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炊き立てのご飯に塩を軽く一振りして、鞘から出して塩茹でした若い青マメをさっくり混ぜる。
先週お父さまに貰ったまげわっぱのお弁当箱の片側に半分詰め、出汁を効かせた出汁巻き玉子に昨日揚げておいた鶏の唐揚と塩茹でした温野菜を詰める。
最後に生姜のピクルスを端っこに少々……
「できた! 」
三つ並んだお弁当箱から顔をあげてあたしは呟く。
うん、いいじゃない。
入った具材はありきたりだけど、目新しいお弁当箱のせいか、少し変わって見える。
せっかくレイモンド王子がメンバーから外れて一人減ったはずなのに、お弁当箱の数が減らないというこのジレンマも少し軽減。
未だに娘にでっろでろに甘いお父さまには感謝、かな?
まぁ、二つも、三つも作る手間はあんまり変わらないんだけどね。
諦めて、息を一つ吐くとあたしは手を洗ってエプロンを外す。
「そろそろお迎えの来る時間だから、着替えてくるね」
「では、お手伝いを…… 」
シンクから顔をあげケイトが慌てて塗れた手を拭う。
「大丈夫、一人でもできるもの。
その代わり、洗物が済んだら、おべんとう冷めているの確認して包んでおいてほしいの」
言い置いて、キッチンを出た。
部屋に戻ると、今日着ていく筈の外遊び用のドレスが、しっかりベッドの上に用意されていた。
ドレスに合わせた帽子と靴。
「さすが、ケイト。
冗談抜きで、お母さまにクビにされたら、雇ってあげるね」
呟きながら着替えを済ませると、それを察したかのようにドアがノックされた。
「お嬢様、ケネス王子殿下がお迎えにいらっしゃいました」
表仕えのメイドが知らせてくれた。
「ありがと、今いくわ」
鏡に自分の姿を映して落ちがないか確認して部屋を出る。
「お待たせしました」
エントランスホールに繋がる階段を下りながら、人影を確認して声をかける。
「ロレッタ、今日も素敵なドレスだね」
ん?
早速返ってくるこの声は?
エントランスホールの中央に立つ人影に目を移すと……
やばっ!
レイモンド王子の姿があるよぉ。
先週もう来られなくなったって言っていたからお弁当三人前しか作ってない。
これが大きなランチバスケットとかお重詰めだったら、一人くらい増えても誤魔化せるけど、今日のは一人一個のお弁当箱だから都合いが悪いなぁ。
「あ、ごめんね。
今日は食事を一緒にしに来たわけじゃないんだ」
あたしの思考を読み取ったかのようにレイモンド王子が言う。
「今日はね、これを君に届けに来たんだ」
そう言って一通の封書を差し出す。
くすんだ紅い封蝋で封印されたエンボスの入った封筒は正式な催し物の招待状のようだった。
「ロレッタには少し早いから、スタリナール侯爵に許可を貰いたくて、自分で届けたんだけど、侯爵はご在宅かな? 」
「ええ、多分」
あたしは側で控えていた執事が頷くのを受けて答える。
「よかった。
じゃぁ、お話してくるね。
終わったら、すぐに戻らなくちゃいけないから、食事を一緒にはできないけど。
君のお父さまが許可をくれるのを祈っていて」
レイモンドは執事に案内されて邸の奥へと消えていった。
「お待たせしました。
今日はどこに行く? 」
レイモンドの背中を見送った後、あたしはケネスと、エリオットに向き直る。
正直、何の招待状か気になるけど、今は他のお客様のお相手をするのが優先。
お天気もいいし、季節も丁度いいから今日は絶対外だよね。
それに、お弁当はやっぱり外で食べるほうが美味しい気がする。
「今日は、君の庭でいいんじゃないかな?
