-2-
自分のキッチンへ戻ると、モリーに言ってオーブンの温度を上げてもらう。
まず、チョコレートを湯煎で溶かして玉子をミルクでといた物を入れてよく混ぜたら、ホットケーキミックスを入れる。
本当は粉から計量しなくちゃいけないんだけど、とりあえずだからまあいいか。
型に流してオーブンに入れる。
次にバターをクリーム状に練って、お砂糖、玉子、ココアと粉を混ぜたものを順番に混ぜ、こちらも型に入れて同じオーブンに。
と、まぁ、配合や一部材料を変えて、全部で五種類のブラウニーもどきを焼いた。
かき氷とあわせてどれが一番味的物理的に合うか検討だね。
あとは氷に掛けるオレンジシロップなんだけど……
オレンジ果汁を軽く煮立てて蜂蜜を溶かす、酸味にレモン果汁を足して香り付けはオレンジリキュール。
「どう? ケイト。
リキュールと相性のいい花蜂の蜂蜜使ったんだけど、甘味お砂糖のほうがいい? 」
出来上がったシロップをケイトに差し出す。
「そうですね、実際に氷に掛けてみないとなんとも言えませんけど。
香りはいいですよね。
味は…… 」
ケイトはシロップを小皿にとってから指先につけて舐めると言う。
「お抹茶シロップのカキ氷をいただいた後だと少し物足りないかも知れません。
これだと今までのいちごシロップと大差ないと言いますか?
抹茶シロップの苦味が新鮮でしたので」
苦味かぁ。
カフェって言う場所柄子供はほとんど来ないから、少し大人向けの味でもいけるよね。
そこは付け合せのブラウニーでカバーできるかな?
で、なかったら……
シロップの中にオレンジの皮のすりおろしを少々。
「これで、どう? 」
「あ、いいですね」
ケイトの顔が綻ぶ。
この顔はかなりいい線行っている証拠。
あとは氷に掛けて冷えた時の味の変化だよね。
残念ながら今日、ここには氷来ていないから、明日カフェに持っていってからかな?
なんて考えているとオーブンからブラウニーの焼けたにおいが漂ってきた。
どっちみち、これが冷めなきゃ氷の上に添えられないから、明日だよね。
「今日、ハミルトンのご長男に会ったんだって? 」
晩餐の席で、お父さまが訊いてきた。
「ええ、カフェでお声を掛けてくれましたの。
でも、わたし以前にお会いした記憶がなくて、失礼なことをしてしまったわ」
白身魚のソテーを口に運びながらあたしは言う。
う~ん。
相変わらずお母さまのお魚料理は絶品。
特にこの白身のお魚をオリーブオイルでソテーしたの、大好き。
今日のソースは一段と美味しいなぁ。
思わず顔が綻ぶ。
このソース、レシピ教えてくれないだろうか?
とか思うけど、残念ながら、お母さまの口はレシピに関して異常に硬い。
なので、ロレッタのオリジナル手持ち料理はほぼ前世の記憶の家庭料理。
自分で言うのもなんだけど、この子の舌本当にすごくて、前世であたしが作ったことのないものでも、記憶に残った味から再現してしまった。
この調子で、お母さまのお魚料理もまねっこいけるんじゃないかと思うけど、お母さまに敬意を表してまだ、難しいことにして手を出していない。
それにさ、この世界のお魚って切り身になってパックに入ってないんだよね。
頭も内臓もついたまんま。さすがに前世の切り身がすりこまれっちゃっているから見た目からしてグロイ。
鱗があったり骨があったり下ごしらえ面倒だし、手は匂いがつくし、率先してやりたくはないってのが本音。
「いや、多分あったことはないんじゃないのかな?
父さまの記憶違いじゃなきゃ、今までロレッタにグレンのこと紹介したことないし。
それに、グレンは街の年頃の女の子の顔なら知らない顔はないと思うよ」
「そんなに、顔の広い方なの? 」
そういえば今日も女の子たくさん連れていたっけ。
「広いというか、その……
グレンは女の子に興味がありすぎるんだよ。
だから、絶対に近付くんじゃないよ」
……ああ、そう言うことね。
遠まわしに言われてもなんとなくわかってしまった。
要はチャラ男君ね。
ま、興味ないからいいけど。
あれだけ、各パーツのつくりがよくて愛想がよければ黙って立っていたって女の子が寄ってくるでしょ?
その上今日の感触じゃ、口も巧いかな。
自分より明らかに年上のケイトのことまで誉めてたもん。
あれ?
黒髪ロングの見た目落ち着いたチャラ男?さん。
何処かで……
「あー! 」
あたしは思わず握っていたフォークを頭上に突き上げ大声を上げていた。
「なんですか? ロレッタ。
お行儀の悪い」
目の前でお母さまが眉を上げている。
「ごめんなさい、ついうっかり…… 」
あたしは突き上げたフォークを慌てて下ろすと小さくなる。
「どこで、そんなお行儀憶えてきたのかしら?
お作法の先生を変えるべき? それともお作法の勉強時間を増やしたほうがいいのかしら? 」
眉根を寄せながらお母さまはお父さまに向き直った。
「それが、だな…… 」
「それが、どうなさいましたの? 」
「行儀作法の家庭教師が言うには、ロレッタにはもう教える事がないと…… 」
幸いなことに、二人で話をはじめてしまったから、こっちへのお小言は置き去りになり、助かった。
そうだ黒髪ロングのチャラ男くん。
あいつだ。
ゲームの中であたしが三人目にノーマルエンド攻略した、グレン・ハミルトン。
前世の記憶が戻ってはや十年、その間に蓄積されたロレッタの記憶に埋もれてすっかり忘れていたわ。




