてくれた? 」
軽くドアを叩いてあけると同時にあたしは訊く。
「ロレッタさま、本当にこの衣裳でお茶会やるんですか? 」
スミレ色のミニドレスを着てスミレの花冠を被ったエリーが戸惑った声をあげた。
「そうよ。
似合っているじゃない、スミレ獏のコスプレ」
「その、スミレ獏の仮装なら、こんなにスカート短くなくてもいいじゃないですかぁ」
エリーが情けない声をあげる。
「だって、この方が可愛いでしょ。
お呼びしたお客様にも共感もってもらえるし。
エリーだって、二・三年前着てた丈じゃない」
ミニって言ったって、あたしの前世の知識にある太もも丸出しのミニ丈じゃない。膝下少し長めまでしっかりある。
十歳過ぎくらいまでの子供が普通に着ている長さ。
大人になると踝より上のスカートは絶対はけなくて、十歳過ぎからのスカートは徐々に長くなるのが普通。
だから、あたしもエリーも今踝ちょっと上の丈が普通になっている。
もっとミニのほうが絶対に可愛いとは思ったけど、この世界のルールからして無理そうだから諦めたんだけど、エリーにしたらそれでも恥ずかしいらしい。
「エリカさんもごめんなさいね、変なことにつき合わせて」
わたしは部屋の片隅でこれも短めに仕立てたメイドワンピースのエプロンの紐に尻尾に見立てたボンボンを挟み込むもう一つの人影に声をかけた。
「楽しそうじゃないですか?
『ジェーンエマの不思議な冒険』のお茶会」
クマの耳のついたカチューシャを頭にのせながら言ってエリカさんは興味深そうな笑顔を向けてくれた。
同じエリちゃんだけど、こっちは面白がっている。
この世界にも『不思議の国のアリス』に似た童話があって、子供達にけっこう人気がある。
その中に『妖精の庭で主人公がお茶会をする』シーンが出てくる。
お庭がお庭だから今回はそれをなぞったお茶会をセッティングしてみた。
どうせお茶会するんなら賑やかなほうがいいし、エリーたちにコスプレしてもらえばご招待したグレンの妹さんと多少身分が違っても、問題なし。
グレンのお父さまのスタリナール商会の専務は子爵家だから、万が一妹さんのプライドが高かったら、身分違いの人が普通に混じっていたら騒ぎになってしまう可能性もあるから。
スミレ色の毛皮でスミレの花冠をいつも被っている『スミレ獏』もメイドなのに主人と一緒のテーブルに当たり前のようにつく『クマのメイド』もこのお茶会のシーンに出てくるキャラクター。
ついでにあたしは『青いお月様』皆に合わせてやっぱりスカートは少し短めにした。
お月様の魔法で獏の夢が現実になり、飲んでも飲んでも減らないお茶と食べても食べても減らないお菓子。
だけど食べきらなければ終わらないお茶会。
そんなシーンを再現した。
仕事の忙しいケネスは別にして、エリオットも誘ったんだけど「ジェーンエマのキャラクターのコスプレして来てね♪」って行ったら、見事に無視された。
「じゃ、先にお庭に行っていて。
わたしはお客様をお迎えしてご案内するから」
二人にいってエントランスに向かう。
時間ぴったりに車寄せに馬車が走り込んできた。
「はじめまして、ロレッタお姉さま。
パトリシア・ハミルトンと申します。
パティって呼んでください。
今日はご招待ありがとうございます」
グレンと家庭教師に付き添われて馬車から降りてきたグレンの妹さん。
赤いエプロンドレスの裾をあげてちょこんと頭を下げる姿はまさに童話の主人公のジェーンエマ。
事前に「エマのコスプレして来てね♪」とお願いしておいたんだけど。
ドレスだけじゃなくて髪型までエマと同じにして来てくれた。
「せっかくご招待していただいて申し訳ないけど、急に取引先から呼び出しが掛かってしまって。
妹をよろしくお願いします。
終わる頃迎えの馬車を向けますから」
グレンは忙しそうに言って帰ってしまった。
ちぇっ。
今日はお父さまもいないし、何とか御近づきになってあれやこれや聞き出したかったのにな。
「ロレッタお姉さま? 」
少しがっかりしながらグレンの馬車を見送ると、パティが心配そうにあたしの顔を覗き込んできた。
「行きましょう。
スミレ獏が待ちくたびれちゃう」
パティの手をとって庭に向かう。
「わぁ! 本当に素敵なお庭! 」
庭をひとめみるなりパティははしゃいだ声をあげた。
せっかくだから庭師に頼んでお話のお庭にあったような小さなドアや宙に浮く窓を設置してもらった。
お話の中と同じ空色の食器に、お話オリジナルのお菓子に見立てたお菓子を並べた。
「お席にどうぞ。
エリナ先生も楽しんでくださいね」
パティと付き添いの家庭教師を案内してあたしも席に付く。
「そういえば、猫の執事は? 」
席に付くと同時にパティが周囲を見渡す。
猫の執事はお話の中で主人公の目の前でワインセラーに駆け込み、後を追った主人公を不思議の国へ誘うキーパーソン。確か手足と耳が黒い独特な毛色をしていた。
だけど、このお茶会のシーンには出てこないんだけどな?
「お兄様が教えてくださったの。
このお邸には猫の執事とそっくりの本物の猫がいるって」
「えっと、それは…… 」
多分、あたしのキッチンにいるスティッキーのことだよね。
言われてみると確かにスティッキーは猫の執事に毛色が似ている。というか、このお話の作者さん、絶対この珍しい種類の猫をモデルにしたよね。
言葉に詰まるとパティの背後でケイトが怖い顔で両腕を胸の前でクロスさせばってんを作っていた。
だよねぇ。
あの猫、十年以上飼っているのに全く人馴れしてなくて抱き上げるどころか撫でることもできない。
おまけに気が荒くて、子供相手じゃ無理に連れてきても絶対爪を立てて怪我をさせる。
ケイトはあたしが熱心にお世話しないからだって言うけど。
仕方ないじゃない。
猫は前世から苦手なのよぉ。
「今日はお休みかな?
そのうちに気が向いたらでてきてくれるかもよ? 」
いないって嘘つくのは気が引けるから、適当に言って誤魔化しておくことにする。
「残念だわ。
でも、お話の中の猫の執事もすぐにお休みしちゃうんだものね。
本当に猫の執事みたい! 」
目を輝かせている。




