第四章~新たな仲間~(4)
一旦城の周りの森を探し、再び二人は湖へと帰って来た。ラジウは湖の周りを調べるように歩きつかれた足を懸命に動かす。
実際、あれから一刻の時が過ぎ、ラジウの身体には疲労が見え隠れしていた。その表情もどこか暗く、眉根が寄っている。
「カズーン!……見つからないな。先に帰っちゃったのかな?」
「それはない。」
「なんでー?」
不安そうに辺りをきょろきょろと見回しながら、ラジウはシルキアへと近づく。ぽつりと零した問いかけに、シルキアが即答するも、ラジウは不思議そうに目を瞬いて彼を見た。
それに、シルキアは眉を潜めて視線を返す。
「……城に気配がなかった。」
「気配?」
「わからないならいい。……貴様はあいつと仲が悪いんじゃなかったのか?」
シルキアはぐるっと辺りを見回しながら答えるも、ラジウに説明をする気はないようだ。力不足に一から説明している暇などない。というのが本音だろう。
しかし、ラジウの目は更に食って掛かってきそうな勢いで光ったため、シルキアはめんどくさそうに話を転換させた。
「えっ……あいつってカズンのこと?」
「そうだ。」
「そりゃあ、だって見つけたの僕なのに仲良くしてくれないし、話は聞いてくれないし、我侭だし?シルキアとは遊べないし。そういうとこは好きじゃないけどー……でも、やっぱ仲間じゃん。俺……一緒に居る奴を見捨てるなんてしたくないよ。」
ふとラジウの目に悲しみの色が浮かんだ。語尾が小さくなって頭も落ちていく。
シルキアがちらりと見たラジウは、何かを思い出しているようだった。小さく歯噛みして、頭を横に降る。
「さ、そんなことより探そう!今度は城から離れたとこ探そうよ!」
かと思うと顔を上げてにぱっと笑みを零し、明るく元気な声でシルキアの腕を引っ張った。シルキアは一瞬眉を顰めたが、それ以上何も言わずに歩き出す。
「えー、どこら辺探そうっか~?シルキア。」
「…………。」
ラジウが張り切るようにきょろきょろしていると、シルキアはいきなりバっと顔を上げた。その表情はどこか驚いているようで、目は小さく辺りを伺っている。
様子がおかしいシルキアに、ラジウは足を止めて彼を見上げる。
「こっちだ。」
シルキアは一言言い放つとラジウの手を振りほどき、その小さな体を片手で抱え上げる。ラジウが驚いて小さく暴れたけれど、そんなことはお構いなしにシルキアは一瞬でその場から消えた。彼の能力、転移移動で。
一瞬にしてラジウとシルキアは切りだった崖の上に到着していた。そこはラジウにはまったく見覚えのない場所で、シルキアには馴染みのある場所だった。ここは、かつてシルキアが山賊としての根城としていた場所の一つだったのである。
到着するや否や、シルキアがラジウの身体をぱっと離す。すると、ドスっという鈍い音がして、ラジウは地面に顔から突っ込んだ。
「~~っ!シ――っ!」
ラジウが起き上がり、痛さを訴えようと大きな口を開けるも、すぐさまシルキアの手に邪魔されてしまう。塞ぐ手にぽかぽかとラジウはシルキアの体を叩く。
「あそこを見ろ。」
鋭い視線で静かにしろ。と目配せしたシルキアは、ラジウが大人しくなると、崖の下へと視線をずらす。
ラジウは目をひん剥いた。
なぜなら、そこにはカズンが縄に縛られて転がされていたからだ。それだけではない、彼女の周りを人の形ではない物が取り囲んでいる。ヘビを大きくしたような怪獣のような物、ずんぐりむっくりな、かろうじて小さな足と手がはみ出ている肉塊のゆうな青い色の固体、魚に手足が生えた者、どう見ても魔物と思しき影が数体、カズンを取り囲んでいた。
「え、何……あれ?」
「隣の山賊だ。」
「えぇ?だってあれ……どう見ても魔物じゃんっ」