僕たちは何回もいっているけど、エリオットは初めてだし」
ケネスがいつもの有無を言わせぬ笑みを浮べて背後に黙って立っている新参者を振り返り、提案してくる。
もっとも今日は予定や約束があったわけじゃないから、反対する気は全くないんだけど。
「じゃ、行きましょうか」
あたしは手にしていた帽子を被ると、二人を誘った。
邸の中央正面にあるエントランスを出て、右手に曲がる。
本当は、エントランスホールを突っ切って反対側へいってバルコニーから出ればお庭に一番近いんだけど、それじゃすぐについちゃうからわざと遠回りする。
その間に使用人の誰かが先回りしてお弁当と飲み物を東屋に届けておいてくれる。
「ね? さっきのレイモンドの招待状って、なぁに? 」
手入れの行き届いたトピアリーの間を抜け、オランジェリーの前を通り過ぎながらあたしはケネスに訊いた。
ケネスなら、あの招待状がどういうものか知っている筈。
「内緒だよ。
兄さんとびっくりさせようって約束したからね」
にこりと意味のありそうな笑顔を向けてくれる。
そう言われると尚更気になるのは、人間の性だと思うんだけど、これ以上追求しても、反対にじらされてケネスを楽しませるだけだし。
それは尚更悔しい。
時間をかけて歩いて、見えてきた東屋は今日も季節の花が満開に取り囲んでいた。
そこまでしなくていいと思うんだけど、庭師のおじさんあたし達が月一くらいのペースでここでランチしているから、気を使ってそのたびに植え替えてくれているんだと思う。
いつものように届いていたお弁当は、桜模様のちりめんのランチクロスに包まれていた。
これも、何時だったか、お父さまが手に入れてくれた物。
さすが、ケイト。
このお弁当箱に一番合うランチクロスを使ってくれた。
「今日のはね、枝豆のまぜご飯にしてみたの。
お口に合うといいんだけど」
いいながら二人の前にお弁当箱を差し出した。
「そういえば、ロレッタ、この時季にはいつでもこのまぜご飯だよね? 」
ケネスは早速包みを開きにかかる。
「卵焼きはケネスの好きな出汁まきよ」
この五年間ですっかり把握したケネスの好み。
青マメの混ぜご飯はケネスの大好物なんだけど、今のシーズンしか若い青マメは手に入らないから、シーズン中何回か続かないようにしながらこのご飯にしている。
問題は、新しいお客様の口にも合うかってことなんだけど。
「どう? 」
ケネスと同じようにお弁当の包みを開けて蓋を取り、早速卵焼きを口に運んだエリオットにも訊いてみる。
「……甘くない」
開口一番、ぼそりと言われた。
やっば、こいつもしかして甘い卵焼き派だった?
エリオットコースは、あたし攻略してないんだよね。
ゲーム内の人物紹介と、コミュ。それから友人の話でなんとなく大雑把にストーリーと結末を知っているってだけで、攻略に関してのデータは全く持っていない。
まぁ、試験までにまだ七年もあるんだから、味の好みとか好きな食材とかゆっくり聞き出していけばいっか。
なんだけど、なんかなぁ。
さっきからこの子ほとんど喋らないんだよね。
「ごめん、卵焼き甘い方がよかった?
甘味はなにがいい? 蜂蜜? 木の実、それともお砂糖? 」
「……特にない。
甘ければ、なんでもいい」
ほとんど抑揚のない話し方で淡々と答える。
「好きなお料理は、何かある?
嫌いな食材とかは? 」
「別に、食べられれば何でもいい」
それも必要最低限、これじゃ会話が続かないよぉ。
仮にも攻略相手エリオットコースの主人公なんだけど、よくこれでシナリオが成立したなぁ。
「今日のお弁当はどう?
卵焼き苦手だったら残してね」
それでも、無理に会話を続けようと試みる。
「ほぼ手抜き。
食べられないわけじゃないから、残さない」
「ぐっ…… 」
なによぉ、その歯に衣着せぬ口のきき方は?
お弁当、確かに手抜きなんだけどさ。
もうちょっと、なんか言い方あるでしょ。
と、っ突っかかりたいところをあたしはぐっと我慢する。
何しろ、側ではケネスがご機嫌でお弁当をつついている。
もしここで険悪な雰囲気になんかしちゃったら、お弁当不味くなっちゃう。
もう無理に会話をするのはよそう。
好き嫌いは追々、お弁当の食べっぷりや箸のすすみ方で探ることにして、あたしもお弁当に集中する。
うん。ご飯の塩気も丁度いいし玉子の焼加減も完璧。
あたし的にはけっこう高評価にできたと思う。
ケネスはいつも通りなにも言わずに食べてくれているし、まぁいいことにしよう。
それにしても厄介なことになったなぁ。
今まで、ケネスとレイモンドは兄弟だけあって味覚が割と似ていたから、同じ物お弁当箱に詰めておけばほぼほぼ問題はなかったんだけど。
出汁まき派のケネスと、甘い派のエリオット、どちらかの好みに合わせればどちらかから不満が出る。
かといって、味を変えて二度玉子を焼くのはとっても面倒。
これは、何か理由をつけて手っ取り早く食事会を解散させてしまうほうがいいかな?




