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なんか、大変なことになっちゃったなぁ。
自室のベッドに飛ぶ込むとあたしは溜息をついた。
もう全面的にあたしが迂闊だったんだけど。
まさか、前世のあたしの常識からしたら、あんな世間の常識があるなんて、予想さえできなかった。
加えて、箱入り娘すぎるロレッタ。ちびっこの時からそう言ったことを把握するの人並み以下だったんだよね。
それをレイモンドに逆手に取られた感じになっちゃった。
もしかして、レイモンドは何らかの理由でまだ婚約者を決めたくないのかも知れない。
ん? なんか変?
あたしの思考は妙な違和感に引っかかり止る。
確か、ゲームの中ではレイモンドの試験は七年後、ロレッタが十七歳の時だ。
でも、さっきのお父さまの話だとレイモンドの試験はデビュタントすぐが予定されていた。
一歩引いて俯瞰してみると、それがロレッタが引き合いに出されることで、最初のゲームの通りになるように修正されたように見える。
もしかして、何らかの力が修正をかけているとしたら?
あたしの王妃コース、まっしぐら?
冗談じゃない、そうならないように、この五年ずっと頑張ってきたのにぃ。
こうなったら、何がなんでも、ヒロインちゃんに王妃押し付けてやるんだからっ。
事は簡単、恐らく最初に来るレイモンドの試験を落ち、二人目ケネスの試験をボイコットでもすれば、晴れて自由?
手間は増えることになりそうだけど、一応お先まっくらではないみたい。
と言うかどーしてあたしが二人の王子様のお相手のライバルしなくちゃならないのよ?
そんなの、どっちか一人の相手で沢山だよ。
あ、でももともとゲームの中でケネスコースもレイモンドコースも、ヒロインのライバルはロレッタだったんだよね。
じゃ、やっぱりシナリオどおりなのかな?
でも、そうなると、この先残りの攻略相手が現れたりしたら、うわぁ…… ロレッタ躯幾つあっても足りないじゃない。
「お嬢様、起きてください。
お時間ですよ」
不意にケイトに声をかけられ、あたしはガバッと飛び起きる。
考え事しているうちに眠っちゃったみたい。
「ふわぁ…… 」
大きな欠伸をしながらベッドを降りる。
「はしたないですよ、お嬢様。
そんなに大あくびなさって。
もしかして、よく眠れませんでした? 」
洗面器にピチャーの水を注いでくれながら訊いてくる。
そりゃ、自分が迂闊だったとは言え、あんな大事になっちゃったんだもの眠れるわけなんかないよね。
とか、言いながら寝落ちしてたんだけどさ。
「しゃっきりして下さい。
今日はケネス王子さまとのランチ会の日ですよ」
顔を洗ったわたしにタオルを差し出しながらケイトが言う。
うぅ~
正直、やりたくないなぁ。
ケネスにどんな顔して会えばいいんだかわからないし。
いっその事、今日はお休みに……
「ズル休みなんて、ダメですよ、お嬢様」
考えていたことをずばり言われた。
「はい、はい。
わかっています」
昨日の今日じゃ、休んだら、どんな言い訳立てても嘘だって丸わかりだものね。
「そうそう、今朝早くケネス王子殿下からお使いがありまして、もう一人連れて行くからお弁当を一人前増やしておいて欲しいとの事です」
「ん、わかった」
寝ぼけた頭でぼんやりと理解して、とりあえず返事をした。
キッチンに立つと、とりあえずご飯を炊く。
ご飯を炊いている間にベーコンエッグを焼いて、ざっくりと茹でたブロッコリーにマスタードマヨを少し。
お味噌と鰹節を細かくしたのと乾燥ワカメを交ぜてボール状にしておいたのを、お父さまに強請りに強請ってやっと見つけてもらったお椀に入れて熱湯を注げばお味噌汁の出来上がり。
「また、お嬢様手抜きするものをお考えになったんですか? 」
味噌玉を見て、ケイトが呆れている。
「こんなの序の口よぉ」
本当はカップ麺とかレトルトカレーとか冷食とかもっと色々あったらいいのにって思うんだけど、今のあたしの知識とこの設備じゃこのあたりが限界。
「手抜きなんだけど、味は悪くはないですよね」
お味噌汁を飲みながらケイトは頷く。
「それにしても、こんな高価な食器、わたしが使わせてもらっていいんですか? 」
空になった、縁に金のラインの入った朱塗りのおわんを目の高さまで持ち上げてケイトは観察するように見る。
「そのためのものだからいいのよ。
仕舞っておいたって食器棚塞ぐ以外の役にたたないじゃない。
ランチ会はよっぽどお天気が悪くない限り、ピクニックだし」
言いながらあたしもお椀を口に運ぶ。
やっぱりお味噌汁にはお椀だよね。
でないと飲んだ気になれない。
さて、今日のお弁当、何にしようかな?
食事を済ませ、エプロンを付け直しながらあたしは考える。
……面倒なこと、この上ない。
特に今日は、休みたいなんて一瞬でも思っちゃったから、何をしていいんだか思いつかない。
あるのはご飯と、ベーコン、玉子。
それからさっき茹でたブロッコリーと。
食材を言いつけて持ってきてもらうのも面倒だから、これでいいか。
まず細かく切ったたまねぎとベーコンを炒めてご飯を投入、トマトケチャップで味付け。
赤くなったご飯をお弁当箱に詰めて、あとから焼いた薄焼き卵をご飯を被うように掛ける。端っこにブロッコリーと炒めたウインナ-を詰めてっと。
これでいいや。
「ケイト、悪いけど、冷めたら包んでおいてね。
少し休んでくるわ」
洗物にいそしむケイトに声を掛ける。
「もう、できたのですか? 」
キッチンの傍らで洗い物をしていたケイトが軽く振り返って訊いてきた。
「相変わらず、早いですねぇ」
エプロンの端で手を拭きながらこっちに来ると、お弁当箱の中を興味深そうに覗き込んだ。
「これ、ご飯の上に卵焼き乗っけただけですよね?
今日だけじゃありませんよね?
お嬢様のお料理、切っただけ、茹でただけ、炒めただけ、ってあまりにも多くありませんか?
王子さま方に手抜きって、言われません? 」
中身を確認して、ケイトが呟く。
「言われたわよ、先週、アイツに…… 」
あれから一週間も経つけど、今思い出しても腹が立つ。
こっちにしてみれば、冷凍庫から出して入れるだけでお昼には食べごろの冷凍食品もない中、切って茹でて焼いてって、相当手が掛かっている(つもり)なんだけどな。
……まぁ、お母さまのお料理から比べたら確かに手抜きなのは自覚しているけど。
前日から下味つけて、オーブンのにいれて三時間じっくり焼いて、食べごろの温度になるまで余熱で火を通しながら待つ、とか。
茹でて、潰して、捏ねて、衣をつけて揚げて、なんて、そんな面倒なもの、お弁当にできるわけないじゃない。
お弁当なんて、おなかが膨れればいいのよ。
というのがあたしの持論。
それに、これ以上、餌付けてたまるもんですか。