ラジウがシルキアの手を振り払ってこそこそと聞こえないようにシルキアに問いかける。
返答を受けると、驚いたように再び下にいる者達を凝視する。しかし、どう見ても人ではない。
ラジウは再度目を暫く。
「俺の隣の山賊は魔物だ。」
「それならそうと言ってよっ!仲間にできないじゃん!」
「あぁ……すまん。」
「謝って済む問題!?カズンだって危ないんですけどぉ!!」
じと目で言うものの悪びれてる様子もなく無表情なシルキアに、ラジウは思わず立ち上がって大声を上げた。
いくら少し離れた崖の上だからと言って、それで気づかれないわけもない。一斉に魔物達の視線がラジウへと注がれた。
視線に気づいてひやっとしたものが首筋を伝い、ラジウはぴしりと固まる。
魔物も驚いているのか微動だにしない。空気が固まったような気がした。
「……責任をとってやろう。」
シルキアだけは、その空気をなんとも思ってないのか、ラジウの言葉に反応して、彼の襟首を引っつかむ。
目の前が揺らいだ。と思ったすぐ後に、ラジウの視界には魔物達の背中がすぐ間近に迫っていた。
ラジウは驚いて息を飲む。
「囮をしろ。」
「はぁ!?」
耳元でシルキアの声がしたけれど、振り返っても彼の姿はなかった。
ラジウが大声をあげたせいで、魔物達が振り返る。バチリ。と音を立てて目が合った。
サッとラジウの顔が青ざめ、本能的にばっと後ろを向く。
一匹の魔物とラジウの土を蹴る音が被った。それはラジウの耳にも届いて、焦燥感に冷や汗が流れ、地面を蹴りだす足に力が入る。
「うわぁああ!!」
ラジウは意味もなく叫びながら目の前の草むらへと走り、突っ込んだ。
手入れの行き届いてない草むらはラジウの背よりも数段高く、前も後ろもわからない状態だった。
それが効して、追いかけてきたヘビの魔物になかなか追いつかれることはなかった。
ラジウが一匹の魔物を引き付けると、それまで姿を消していたシルキアが残りの魔物2体へと身を躍らす。
青い固体にはナイフを突きつけて裂くように引き、魚のようなものには素早く蹴りを食らわす。
一瞬で良かった。よろめいた二体の魔物の間を潜り抜け、シルキアは縄で縛られたカズンを小脇に抱える。
そしてすぐに能力を発動させてラジウが必死に逃げている目の前へと姿を現した。
「シルキア!」
「掴まれ。」
「う、うん。」
ラジウが立ち止まると、シルキアは手を伸ばす。ラジウがぎゅっと掴んだ瞬間、目の前はいつもと変わらぬ、見慣れた城の前だった。
あっという間の出来事に、子ども2人はぽかんと口を開いている。
シルキアの額には汗が滲んでいたから、相当疲れているはずなのだが、彼はカズンを降ろして彼女の縄を解いていた。
「……なんで戦わないんだよ!?」
縄を解き終わる作業をが終わると、カズンがはっとしたようにシルキアに食ってかかる。その目には怒りが垣間見れた。
「戦って勝てる相手ではない。」
「そーだよ、すっごーく怖かったんだからね!」
シルキアが淡々と応える中、ラジウがそれに横槍を入れる。そして、シルキアを見るとべーっと舌を出して威嚇した。どうやら、囮にされたのが嫌だったようだ。
しかし、シルキアもすぐにふんっと鼻を鳴らしてラジウを一蹴する。
「魔物を甘く見るな。死ぬぞ。」
「でもっ……。」
カズンに向き直ると、なお納得いかないと顔を歪めている彼女の頭にシルキアは手を乗せる。
ラジウは、なんだか見たことあるような光景にうっと息を詰まらせて視線を反らした。
「……ごめんなさい……ありがと。」
カズンはぽつりとシルキアに言うと、ちらりとラジウを目で見た。
いきなり自分に視線が来たことでラジウはびくりと身を跳ねさせて一歩後退する。何か言われてしまうのではないだろうか、とハラハラして胸元を押さえながらラジウはカズンの言動を待つ。
