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上げ膳据え膳希望なので、王子様譲ります!!  作者: 弥湖 夕來
元気になられちゃ困るんです。
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19/72

-7-

 

 

「こちらでお待ちください」

 

 お城につくと案内してくれたメイドに、大きなホールを抜け長い廊下を行った先の前にも来たことのあるガラス張りの部屋に通された。

 さすがに今日は窓もドアも開けられるだけ開けてあり、開かないガラスには日よけのカーテンが掛かっている。

 そのせいで以前に来た時より部屋の中はなんとなく薄暗かった。

 

「ごめん、待たせた? 」

 

 なんだか落ち着かなくてそわそわしていると、レイモンド王子が顔を出す。

 

「起きていていいの? 」

 

 挨拶もそこそこに思わず口にする。

 来られないって言うからてっきり寝込んでいるって思い込んでいた。

 

「寝込むほどではないけど、あんまり食欲がないからせっかくのロレッタの作ってくれたランチ、残すことになったら申し訳ないから、失礼することにしたんだ。 

 心配かけちゃって、ごめんね」

 

 寝込んではいないって言ったけど、夏ばてしているのは確かみたいで、レイモンド王子は先週よりやつれた顔に笑みを浮べた。

 

 やっぱり、食材を持ってきて正解だった。

 

「じゃ、ないかと思ったから。今から、ここでランチ会しましょう。

 ケイト、お願い」

 

 言いつけて持ってきた食材を広げる。

 

 まず今朝炊いたご飯を軽く洗って、深めのお皿に盛る。

 トッピングは焼き塩鱒のほぐしたのと梅干。

 

 あの父親本当によくできた人で、お味噌とお醤油頼んだら、それだけじゃなくて梅干とか緑茶とか昆布とか鰹節、その他もろもろ、いろんな物を手に入れてくれた。

 

 大葉に似た香りのするハーブを散らして……

 粉にした昆布と塩を振り、淹れてきてここまで来る間に冷めた緑茶を注ぐ。

 砕いてもらった氷を浮べて、完成! 

 

「へぇ、なんか冷たそう。

 今日は、何? 」

 

 何時の間にか顔を出したケネス王子がお皿の中を物珍しそうに覗き込んでいる。

 

「お茶漬けよ。

 レイモンド王子さま食欲ないって聞いたから、これなら食べられるんじゃないかって、思って…… 」

 

 少なくとも真夏の食欲がない時には、前世のあたしの定番だった。

 氷を浮べた梅干茶漬けと冷やし中華、それから素麺。

 夏休みの一人のお昼は大概これだったなぁ。

 

「どうぞ。

 無理しなくていいけど、食べられるだけ食べてね」

 

 二人の前にお茶漬けを出して、あたしは次の作業に取り掛かる。

 

 ケイトに砕いてもらった氷に塩を惜しみなく振り、その真中に金属の容器をセットして、ベリーのジュースとレモン果汁を少々。

 暫くすると、金属容器の肌から凍り始めるので適当にかき混ぜて…… 

 

 ベリーのシャーベットの出来上がり。

 

 うん、なかなか上手にできた。

 

 アイスクリームでもと思ったんだけど、甘いの苦手なこの二人にはシャーベットの方がいいよね。

 

「なんですか? お嬢様、これは」

 

 ケイトが不思議そうに訊いてくる。

 

「シャーベット、溶けないうちに食べよう! 」

 

 お茶漬けをぺろりと平らげた二人と一緒に久々のシャーベット。

 

 うん、おいひい。

 

 思わず顔がにやける。

 アイス系のお菓子なんて冷凍庫のないこの世界絶望的だと思っていたから、嬉しいやら、美味しいやら、とにかく感動! 

 

 帰ってまだ氷が残っていたら、ケイトと一緒にアイスクリームも作ろう。

 

「ご馳走様。

 今日のお料理もまた独創的だったけど、美味しかったよ」

 

 シャーベットを食べていたスプーンを置くとレイモンド王子が微笑む。

 

 よかった、軽めの一人前だったけど、何とか完食してくれた。

 全く食べられないわけじゃないから、これなら大丈夫そうだよね。

 

 少し安心して息を吐く。

 

「せっかく来てくれたんだし、何かして遊んでいく? 」

 

 忙しいのに気を使ってくれるけど、夏ばて気味の人疲れさせちゃいけないよね。

 外せないお勉強とかならともかく、ちびっこの相手なんかさせちゃ申し訳ない。

 

「いいえ、今日は帰ります。

 お約束もしていないのに突然押しかけてしまって、ごめんなさい。

 また、遊んでくださいね」

 

 失礼にならないようにお礼を言って、お城を後にした。

 

 

 

 それから、五年。

 あたしは十歳になった。

 

