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「ごめんなさい、お待たせしてしまって。
いらっしゃいませ。
急なご招待を快く受けていただいて、嬉しいですわ」
挨拶代わりに謝って階段を降りた。
「ご招待ありがとう」
グレンは人懐っこい笑みを浮べる。
「娘がどうしても、君とゆっくり話をしたかったみたいで、悪かったね」
お父さまったら、その余計なところはいいんだってば。
「とんでもない。
私の方こそお嬢さんとゆっくりお話したいと思っていたので光栄です」
「立ち話もなんだから、ダイニングへどうぞ」
お父さまがグレンの案内をはじめた時だ、突然エントランスのドアが叩かれる音がホールに響いた。
「こんな時間に申し訳ありません、侯爵。
どうしてもロレッタの顔を見たくなって」
げっ、どうして今夜に限ってケネスが訪ねてくるのよ?
「今日は一段ときれいだね。
そのドレスよく似合っている」
ケネスはあたしの手をとると甲に軽くキスをする。
本当はNGなんだけどさ、とりあえずみているのがお父さまだけだからギリセーフ?
何しろお父さまにしてみたら、もうあたしのお婿さんはケネスだって言うのが本決まりみたいだから。
ケネスもそれをわかっていてわざとやっている。
「今から晩餐なんだけど、殿下もご一緒にいかがですか? 」
お父さまがごく自然にケネスを晩餐に誘う。
お父さまにしてみたら、相手がケネスじゃこういわないわけに行かないのはわかっているけど、都合が悪いなぁ。
「ありがとう、ではそうさせていただこうかな。
いいよね、ロレッタ? 」
ケネスがいつものあの笑顔を浮べる。
「え? ええ、是非。
ご一緒していただけたら嬉しいですわ」
本当は邪魔以外の何者でもないんだけど、そう言うしかないじゃない。
お料理の方は万が一を考えて余分も作ってあるから問題ない。
「ですから侯爵、あの豆は今後絶対に値上がりしますよ」
「とは言っても、単価が高すぎるんだよ」
「そこは交渉次第だと思いますよ」
「なら、その交渉は君に任せていいかな? 」
何だかんだ言いながら食事が始まるとお父さまとグレンは早々に仕事の話をはじめてしまった。
こっちは食べっぷりをみるだけでもおおよその好き嫌いは把握できるから、最初の目的は達成してるんだけど。
「それで、今日は何の晩餐会だったんだい? ロレッタ」
二人の会話をよそにケネスが訊いてくる。
「お聞きの通りよ。
お仕事の話。
わたしもカフェのメニュー開発に少しだけ関わっているから、ご一緒しているだけ。
退屈でしょう? ごめんなさいね」
「いや、面白いよ。
貿易の知識も頭に入れておいて無駄にはならないしね」
さすが王子様と言うべきか。
そもそも近衛になれるのに、近衛にならなかったのも見聞を広めるためだって聞いている。
「そう?
だったらいいんですけど」
うう、話が続かないよぉ。
お客様を退屈させちゃいけないってわかっているけど、ケネス相手だともう話すことなんか何にもないんだよね。
「そういえば、レイモンド殿下は? 」
何でもいいや、適当に話振っちゃえ。
あたしとケネス。二人の共通の話題っていったらこれっきゃないでしょ。
「うん、忙しくやってる。
それより、僕には訊いてくれないの? 」
「ケネスが忙しいのはいつものことでしょう?
門番の仕事までしてるって聞いたわよ」
「しったっぱだからね。
皆と同じように何でもやるよ。
でなきゃ、軍に入った意味がない」
ケネスは快活に笑ってる。
きっと近衛になるのもすぐなんだろうな。
「この白身魚のポワレ、美味しいですね。
これはロレッタ嬢が? 」
だされたメインのお皿をぺろりと平らげ、グレンがこっちに話を振ってきた。
見た目よりも大食漢?
「残念ながら、これはお母さまよ。
今日のお料理はお母さまと手分けしたの。
わたしはこの後の肉料理担当」
ポワレを口に運びながらわたしは言う。
うん。今日のお料理お母さまよっぽど力入れたみたいで、焼加減も上々。
お母さまの手に掛かったお魚は、魚嫌いでも不思議と食べられちゃうほど美味しいのよね。
「そういえば、ロレッタ嬢は異国の調味料を使った料理がお得意とか?
楽しみだな」
「残念ながら今日は普通の蒸鶏よ。
一皿だけ味が変わったらせっかくのテーブル壊してしまうもの」
「それは残念、次にはご馳走していただけら嬉しいな」
グレンが言ううちに次のお皿が運ばれてきた。
こういう時料理する人が一緒にテーブルにつくのって不便よね。
出来るだけ冷まさないようにってケイトにもお願いしておいたけど、やっぱり少し冷めてる。
「ロレッタの料理は、普通のコース料理でも美味しいよ。
少し変わっていて面白いし」
もう、ほんと、ケネスのこういうところ普通のお嬢さんならころっとくるよねぇ。
ケネスが一緒になるんなら、何か理由をつけてエリーとエリカさんも誘えばよかったかな?
そういえば、グレンの妹の家庭教師。
確かエリナ先生とかって呼ばれていたっけ。
気になるんだけど、どうやって話題を振ろう?
「……確かに、少し変わっているかも? 」
グレンがお肉を少し口に運んで顔を顰めた。
「ごめんなさい、鶏肉苦手だった? 」
「いいえ、ただソースが食べたことのない味だったからびっくりしただけ。
これは、マヨネーズだけじゃないよね?
マヨネーズだと思ったから、少し意外だった。
これはこれで美味しいよ」
「ええ、少しアレンジしているの。
鶏肉が淡白だから、この方がいいかなって」
「言っただろ、ロレッタの料理は少し変わっているって」
「本当に不調法で、申し訳ないわ。
この子ったら、どこでこんなお料理覚えてきたんだか?
子供の頃からそうでしたのよ。
誰も食べたことのないものを作ってしまったり、異国の調味料を欲しがったり。
呆れますでしょう? 」
お母さまが首を傾げる。
前世の記憶だなんて言ったところで信じてもらえないだろうから黙っているから、お母さまが知らないだけ。
「いえ、とんでもない。
お話は変わりますが、このお邸には素敵なお庭があるそうですね。
実は、妹がここのお庭の噂をどこからか聞いて、是非一度見てみたいといっているんですが、今度連れてきていいですか? 」
そのお庭って、きっとロレッタガーデンのことだよね。
特別内緒にしていたわけじゃないけど、庭の一角だしそんなに噂になるような場所じゃないと思うんだけど?
「もちろん、大歓迎よ。
ね、お父さま」
だけど、ラッキー!
これでエリナ先生と接触できるよね。
とにかく接触しないことには、単に雰囲気が似ているだけなのか、ヒロインなのか判断もつきやしない。
「ああ、いつでも、どうぞ」
お父さまが頷いてくれる。
「ありがとうございます。
今、妹達の間で話題になっているみたいで。
ほら、子供の遊べるような場所、この辺りでは限られていますから、どうしてもってせがまれてしまって」
確かに。
この世界、貴族の子弟ともなると行動範囲限られているからなぁ。
公園と動物園と博物館だけじゃ、一週間持たずに飽きそう。
あたし達だって、子供の頃のピクニックランチ会もっぱら我が家の庭だった。
だからお父さま、あのお庭の花季節ごとに植え替えるなんて贅沢なことしてくれたんだよね。




