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う、そ、だ。
嘘だ、嘘だ、嘘だぁあああ!
どうりで、あの時みんなの視線が集まるはずだわ。
そりゃ、ケネス怒る筈よね。
レイモンド、あたしがケネスの婚約者候補だって知っててその上で、あたしのこと婚約者だって公表したってことだもの。
失敗した。
知ってたら、交わすとか、逃げるとか、「冗談がすぎる」って笑い飛ばしてその場を繕うとか、何か手があったはずなのに。
知らなかったから、やったら受け入れちゃったぁ。
つまり、あたしも了承しているって意思表示したってことだよね。
と、いうか、ちょっと待って?
「王子さまのお妃さまってお料理の選定試験で決まるんでしょう?
だから試験を受けられることに決まっても、あくまでも婚約者候補どまりなのよね。
わたし、レイモンドさまの選定試験なんて受けていないわ。
それ以前に選定試験の受験者に内定もしていないんですけど? 」
何故に、その手続きを全てすっ飛ばしたようにロレッタが婚約者になるんだろう?
「それなんだけどね、選定試験なんて実は口実……
いや、口実と言うかなんと言うか。
確かに試験は行われるけど、七十パーセント以上王子さまの評価が優先されるからね。
目も当てられない料理ベタとか、とんでもない味覚の持ち主で恐ろしい味付けの料理を作るとかない限りは、今後一生お妃の料理を食べなくちゃいけない王子さまの意思が優先されるシステムなんだよ。
だから、今の王妃様だって、っとゲホン、ゴホン! 」
うっかり口を滑らせそうになってお父さまは慌てて誤魔化した。
つまり、あのパティシエ顔負けのスイーツを作る王妃様、実は上手なのはスイーツだけで普段の食事はそこそこなのかも知れない。
もしも、国王様が無類のスイーツ好きなら、それでも合格しちゃうわけなんだ。
「そんなわけでね、レイモンド殿下の意思でお前の第一王子様の選定試験の参加は決定。
ついでに合格も決まったってことだよ」
うそ、でしょぉ?
誰か、嘘だって言ってぇぇぇぇ!!!
どうしてそうなるのよぉ?
こんなことにならないように毎週のお弁当はできるだけ手抜きして、それとなく食の好みを探ってきたのに。
全くの無駄になっちゃったぁ。
「だって、わたしケネス、さまの候補者ってことになっていて、二股はできないんじゃないの? 」
呆然と呟く。
「普通はそうなんだけどね。
お二人が自ら希望したとなれば話は別だ。
最終的には試験の早い方の婚約者に決まることになると思う。
年齢から考えてレイモンド王子の方だろう。
おかげで、今宮廷では日程調整に大騒ぎだよ。
最初の予定では王子のデビュタントと同時に試験を行う予定だったからね。
王子が指定した令嬢がまだ十歳では話にならないと」
お父さまが困ったように言う。
「どうしよう、お父さま…… 」
悪寒がしたわけだ。
青ざめたままで、あたしは消え入りそうな声で訊く。
知らなかった、で済ませられないかな?
「ロレッタのせいばかりじゃないよ。
まさかレイモンド殿下がこんなことを考えていたなんて、思いもしないでお前へのご招待を許可してしまったわたしの落ち度だ」
お父さまは渋い顔をする。
「一応、娘はまだ小さいからと私の教育不行き届きということで、謝っては来たけどね。
どこまで世間が信用してくれるか。
少なくとも、レイモンド殿下はそのつもりのようだから」
だよね。
でないと、そんな大事になること、思いつきや悪戯でやらかすような人じゃない。
「とにかく、誰かに何か訊かれたら、ロレッタは知らなかったで通すんだよ」
「迷惑かけて、ごめんなさい。
ありがとう、お父さま! 」
あたしは父親に抱きつくと、軽く頬を寄せる。
正直まだ慣れないっていうか、やりたくないんだけど、こうすると父親が一番喜んでくれる。
「それより、何か美味しそうな物を食べているんだね」
話が済むとお父さまは早々にあたしの食べかけのお茶漬けに目を留める。
本当にこの人、目新しい食べ物のこととなると目ざとい。
「父さまにも、ご馳走してくれないかな?
その、今夜の晩餐食べ損ねてね」
情けないような笑顔を浮べる。
この人のことだから、きっと愛娘の失態に晩餐会どころじゃなくなって、慌てて奔走してきたんだよね。
「ちょっと待っていてね、今何か作るから」
仕方ない、ここは腕を振るおう。
腕を捲くりながら調理台に立つ。
ご飯は冷ご飯しかないから、お茶漬けでいいとして。
ツナマヨをきゅうりの千切りの上にかけてサラダにして。
ささみとナスに田楽味噌を塗って焼くっと。
あと、スープは乾燥ワカメにきのことお味噌。
お母さまと張り合っても無駄なのはわかっているから、それを避けるとどうしても和食になっちゃう。
ま、いいか。
お父さま、物珍しそうに何でも美味しそうに食べてくれるから。
「どうぞ、お父さま」
今朝漬けておいた根菜の酢漬けを添えて、出す。
「ロレッタ、その瓶の中の粉はなんだい? 」
早速お茶漬けの素に興味を示す。
「これ?
お茶漬けの素のこと?
お茶漬けにする調味料と乾燥した具材をあわせておいたの」
目をつけてもらっても、さすがにこれは。
この国の人たちの主食パンだし、お米は輸入品で高価だってケイトが言っていたから、商品にはならないよね。
今度、かけて焼くだけで美味しいトーストにでもなりそうなものでも考えよう。
「ご馳走様、美味しかったよ。
相変わらず、独創的な料理だけど、腕をあげたね」
暫くしてあたしと一緒に食事を済ませたお父さまは箸を置く。
「お父さま。
本当にごめんなさい、もっと真剣にマナーのお勉強します」
食器を片付けながらあたしはもう一度謝る。
今回のことは本当に、この人に大迷惑かけることだったって身にしみたから。
よりによってねぇ、侯爵令嬢ふぜいが国王陛下の王子さま二人に二股かけるなんて、絶対あってはいけないこと。
次にケネスに会う時、なんて言って謝ろう?
「あぁ、頑張りなさい」
いつもの柔らかい笑顔を浮べると、お父さまはあたしの頭をくしゃりと撫でてキッチンを出て行った。




