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ウィズアウト  作者: 加水
第四章
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第四章~新たな仲間~(3)

カズンと出会ってから数日がたって、彼女は少しづつ笑顔を見せるようになった。初めの頃は何か考える風にして暗く、シルキアを見かけると必ず彼の後を追っていた。しばらくすると慣れて来たのか、カズンは徐々に他の人達とも話すようになったけど、ラジウとはどうしても仲良くなれないようだった。

その原因は、カズンにある。とラジウは思う。


「シルキアー!釣り行こうー!」


ラジウがシルキアの部屋の扉を元気よく開けて、中へと入って行く。なんだかんだで世話をしてくれるシルキアは、子供にとって格好の遊び相手だった。無口で何考えてるのかわからないが、その根本は割と優しい。それに、クレクとは違って楽しくてちょっとスリリングなことをしていてもむやみに止めたりしない。何よりラジウにとっては信用できる相手の一人で、構ってくれる相手だ。


「あぁ……」


「えー!?シルキアは俺と遊ぶって約束したじゃん!!」


けど、返答は短く低い声と甲高い耳障りで批判の混じった声が返ってきた。シルキアの横で彼にへばり付いているのはカズンである。彼の腕を揺さぶって抗議の真っ最中だ。

結局カズンはシルキアを追いかけるうちに彼に懐き、離れなくなっていたのだ。シルキアにとっては良い迷惑である。ラジウにとってもそれは由々しき事態だった。自分とは話さないくせにシルキアにべったりでむかつくし、シルキアもそのせいで遊んでくれずに腹立たしかった。こんな奴と仲良くなんかできない。そうラジウは常々思う。


「おいっ!シルキアは君のじゃないんだから、今日は僕と遊ぶんだよ!!」


ラジウはカズンとは反対のシルキアの腕を掴んで引っ張り、大きな声でカズンに威嚇する。カズンももちろんラジウを睨みつけて威嚇する。唸り声が聞こえてきそうな勢いだ。


「そんなわがままな奴置いて行こうよ!」


「なん……」


言い合いになりそうになった瞬間、シルキアがカズンの口に手をかざし彼女を制した。ラジウとカズンの視線がシルキアに注がれる。シルキアは二人の手から抜け出すとため息を一つ吐き、立ち上がる。


「……みんなで釣りに行くぞ。」


「ちょっ!待ってよ!!」


「シルキア!俺も行く!!」


シルキアは、一言だけ告げるとさっさと歩きだしてしまい、驚いた二人が後を追うように駆け出した。

丁度中庭で洗濯物を干していたクレクが、それを見つけて笑いシルキアに声を掛けてきた。


「おやおや、人気者ですね。シルキアさん。」


「そう思うなら、あんたが相手してやってくれ。」


「いえいえ、私は洗濯物がありますから。ラジウ様とカズンさんのことよろしくお願いしますね。」


「……ふん。」


早足で二人に追いつかれないように歩きながら、中庭を通りため息混じりシルキアはクレクを見た。けれど、肩を竦めて断られ仕方なしに鼻を鳴らして笑顔でいるクレクの横を通り過ぎ、その先の湖へと向かう。

クレクは可笑しそうに笑いながら、後から駆けて追いかけていく二人含め三人に、いってらっしゃいと送る言葉をかけた。

結局湖に着く頃には二人に追いつかれて、シルキアはしぶしぶと釣りに付き合うのだった。

澄んで魚の影がちらりほらりと見かけられる湖の岩場に、三人はラジウ、シルキア、カズンの順で並び腰掛けた。一人一つずつ、木の棒と糸で出来た手作りの釣竿を手に持ち、先端についた釣り針に餌となる虫を引っ付けて湖へと放る。

初めた頃ラジウは虫をつけることを躊躇ったが、今では文句も言わずに自分でつけている。だからと言ってはなんだが、ラジウはカズンがどうでるのか好奇心が疼いて仕方がなく、ちらちらとシルキアの影から様子を伺っていた。しかし、カズンは元より平気らしく何事もなく餌をひっつけて湖に放る。ラジウはちょっと期待した分つまらなそうに口をへの字にした。