「ロレッタ、今日のランチは何? 」

 

 広大なスタリナール侯爵領の一角にある牧草地で馬を下りると同時に、ケネスが訊いてくる。

 

「今日はね、ミートパイ。あとカッテージチーズとオレンジのサラダ」

 

 自信満々でバスケットをあける。

 

「なんだ、いつもの独創的なお弁当じゃないのかい? 」

 

 ケネスは少しがっかりしたみたい。

 

 こっちは飽きられないように毎週メニュー考えるのに必死なんだけど。

 正直、冷凍パイシートなんてないから、折りパイ生地を作るのは手が掛かって、あたし的には今日のは特別なんだけどな。

 

 何年経っても思い出す。

 何から何まで便利尽くしだった、前世の世界。

 

 レトルト食品、カップ麺、冷凍食品。

 混ぜるだけ、レンチンするだけで手軽に食べられる上に日持ちする食品達。

 

 全部当たり前だと思っていたのに、当たり前じゃなかったんだよね。

 

「何、考えているの? 」

 

 一緒に乗せてもらってきた馬を少し離れた場所に繋いで戻って来たレイモンドが、あたしの顔を覗き込んで訊いてきた。

 

 毎週ピクニックして、戸外の日差しを浴びつつ躯動かして、夏ばてしないように気をつけてたおかげかここ五年で随分健康になった。

 こうして馬に乗って遠出もできるようになった。

 病みやつれた青白い顔の少年だったなんて言われなくちゃ誰にもわからないだろう。

 

 ん? 

 

 ちょっと、待て。

 

 確か、あのゲーム。

 レイモンドコースの場合、次期国王のお妃になってロイヤルエンドを迎えるには、病弱な王子さまを食事で健康にするのが必要条件だったんじゃ…… 

 

 うっわぁ。

 もしかして、やっちゃった? 

 

 元々健康な人間、更に元気にしても目に見えた効果にはならない。

 

 妃の座は絶対回避したいあたしが、攻略対象健康にしちゃってどうするの? 

 

 思わず顔から血の気が引いた。

 

 頭を抱え込みたい気分で抱えていたランチボックスから顔をあげると、いつも二人について来るおつきの侍従とは違った顔がある。

 

 年はあたし、今のロレッタと同じくらい? 

 こげ茶の髪に鳶色の瞳の、これまた綺麗な顔の美少年。

 

「誰? 」

 

「ああ、君に紹介するのまだだったね。

 エリオット・クールム。

 隣国の貴族のご子息で、留学に来たんだ。

 暫く滞在することになったから、仲良くしてあげてね」

 

 レイモンドが説明してくれる。

 

 出ちゃったよ。

 三人目の攻略対象。

 その名前には聞き覚えがある。

 

 レイモンドは留学なんて言ったけど、実のところは隣国の国王の末息子。

 この国には人質として送られて来た。

 

 うわっ。

 今度こそはしくじらないようにしなくちゃ。

 

 

「……それでね。

 聞いてる? ロレッタ」

 

「え? ええ、もちろん」

 

 あたしは笑顔を浮べるけど、本当はそれどころじゃない。

 耳もとで流れるレイモンドの声がほとんどBGMになっていた。

 

「じゃ、いいよね? 」

 

「えっと、何が? 」

 

「やっぱり聞いていなかった。

 あのね、ランチ会なんだけど、僕も色々と忙しくなってきたから、代わりにエリオットを参加させてくれないかな? という話なんだけど」

 

 うっそ。

 

 レイモンドも大人になって、国務のお手伝いとかやらなくちゃならなくて時間がなくなったのはわかる、って言うかその時が来るのを心待ちにしていたのよっ。

 そしたらケネスと二人じゃ間が持たないしランチ会自然消滅するって。

 ただそれだけを期待していたのに。

 

 よりによって新メンバー加えて、まだ続けろって? 

 

 本当なら断りたいっ。

 あたしだって暇じゃない。

 五年前週一だったリンガム先生のお料理教室、何時の間にか週五になってるし。

 料理史とか栄養学とか、その他もろもろ、おまけに礼儀作法などなど、あの父親これでもかってほど、習い事させてくれちゃって、もういっぱいいっぱいなんだよぉ。

 

「ロレッタのことだから大歓迎だよね」

 

 にこりと、ケネスがいつもの笑みを浮べた。

 お願いだから、止めて欲しい。

 何が怖いって、あんたのその笑みが一番怖いっ! 

 

 それこそ、断ったりなんかしたら何をされるか。

 暴力的なこととかはないのは確かだけど、例えばあたしの意思なんか関係なく、強引に妃の座に据えるとか、こいつなら絶対にやりかねない。

 

「もちろん、大歓迎よ」

 

 心にもない言葉を、あたしは義務的に返していた。

 


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