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食事会を終え腹立ち紛れに邸に戻る。
もぉ、せっかくお父さまが手配してくれたお弁当箱だったのに、雰囲気最悪よぉ。
うめきたい気分でキッチンのドアを開けた。
「お帰りなさいませ、お嬢様。
喜んでください! だんな様の許可が降りましたよ! 」
目いっぱい弾んだケイトの声が迎え入れてくれる。
「許可って何の? ケイト」
あたしは惚けた声をあげた。
とりあえずお父さまにおねだりして保留になっているものはない、筈。
「こちらですよ」
ケイトは先ほどレイモンドの持ってきた招待状をあたしに差し出した。
シーズンにはお父さまとお母さまの元に何通も届く社交界で、夜会や舞踏会への正式な招待状なんだけど。
「何かの間違いよね?
まだデビューもまだのあたしには縁のないもののはずだもの」
あたしは首を傾げる。
「ですから、レイモンド王子殿下がだんな様を説得してくださったんですよ。
お嬢様には今までお世話になったので、どうしてもご自分の主催するお茶会にご招待したいと」
そういえば、王族の子弟の場合、社交界へのデビューが決まると、デビュタントの直前に年の近いデビュー前の友人を集めてお茶会を開くって聞いたことがある。
社交界に出て正式に成人と認められる前の若者は、夜会等に出席することは禁じられているから、デビュー前に今までのお礼の意味をこめてまだデビューできない人たちにお茶会をするのが慣例になっている。
ただし、あくまでも同じくらいの年頃の人たちが中心で、七つも年下の完全な子供は例外のはずなんだけど。
そこのところをレイモンドが巧くお父さまを口説いてくれたってことだよね。
「早速ドレスを作って下さるそうですよ」
お父さまにしてみたら、あたしがこの年で王族のお茶会に招待受けたこと、きっと嬉しくて仕方がないんだろうな。
恐らく、とんでもない豪華なドレスを作ってくれちゃいそう。
さすがに面倒だなんて言えない?
「あら、気が乗らない、みたいですね」
あからさまに溜息をつきたい気分でうなだれていると、それを察したようにケイトに訊かれた。
「あ、ううん、なんでもない。
ドレス、楽しみだなぁぁぁあ」
慌てて否定してみたけど、台詞を棒読みしたみたいになっている。
「まぁ、お嬢様も色々お忙しいですから、ドレスの採寸に時間を取られるのがお嫌なのはわかりますけど。
そうだ、いっそのこと旦那様にお願いして、お店に連れて行ってもらって採寸してもらいましょうか?
お店の人に来てもらうより時間は掛かりますけど、馬車で移動したりお店の中を見られたりしますから、少しは気分転換になると思いますよ」
あたしの機嫌を察してか、ケイトが取り成すように提案してくる。
「別に、いいわ。
お父さまもお忙しいし、待っていたらお茶会の前日になってもお店になんていけないかもよ? 」
貴族の幼い子弟が両親、祖父母、年上の兄弟、年の離れた成人済みの婚約者の付き添いなく、外出できないのはこの世界の常識。
「でも、ありがとう。
わたしがもう少し大きくなって、二人でお出かけできるようになったら、そうしましょ」
持って帰ってきたお弁当箱を、そっと調理台に下ろした。
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
くるんと縦ロールに巻いた髪を高めの位置でツインテールに結って、ローズピンクのリボンと造花を結ぶ。
「さぁ、お嬢様。できましたよ」
鏡を前にケイトは薄らと額に浮かんだ汗をぬぐった。
鏡にはリボンと同じ色のドレスを着た、あたしの姿がある。
丁寧に整えられた縦ロールに、レースのあしらわれたドレスを着て鏡に写っているのは、まるでビスクドールのように見えた。
この日のためにお父さまが仕立ててくれたドレスは、凝った刺繍レースが贅沢にあしらわれて、相当高価だったと予想される。
ドレスの価値もわからずにどうせすぐに染みでも作っちゃう子供に、こんな高価な物作ってくれちゃうんだから。
とか、思うこと自体、前世の暮らしレベルが染み付いちゃっているなぁ、あたし。
「ロレッタ、準備は済んだかい? 」
腰の後ろで結んだリボンがきれいに整っているか確認していると、ノックの音と同時にお父さまの声がした。
「ありがと、ケイト。
じゃ、行って来るわね」
着替えを手伝ってくれたケイトをねぎらって部屋を出る。
「わかっていると思うけど、今日ご招待を受けているのはロレッタだけだからね。
父さまは会場には入れないけど、大丈夫かい?
ケイトもいないけど、一人でお行儀よくできるよね」
いつものように馬車の中でお父さまは心配そうに言う。
「大丈夫よ、お父さま。
わたしもう十歳よ、何時までも五歳のちびっこ扱いしないで!
お作法の先生にも、覚えが早いって誉められているんだから」
「だと、いいんだけどね。
ロレッタは、殿下方と普段お友達のように過しているだろう?
だけどもそれは本当はとっても失礼なことなんだよ。
だから、お父さまや家の者以外の前では、もう少し、その、距離を取って礼儀正しくしなくちゃいけないよ」
……はぁ、そう言うものですか。
じゃ、ケネス、レイモンド呼ばわりは不味いよね。
ランチ会五年も続けていると、つい気心が知れてついでに王子さま方が格式高い呼称を嫌がっているのを知って、何時の間にか呼び捨てになっていた。
んじゃ、今日は大人しくさま付けで呼んだ方がいいよね。
「それと、殿下方のお友達の年上のお兄さんお姉さんがたくさん来ているはずだから、その方々とも仲良くなさい。
失礼にならないようにね」
初めての公式のお茶会だからか、今日のお父さまは言うことが多い。
「わかっています。
心配なさらないでお父さま」
いい加減黙らせないと、この話、お城につくまで続きそうだ。
あんまり細かいこと言われると、素敵なドレスでせっかく上がったテンションがた落ちになりそう。
そもそも今日のお茶会、年齢層が十歳のあたしよりかなり上なんだよね。
それだけでも礼儀作法とか面倒で、気が重いのに。
ずーんと頭に重石の乗っかった気分でいると、ようやく馬車はお城のエントランス前で止った。