静かな湖の畔で、各々じっと魚が食いつくのを待つ。


「シルキアー、全然釣れないよ~。」


しかし、釣りを初めてして数分もたたないうちにカズンが頬杖を付きながら文句を垂れた。シルキアに唇を尖らせてどこか別場所に行こうよ。と視線で訴えるカズンだが、シルキアはそれを一瞥してふんっと鼻を鳴らす。


「そのうち釣れる。」


「そーだよ。釣りは忍耐力が必要なんだぞ。」


シルキアに一蹴され、ラジウの余計な突っ込みにカズンはむぅっと頬を膨らませる。シルキアは気にもしないのかカズンの方も見てもくれないが、その向こうでラジウはによりと意地の悪い笑みを浮かべて見てくる。カズンはシルキアをもう一度見るも、やはり無関心のようでカっと顔を赤くすると彼女は釣竿を置いて立ち上がった。


「こんなの、やってられっか!」


一言二人に向かって叫ぶと舌を思いっきり出してあっかんべーっと子供じみた動作を見せ、二人が止める間もなくカズンは走り去ってしまった。

ラジウもぽかーんっと間の抜けた顔をして見送ってしまう。けれど、シルキアはちらりと視線を彼女の背中に向けただけで、それ以上何も言わずに釣りに没頭している。

カズンはまだ幼い少女だけど、あれでいて結構腕があるのを二人はよく知っていた。それは、夜になると決まってカズンは暴れ出すという発作を起こすからだ。泣き喚き、目に映るもの全てを壊そうとする。それを止めるのに大人の男が5、6人かからないといけない、多分記憶喪失の発端に何か理由があるんだろうと、キヴィ言っていたからだ。

もしかしたら、シルキアよりも強いかもしれない。だからこそ、シルキアはカズンの力を認めて一人で放りだしているのだ。

しばらく、ラジウとシルキアは黙ったまま釣りをしていた。


「あっ……。」


「どうした……?」


徐にラジウが何かを思い出したように声をあげる。驚いたような声に、シルキアが訝しげに聞き返す。ラジウの首がギギギっという鈍い音を立てながらゆっくりとシルキアの方へと向いてくる。その表情は頬が引きつっていて、何かしらよくないことを思い浮かべたことが手に取るようにわかる。


「……此処の近くってさ、シルキアが居た辺り。でしょ?」


「そうだな。」


「ってことは……隣の山賊もいるってこと……だよね?」


ゆっくり確認するようにシルキアに問うラジウの声は徐々に震えて行き、顔が青くなっていく。シルキアもその顔をじーっと見つめ、固まっていた。

しばらくの沈黙の間。

二人が脳内で確認している間の沈黙は重い。先に視線を逸らしたのはシルキアの方で、すくっと立ち上がるとカズンが走り去って行った方向を見遣る。


「……行くぞ。」


「う、うん。」


ことの重大さに焦り、ラジウはシルキアの後について立ち上がる。声はやはり上擦っていた。いくらカズンが腕が立つからといって、何人者山賊から逃れられるはずがない。という焦りと不安に、ラジウの額に冷や汗が滲む。

シルキアはラジウが立ち上がるのを見ると、さっさと歩き出してしまう。彼もまた焦っているようだった。


「なぁ、カズン。大丈夫かな?」


早足のシルキアの後を駆け足でラジウがついていく。小幅が大いに違うため、ラジウは走らないとシルキアに置いてかれてしまうのだ。

かといってシルキアが待ってくれるはずはなく、結局ラジウは駆け足になってしまう。


「……さあな。」


早足で焦っているようなのに、口調はカズンのことを心配しているのかもどうかもわからない冷めたものだった。

その口調がかえってラジウの不安を駆り立てる。目が揺れて口の中が乾いて心臓がバクバクと音を立てる。


「さあって……どうするんだよ~っ!」


「探すしかないだろ。」


絶えかねて叫び混じりに吐き出すと、シルキアは横を走るラジウをついっと細めた目で期合間見てため息を吐く。そしてなんとも単刀直入な返答を返し、余計に歩く早さを早めた。

ラジウには本当に心配しているのか?という疑問が頭に浮かぶも、更に足を早めるシルキアに遅れるまいと付いて行く方で手一杯になってしまった。

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