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それにしても、参ったなぁ。
まさか四人目の攻略対象が出て来るなんて、計算外だわ。
これまでケネスとレイモンド、エリオットの三人の食の傾向、十年かけて調べて分析して、やっと終わったと思ったのに。
何故に四人目が出てくるかなぁ?
それにグレン、今のあたしの状態だと基本情報ゼロなんだよね。
十年も前にやった、と思われるゲームの細かいところまで既に憶えていないし。
どうにかして接触して探り出さなくちゃいけないんだけど、できればお近づきになりたくないタイプなんだよねぇ。
絶対ややこしいことになりそう。
その上……
ヒロインが三人ってどういうこと?
てっきりヒロインはエリーだと思ってたから、事あるごとにお宅に伺ったり自宅にご招待したりして、それとなくケネスとレイモンドの好き嫌いの傾向耳に入れて、これで完璧! って思っていたんだけどなぁ。
三人のうち誰がヒロインかわからなくちゃ、皆に同じ事繰り返さなくちゃならないってことだよね?
それが面倒なら、誰がヒロインさんか、先に確かめなきゃ。
どっちにしても、面倒なことこの上ないよね。
「ロレッタ? 」
呼びかけられて顔をあげると自分のキッチンに居た。
考え事に夢中になっているうちに邸まで帰ってきてしまったらしい。
目の前でお父さまがあたしの顔を覗き込んでいる。
「なぁに? お父さま」
「氷を持ってきたから、柚子胡椒のアイスクリームを作ってくれないか? 」
言われて調理台を見ると、アイスクリーム製造用に丁度いい大きさに砕かれた氷が届いていた。
「いいけど…… 」
言われてわたしは早速作業に取り掛かる。
ミルク、生クリーム、玉子にお砂糖。
それから柚子胡椒。
今年の春、お味噌やお醤油を取り寄せた時にサンプルとして入っていた。
アイスクリームに悪戯でこれを混ぜたら、お父さまが何故かすごく気に入ってくれて以来時々所望に来る。
「ロレッタ、これ商会のカフェに置けないかな? 」
出来上がったアイスクリームを口に運びながら、お父さまが訊いてくる。
「前にも言った筈だけど。
この柚子胡椒自体が高価だし、アイスクリームは氷もたくさん使うのよね。
少し味をよくしようと思ったらミルクも玉子もいいもの使いたいし。
だから、材料費がべらぼうに跳ね上がるって。
貴族のお邸で晩餐のデザートにするくらいならどうってことはないんだけど、カフェでだすのはね。
あのカフェは貴族専用じゃないもの、お客様の層考えたら高価すぎるかなって」
わたしも同じくスプーンを口に運びながら言う。
うん、お父さまが病みつきになるのもわかる。
ちょっと辛くて塩辛いけど、香りがすっごく華やか。
ただの氷を食べさせるのだってシロップとか氷の輸送費とかもろもろで儲けが出るか出ないかなんだもの。
それにミルクとか柚子胡椒とかかかるわけでとにかく材料費のはるものは提供できない。
「仕方ない、諦めるか」
お父さまは溜息をつく。
「お父さまの分だけでしたら、いつでも作って差し上げますわ」
あたしは笑顔を浮べる。
「それで、お願いしてあったカフェの新メニューの方は順調かい? 」
「ええ、多分。
今回はオレンジとチョコレートの組み合わせにしましたの。
もうすぐお披露目できると思いますわ」
カフェって言えば、あの男。
どうして開店前のカフェに居たんだろう?
「ロレッタ?
今日はずっと難しい顔をしているけど、何か考え事かい? 」
「ええ、お父さま。
あのグレン・ハミルトンとか言う方…… 」
「グレンが気になるのか? 」
「ええ、朝早くからカフェに居るんですもの、よっぽど暇なのかしらって」
「いや、暇なことはないと思うよ。
グレンにはね、商会の営業の一端を担ってもらっているんだよ。
仕事に関してはなかなか優秀だよ」
だろうな。
お父さまの言葉に納得。
あれだけ愛想がよくて口が巧ければ、そう言う仕事には向いているよね。
ただ、あんなに毎日女の子引き連れていて、仕事になるんだろうか? という疑問はある。
それは置いといて、攻略対象の食の好みを探るにはやっぱり一緒に食事をするのが一番よね。
「ね、一度ゆっくりお話してみたいから、今度晩餐にご招待してくれる? 」
だったら、これが一番確実。
あたしがデビュタント済みなら、何処かの貴族の晩餐会とかで一緒になった時にそれとなく探るって手もあるんだけど、残念ながらまだ十五なのよね。
デビュタントまでには二才足りない。
かといって、個人的に誘いに乗るのは危なすぎる。
「おいおい、どうした?
妙に積極的だね?
だけど、ロレッタにはケネス殿下が居るだろう?
晩餐に招待したなんて殿下の耳に入ったらどう思われるだろうね? 」
お父さまが目を見開いてついでたしなめるように言う。
もう完全にあたしがケネスのところにお嫁に行くの決まりきっていると思っているんだよね。
「だからお父さまにお願いしているのよ。
わたし個人の食事会にご招待って訳には行かないのは充分承知よ」
そんなことしたらケネスが黙っていないのは簡単に予想がつく。
でもって二人ともご招待したら、ケネスのことだもの。
わたしにグレンとお話する暇なんてくれないと思う。
「お父さまの催すホームパーティとか、個人的な晩餐にならわたしもご一緒できるでしょう? 」
ついでに会社関係ってことになればケネスも排除できる。
一石二鳥。
「わかったよ。
じゃ、日にちを調整するから、暫く待っていなさい」
「ありがとう、お父さま。
アイスクリーム、もう一皿いかが? 」
とりあえず、お父さまの機嫌をとりもっておいて、グレンの方はこれでよし。
この手を何回か使えば、そのうちには多少なりとも情報が引き出せるでしょう。
後は、ヒロイン(かもしれない)二人だよね。
やっぱり、最初の作戦同様、お友達になるのが手っ取り早いよね。
だったら何か、カフェにいける理由……
そういえば、シロップに入れた果皮、材料の中に書いてないような?
「ケイト! 出かけるわよ」
あたしはアイスのお皿を置いて立ち上がる。
「お嬢様、どうしました? 」
ケイトが戸惑った声をあげた。
「カフェに教えてきたカキ氷のシロップの材料に不備があったの!
お父さま、行って来ます! 」
ご挨拶だけしてお父さまを残してキッチンを出た。
「なにも今日でなくても、よかったのではありませんか? 」
日傘を並べて、街の往来を歩きながらケイトが不満そうに言う。
そりゃ、そうよね。
今日はこれからお作法の先生が来るはずだった。
それをさくっとスルーして出てきちゃったんだから、ケイトにしてみたら面白いはずがない。
お母さまに怒られるのは、家庭教師の先生の授業をサボったあたしじゃなくて、監督不行き届きのケイトの方だ。
「だって、そしたらカフェの方、明日まで商品開発中止になってしまうのよ。
それじゃ、あんまりにも申し訳ないでしょう? 」
とりあえずもっともらしいことを言っておく。
本当は今日限定の言い訳を思い出したから。
明日になったら本当に不備があればカフェの方から連絡がきちゃうから、この手は使えない。
それに今日ならエリちゃん間違えなくカフェに居る。
あのカフェ年中無休だから、シフトによっては会えないし。