「なんで……お前まで来たんだよ。」
案の定カズンの目が鋭く尖ってラジウに突き刺さる。けど、ラジウはこほんっと咳払いをして、胸を張った。虚勢だった。
「だって、仲間でしょ?助けに行くのなんて当たり前じゃん!」
「逃げてただけだった気がするが。」
「シルキア!」
胸を張って言ったのに、シルキアに茶々を入れられて、思わずシーっと唇に指をつけてラジウは彼の名を呼ぶ。
シルキアは肩を竦めるだけで、それ以上は何も言わなかった。
「なか……ま?」
2人のやり取りが聞こえていないのか、カズンは呆けたままラジウの言葉を繰り返す。
ラジウはそれに大きな目を何度も瞬かせて彼女を見る。
「仲間だよ。僕の城に住んでいる人はみーんな仲間!カズンも、僕達のところに来たんだから仲間だよ?」
「……で、でも俺。お前に……。」
ラジウが大きく手を広げて説明するが、カズンは不安そうに一歩下がって頭を下げた。そして、言い辛そうにごにょごにょと口元を動かして、ちらりとラジウを伺ってくる。
ラジウも、彼女の言いたいことはなんとなくわかった。カズンもラジウと仲良くできていないという自覚があったのだ。
「べっつにー、今までのことなら流してあげるよ。」
ラジウはにんまりと笑ってカズンに顔を近づける。言葉を止めて、息をゆっくりと吸う。
「僕より先に死なないって、約束するなら。」
一言一言をゆっくりと気持ちを込めて、ラジウは言った。その表情は先程見たく笑っているものではなく真剣で、打ち抜くような目をカズンを向けていた。
カズンはその真摯な表情に唾を飲み込んでごくりと喉を鳴らした。
「…………。」
カズンはなんと言っていいかわからない。そんな表情をした。眉根が寄って、真意を見極めようとラジウを見つめる。
カズンが何も言えないでいると、シルキアが今度はラジウの頭に軽く手を乗せた。カズンは目を瞬いてシルキアを見る。
「違うよ、シルキア。後悔なんてしてない。」
シルキアが何か言う前に、ラジウは否定をする。カズンはラジウに視線を戻して話しかけられるままに彼の言葉を聞いた。
「カズン、君が来る前に、僕は仲間を失った。だから、新しい仲間が増えることに、不安が……ある。先に死なれたら……って思うと、どうしようもなく恐怖が込み上げて来るんだ。でも、それよりも……」
ラジウが言葉を止めた。そう思った瞬間に彼の表情は真剣なものから一転して柔らかくはにかんだような笑みに変わった。
カズンの方が度肝を抜かれて、目を瞬く。
「せっかく出会ったんだし、僕はカズンと友達になりたい。シルキアとか、キヴィとかみたいに。」
「……ばっかじゃないの?」
ダメかな?と笑いながら問いかけてくるラジウに、カズンは腕組をして顔をぷいっとそらす。そしてむぅっと口をわざとへの字にして毒づいた。
別に怒っているわけではなく、照れくさかったのだと、顔の赤みから伝わってきて、ラジウはへらりと頬を緩めて笑った。
シルキアも同意して小さく笑った。
「バカだな。」
「ひどい、シルキア!もうー……ねぇ、カズン、僕の友達に、仲間になってくれるでしょ?」
ラジウはカズンへと笑いながら手を伸ばした。問いかけの割りに、彼の言いようは断るわけがないという自信が垣間見れて、カズンは腕を崩すと釣られるように笑った。
いつもより柔らかい彼女の笑みにラジウはドキっとして、思わず手を引っ込めようとする。けど、カズンがそれをする前にラジウの手を取った。ぎゅっと暖かい手が握られる。
「俺が仲間になるんじゃない。お前がなるんだ、ラジウ。」
「望むところさ!」
カズンが口端をあげて笑う。シルキアに似ている笑い方だとラジウは思った。けど、嫌な笑いなどではなく、自信に満ちたような表情に、ラジウも笑った。
少年、少女が笑い合う声が、城の中まで響いた。




