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ウィズアウト  作者: 加水
第四章
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第四章~新たな仲間~(5)

 日が傾き始めた頃、ラジウを先頭に三人が城の中に帰ると、いつもより静かだった。いや、城内の一階は市場と化しており、人々が行きかいなかなか賑やかだ。

 しかし、ラジウは何か足りない。と思った。それが静けさの原因なのだと感じ、辺りをきょろきょろと見回す。


「あ、ラジウ様、クレクさんが呼んでましたよ。上の階の食堂です。」


 箱に入った荷物を持つ青年が、落ち着きのないラジウを見つけると、話しかけてきた。伝言を聞くと、うん。っと頷いてラジウは彼に礼を述べる。そして、静かさの原因が見慣れた相手が見つからないことだったのだと気づいた。

 シルキアとカズンをちらっと見ると、シルキアに階段を目で示され、カズンに頷かれた。二人ともついてきてくれると言っているのだ。

 ラジウははにかんだように笑うと、二人と一緒に階段を上がり食堂へと足を運ぶ。


「あ、ラジウ様おかえりなさい。」


「ただいま、クレク。どうしたの?」


 食堂へと入ると、クレクが椅子から立ち上がって駆け寄ってきた。その奥に見慣れない陰が椅子に座っていた。

 ラジウはクレクの横からひょっこりと顔を出してその陰を見遣る。


「誰?」


「隣国の王族の方です。」


 クレクはこちらへ。と、ラジウを椅子に座っている男の方へと案内する。

 クレクの後についていきながら、ラジウは彼を見た。茶髪とも金髪ともつかない髪を全て後ろに整え、オールバックの形にしている。表情は深い皺と、目の下のクマで年老いているように見えるほど疲れきった表情をしていた。

 男が顔をラジウへと向ける。ラジウは彼の瞳を見て小さく声を上げた。髪や顔と違って透き通ったような、意思の強そうな輝きを放つ黄緑色の瞳。ラジウには見覚えがあった。



ガタリ



 ラジウが考えようとした矢先、少し遠いところで音がする。全員がそちらを見た。

 先程見た瞳と同じ瞳が驚いたように男を見ている。カズンが入りかけたドアにぶつかったまま動かないでこちらを見ているのだ。


「……カズン?」


「な、なんであんたがここに……っ?」


 カズンの緊張して息を飲む音が部屋に響く。椅子に座っていた男が立ち上がって名前を呼びながら彼女に近づこうとする。


「来るなっ!お前なんか、お前なんか知らない!知るもんかっ!」


 カズンの表情が引き攣って、すぐに顔が憤って真っ赤になり、扉を強く叩く。瞳が燃えるように怒りを表し、ぎりっと歯軋りの音も聞こえた。かと思うと、カズンは踵を返してだっと走りだし扉を出ていってしまう。


「カズン!」


「待て。」


 慌てて追いかけようとしたラジウを、シルキアが手で制して止めた。ラジウが不思議そうな不安そうな瞳でシルキアを見つめる。揺れる瞳はどうして?という疑問を現していた。


「俺が行く。お前はお前の客人から話を聞くことを優先しろ。」


 それがお前の役割だ。シルキアの視線がそう言っていた。ラジウがぐっと押し黙ると、シルキアは軽く彼の頭に手を乗せてからカズンの後を追っていった。

 仕方なくラジウは、男の方へと振り返って席を進め、自分は彼の目の前へと腰を下ろした。クレクが男の前に置いてあるお茶と同じものをラジウの前に置いてから、隣へと腰を降ろす。


「私は、ここから少し離れた場所にある国、ハッシュ国の王ビナーと申します。今日は、ラジウ様にご報告することがありまして……」


「ねぇ、それよりも先に、カズンのこと教えてよ。僕気になって気になって聞けない。」


 座ったものの、そわそわとして落ち着かないラジウはビナーと名乗った男に、身を乗り出して聞いた。

 けど、彼は困ったように眉尻を下げ、何かを見極めるようにラジウの空色の瞳を見つめる。

 どのくらい視線を交錯させていただろうか、ビナーはため息を吐くと、決意をしたように口を開いた。


「カズンは、私のたった一人の妹だ。」


「妹?」


「そう、妹が失踪したのはだいぶ前に遡る。その時、私は父と他の国へ遠征に行き、いなかったが、魔物が我が国を襲ったそうだ。力の前になす術もなく、母は死に、カズンは……カズンは魔物と共に城を出たと聞く。」


 ビナーの真剣な表情に全神経を尖らせて聞いていたラジウは、彼が息を飲んで止めた言葉に思わず立ち上がった。


「魔物と共に……?」


「そうだ。私達が帰った城に、魔物もカズンもいなかった。一緒に出て行ったのを見た。という者もいる。」


 ビナーの返答にラジウは自分に起こったことを思い出していた。魔物に一緒に来ないか? と誘われたこと。自分の身代わりをしていた少女が、魔物と一緒に行ってしまったこと。

 忘れようとしていた気持ちが腹の奥で燻って、もんどりうつ。気持ち悪かった。

 ラジウは居ても立ってもいられずに、椅子を蹴り、クレクが止める間もなく食堂の扉を走り抜ける。

 どうしていいかわからなかった。ただ、本当のことかどうかを、ラジウは本人に聞きたかった。そうすれば、この気持ち悪さが収まるんじゃないだろうか。そう思ったから。

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