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「おむすび?
なんだか知らないけど、面白いね。
シンプルで美味しいよ。
ロレッタ、こんなのどこで憶えてくるの? 」
先週のサンドイッチ同様お二人とも食がすすんでいる。
「それは、そのぉ……
内緒」
前世の記憶なんて言っても信じてもらえないよねぇ。
何はともあれ、好評でよかった。
一時間程度の時間を三人で過した後迎えのきた二人と別れ、気をよくして邸に戻る。
「お帰りなさい、お嬢様。
今日の王子さま方の反応は如何でしたか?
だんな様からプレゼントが届いてますよ」
ケイトが持ってきたバスケットを受け取ると代わりにリボンの結ばれた包みを差し出す。
「なんだろ? 」
縦横真四角の立方体の包みを手にあたしは首を傾げた。
ドレスも帽子も頼んでいないのに当たり前のように作ってくれちゃうあの父親が、わざわざプレゼントと称して物をくれるなんて。
特別感ありすぎて怖いかも。
「先日のミックス粉のアイディアのご褒美だそうですよ」
「ご褒美? 」
そう、なんだ。
「まさか本当に商品化しちゃうなんて、思ってなかったわ」
「発売そうそう、評判がいいんだそうですよ」
「意外。あんなものが? 」
料理の腕至上主義みたいなこの国であんな手抜きなもの、正直売れるとは思わなかった。
「つまりですね、お嬢様みたいに恵まれた環境もなければ、それほどお料理が上手な人、暇のある人ばかりではないってことです。
ですがこの国では料理の腕が最優先されますから、料理下手はお嫁に行くのにも苦労しますからね。
彼女達にとっては救世主みたいなものだったって、ことですよ。
この邸のメイドでも通いの家庭持ちは便利に使わせてもらっているそうです」
「わたし自分が楽したくて作っただけだったけど、本当によかったのかな? 」
言いながらリボンを解いた。
「う、そ…… 」
艶のある黒塗りの上に金銀の鶴が舞う見事な図柄が目に飛び込んできた。
真四角で三段重なった箱の蓋を取ると華やかな赤。
これは、もしかしなくても『重箱』というヤツではないかい?
「また、これは……
輸入品ですよ」
ケイトがあたしの手元を覗き込んで溜息をついた。
「輸入品なの? 」
「ええ、確かジャポニズムとか、何とか……
何を入れましょうかお嬢様。
コレクションのリボンとか入れても綺麗ですよね」
「お弁当!
これ、お弁当箱だもの」
あたしはすかさず叫ぶ。
「お弁当箱ですか? これが?
随分高価なランチボックスですこと」
そりゃ高価なはず。
恐らくプラスチックの模造品じゃないだろうから、本当の漆塗り。
しかも描かれた絵がものすごく凝っているところからするに、前世のあたしがもし欲しいって思ってもお小遣いで買えるような金額のものじゃない。
それが輸入品ともなれば金額は天井知らずなんだろうな。
「でもよかったですね。
お嬢様先日からランチボックス欲しがっていらっしゃいましたものね」
それを聞きつけてあの父親が手配してくれたんだと思う。
イメージしていたものとはかなりかけ離れているけど、いいことにしよう。
何しろお弁当を食べるのが、あの王子さま兄弟なんだからむしろこの方がふさわしい、とでも思っておくことにする。
「それより、お父さま、今いらっしゃるの? 」
「ええ、今でしたら、まだ奥様と食後のお茶を楽しんでいるかと……
あの、お嬢様? 」
ケイトの呼び止める声も聞かずにあたしはキッチンを飛び出していた。
「おくつろぎ中のところを失礼します、お父さま! 」
母親専用の居間のドアをノックしてあたしは声を張り上げた。
「やぁ、お姫様。
贈り物は気に入ってくれたかな? 」
「まぁ、ロレッタ。
なんですか、そんなに大声を張り上げて! 」
父親の声と同時に、一緒に部屋の中にいた母親がすかさずたしなめに掛かる。
「ええ、丁度欲しかったの。ありがとうお父さま。
ごめんなさい、お母さま。
今日はオランジェリー使わせていただいて、ありがとう。
スイーツも美味しかったです」
そこは軽くスルーして。
「お父さま、お願いがあります。
あのね、さっきの重箱の国の調味料。
お醤油とお味噌をおとりよせしていただきたいの」
「これは、また。
今度は異国料理に凝り始めたのかな?
いいよ。
そんな調味料があるかどうかは私も知らないが、探してあげよう。
その代わり、父さまのお願いもきいてくれたら嬉しいな」
そう来たか。
ちびっこのあたしにあんな高価な物くれるんだから、下心あるかなぁってなんとなく思っていたけど、ビンゴだった。
「なぁに? お父さま」
ま、五歳児にできる事なんて限られているから、そう難題じゃないでしょう。
「あの、マヨ何とかってソース。
父さまの会社で商品にして売ってもいいかな? 」
そうきたか。
どうもマヨには一部の人間をとりこにする何かがあるらしい。
ケイトも気に入っていたけど、この父親も相当気に入って、ついでにその人をとりこにする力にも気がついたんだろう。
そしたらこの商魂逞しい人が見逃すわけないよね。
「あなた! 」
だけどあたしが頷く前に母親が声を上げた。
「一体何を考えていらっしゃるの?
ダメですよ。
あなたが商品化を考えるほどよくできたソースである事はわかります。
ですけれど、だからこそ絶対に世間に漏らしてはいけませんわ!
ロレッタもですよ。
お父さまのプレゼントに騙されちゃダメよ、わかっていますね」
自分の旦那に文句を言って、ちびっこに釘を刺すのも忘れない。
もちろん父親は妻の機嫌を損ねると、食生活に不自由するからそれ以上強引に話を進めることはない。
この話、母親のいないところでするべきだったよね。
あたし的には別に構わなかったんだけどな。
むしろお味噌とお醤油と引き換えにできるんならこれ以上ないほどいい取引。
マヨネーズと塩だけじゃ早々にあたしのレパートリー尽きちゃうもん。
それに、多分なんだけど、マヨって家庭で手作りできるけど手が掛かるしコツもいる。
だから、転生前の世界でも商品になってたんだと思うんだけど。
そもそもこれもホットケーキミックスと同様あたしが考えたものじゃないし。
むしろ誰でも入手できたほうが公平じゃない。
とにかくこの話は一旦中止だね。
母親のいる前じゃこれ以上は進展できる見込みナシ。
「はははっ。
これはダメそうだね」
父親が残念そうに笑う。
「残念だけど、それは諦めよう。
その、醤油と味噌とか言う調味料は探してあげるから安心しなさい」
「ありがとう、お父さま。
大好き! 」
記憶にあるちびっこロレッタの甘えぶりを思い出して笑顔を向けた。




