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ウィズアウト  作者: 加水
第四章
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第四章~新たな仲間~(10)

「カズンは、私の願いを叶えてくれた。あんなに元気で、気持ちをぶつけてくるような子ではなかったのに……まるで別人だよ」


 零すように付加えてから、ビナーは今度は少し無邪気そうにきらりと光る黄緑色の目をラジウに向けてきた。その瞳はカズンとそっくりだとラジウは思う。


「ありがとう。あの子が居られる場所を作ってくれて……私にはできなかったことだ。辛い表情をせずに君達といたことが心底嬉しい。……ただ、その反面、気がかりなことがある」


「気がかりなこと?」


 嬉しそうに表情を綻ばせていたビナーが、少し顔に陰を落とす。それに目を瞬いてラジウが問い返した。


「カズンは記憶喪失だと、ここの医師から聞いたよ。今は私のことと昔の一部を思い出しているはずだ。しかし、もし……もしも、全ての記憶が蘇ったら、君はどうなると思う?」


「どうって……カズンはカズンじゃないの?」


「記憶喪失の者が元の記憶を取り戻すと、それまで記憶喪失で居た間のことを忘れ、元に戻るという現象がある」


 徐々にビナーの顔が雲って行く。不安そうに額に皺を刻み、頭を落とす。それに、今まで聞いていたクレクも神妙な顔をして口を開いた。


「と、言うことは、カズンさんはまた元に戻ってしまうかもしれない。ということですか?」


「あぁ……」


 大人二人は手を組み、沈痛な面持ちで口を結んだ。



バン!!



 大きな音が響き、二人は驚いて顔を上げる。ラジウが勢い良く机を叩いた音だ。勢いのまま立ち上がり、大人二人を鋭い目で睨みつけていた。覇気を感じる程だ。


「なんだよっ! 大人二人が暗くなちゃってっ! カズンは、全て思い出したって絶対変な風になったりするもんか! だいたい、カズンは例え記憶取り戻して違くなったってカズンなんだよ!! 何も変わりはするもんか!!!」


 鼻息荒く一気に巻くしたてあげるラジウの顔は、熱が上がって真っ赤になり、睨みつけている瞳には若干涙が滲んでいる。まさしく必死の形相だった。

 それに、大人ふたりは一瞬固まったように目を見開いて動かない。

 先に動いたのはクレクだった。表情を緩めてラジウを見つめる。いつもの柔和な笑みだ。


「そう……ですね。」


 そして、ラジウの意見に静かながらも賛同を示し、落ち着くようにとラジウの背中を撫でてくる。未だに動悸が収まらないラジウだったが、なんとか張っていた肩を降ろす。

 ビナー突如、ふっっと噴出し、小刻みに肩を揺らし始めたかと思うと口元を押さえて本格的に笑い始めた。


「……く……くく……。」


「な、何がおかしいんだよ!?」


 笑われたことにたじろぎ、慌ててラジウは聞き返す。それに、ビナーは片手を上げて謝り、やっと笑いの止まった顔を上げる。その表情は、クレクに劣らず柔らかい笑みを浮かべていた。


「いや、貴方にならお願いができるな。と思ってね。カズンのことなんだが、聞いてくれるかい?」


「え、それならもちろん!」


 ころころと変わる表情に呆然としていたラジウだが、カズンの名前を聞きつけると、元気よく返事をする。それを、ビナーとクレクは微笑ましそうに見ていた。


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