第二章〜真実と真意〜(6)
さて、ラジウとシルキアはというと。先ほどの湖にいたりする。薪を集め湖の辺で焚き、釣った魚を串刺しにして焼いている。
その付近に、目を赤くし涙をとめどなく流しているラジウと、濡れた髪をほどき乾かしているシルキアがいた。ちょうど火を囲むように彼等は向かい合って座っている。
火の明かりで影が揺らぐ。
「…………」
シルキアは相変わらず己から何も話そうとはしない。
だから、辺りは火のパチパチという音がするだけ。ラジウは唇を噛み、ゆらゆらと揺れる火を見ながらそっと口を開いた。
「……なんで子供扱いするんだろ」
「子供だからだろ」
「っ! シルキアまでっ!!」
ぽつりと呟いたラジウの言葉に、シルキアが反応する。しかし、その彼の台詞はラジウに大声を上げさせる結果になった。
両手拳を強く握り、肩を怒らせ、立ち上がって彼に抗議するラジウにシルキアは一瞥をやると言葉を紡いだ。
「……貴様が貴様であるように、子供は子供だ」
シルキアの声は静かで、ラジウの中の怒りをだんだんと鎮めていくようだった。決して暖かくはない冷たいような静けさだが、ラジウは確実に彼の言葉と声で落ち着きを示し始めている。
「……背伸びしたいお年ごろなのっ!」
口をわざとへの字にし、ラジウは言い放った。顔をぷいっとそっぽへ向けてしまう。彼の口調も態度も、先ほどの取り乱したようなものではなく、明らかに拗ねたようなものに変わっていた。
自分が幼いことはよくわかっている。どんなに頑張ったところで、年が取れるわけでもない。それは認めざるをえない事で。ラジウにもそのことはよくわかっていた。わかっていたからこそ相手に指摘されたくはないのだ。
ラジウは組んだ腕に顔をのせた。
「あーあ。僕ってそんなに頼りない? そりゃあさ、王宮生活からこんなところに来て、いろいろ大変なことあるよ? でもそんなことで文句なんか言ってられないじゃんか。僕の他に人がいるのに、僕だけ文句言って贅沢なんてできないよ。ねー、聞いてるー?」
今まで溜まっていたことをベラベラと言葉にして吐き出した後、ラジウは口を挟んでこないシルキアに確認の意図を込め、話を振ってみた。ちらりとシルキアの様子を伺うが、彼は火を見つめながら座っている。
「あぁ」
「……じゃあさ、シルキアはどう思う?」
一言の返答のみで台詞を続けようとしないシルキアに、ラジウが仕方なさげに促した。
このまま黙っていれば、会話が続かないのを短い付き合いでなんとなくわかってきていたから。けれど、訊けばきちんと答えてくれるという期待もラジウは持っていた。
「ふん。貴様の好きにすればいいだろう。何かをすれば何かが起きる。それを全て予測するのは不可能に近い」
「そりゃあそうだけどさー。じゃあさ、質問変えよう。僕って、一人で生きて行けなさそう?」
身もふたもない言葉に思わず苦笑いを浮かべたラジウ。しかし、その返答は彼が聞きたいものとは異なっていた。だから心臓がドキドキするのを押さえ、ラジウは思い切って答えてほしい核心の問いを投げかける。
「あぁ、無理だろう」
「うっわ!? 即答!!?」
あまりにそっけなく素早い返答は、ラジウに大きな声をあげさせた。シルキアはしばしラジウの顔を相変わらずの無表情のまま見た。
「……ふん。半人前」
「えぇ!!? ひっど! 泣くよ!?」
「勝手にしろ」
「うわぁ……冷たい」
シルキアの言葉にラジウは大げさなアクションと声で反応した。しかしそんなラジウからは、どこか楽しげな雰囲気が垣間見れる。だからだろう、シルキアも本気ではなく冗談めいたことを言って相手をしていたのだ。
しかし、ラジウの最後の一言にシルキアは一度小さくこめかみを動かした。
「そうか。それならこれはやらんでもいいな」
そして焼けた魚を全て手に取った。冷たいという言葉が、彼の機嫌を悪くしたようだ。その腹いせだろう、案外大人げない。
「わっ! やだっ!! 夕飯食べてないからお腹減ってるのに!!」
「知らん」
ラジウがシルキアの手から魚を奪おうと彼に掴みかかるが、いかんせん子供の力、びくともしないうえに魚を上に掲げられてしまい手も足も出ない。
「ぶーーっ!」
「変な顔だな」
頬をパンクするのかと思うくらい膨らませてみせるラジウに、さらりと思ったことを率直に言うシルキア。それにラジウは、ショックを受けたようによろめき口を開け、頬に手を当てた。それの面白いこと。シルキアはその顔を見て、無表情のままだが少し噴出した。
噴出されたことに更にショックを受け、ラジウが何か言おうと口を開く。
「ラジウ様ーーーっ!」
くってかかろうとしたその時、ラジウの名前を少し高い子供特有の声が呼んだ。
声の方を二人が見ると、暗い中を小さな影が、こちらに向かって駆けてくる。
「サート! 何でここがわかったの!?」
近づいてくる少年に、ラジウはびっくりしたようにシルキアから離れ、駆け寄った。
少年がラジウの前まで来ると、少し遠い火が彼を照らし、サートであることがわかる。息を切らせていることから、城からここまで走ってきたのだろう。
「はぁはぁ。そ、そりゃあこれだけ大きな声で騒いでたらわかりますよ」
サートが息を整えながらしゃべる。確かにあれだけぎゃーぎゃーと喚いていれば、誰でもこの場所に誰がいるかなど見当がつくだろう。
しかし、ラジウはその返事を聞くと反論するわけでもなく、何を思ったのか辺りを見回した。辺りに自分達以外の人影はない。
「あ、オレだけですよ? ノメルは寝かしてきましたし、クレクさんはあの後倒れちゃって。それでキヴィさんが看病してます」
「たお……れた?」
ラジウの行動を読み取ってか、サートはにっこり笑い説明する。しかし、彼の言葉に、ラジウは頬を引きつらせた。予想の範囲をこえていたのだろう、少しばかり焦りを見ることができる。
サートは頷いてラジウに答えた。
「あ、はい。だいぶショックだったらしく……」
「弱いな」
思ったことを口走るシルキア。サートとシルキアの台詞に、ラジウは気まずそうに首をたれた。ある意味一番身近に居た人物がたかが自分の一言で倒れたことの恥ずかしさを覚えたのかもしれない。
「もう、違いますよ、シルキアさん! クレクさんはそれほどラジウ様が大切なんですよ!!」
「……守らなきゃいけない存在だからね」
サートがいきり立って説明するが、それにラジウは寂しそうに反応を示した。ラジウは子供として守る存在としてしか見てもらえていないのをひしひしと実感している。だから、クレクがあれほど心配しているのだとラジウ思っていたのだ。
しかし、サートは首を横に振る。そして、彼の次の言葉にラジウは固まるのだった。




