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ウィズアウト  作者: 加水
第二章
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第二章〜真実と真意〜(3)

「ラジウ!」


 裸足で広い草原を駆け回っているラジウを、キヴィが呼び止めた。


「あ、キヴィ。どうしたの?」


 肩で荒く息をする彼女に、ラジウは不思議そうに駆け寄ってきた。


「ラジウに聞きたいことがあるんだ」


 掠れた声で答えるキヴィ。城から離れたこの小丘に元気に走ってきたラジウを必死に追いかけてきたようだ。そんな彼女にラジウは首を傾げて続きを促す。


「実はね、あんたの父について聞きたいんだけど」


「ホーデュ様のことですか?」


 ラジウと一緒にいたサートとノメルもキヴィに駆け寄ってきた。サートが気になったのかキヴィに質問の内容を確認する。


「そうそう。私はね、いろんなとこを転々としているせいでよく知らないんだよ。サートだっけ? あんたはホーデュ様のことよく知ってるのかい?」


「はい! 知ってますよ! ホーデュ様は、この国の守護神と言われるほどの人でしたから。キヴィさんも噂くらいなら聞いてると思いますよ」


 礼儀正しく笑顔で答えるサート。見たところ、彼はラジウより少し上の年齢だろう。それでもまだ年端もいかない子供にかわりはない。彼は、子供にしてはしっかりしている印象を受けさせた。


「そうそう。噂なら腐るほど聞いてるんだよ。だけど、どれが本当かわからなくてねぇ」


「ふーん。やっぱり父上って有名だったんだね」


 キヴィが苦笑うのを見て、ラジウはしみじみと言ったように言葉を紡いだ。


「そりゃそうですよ。ラジウ様!ホーデュ様といえば、魔物に対抗できた唯一の人間と言われるほどなんですからっ!」


 サートが興奮しながらラジウに説明をする。

 そう、この世界では今。魔物と呼ばれる種が力で世界を支配しているのだ。ラジウ達程の少人数の人間は滅多に相手にされることはなく、平和な日々が続いてるわけだが。


「……へ、へぇ。唯一……」


 サートの気迫はラジウを一歩下がらせるほどだった。

 そして、ラジウは戸惑う気持ちに額に皺を寄せる。今まで大人たちからは何も聞かされずに育った身として、何も知らなかったことに戸惑っているのだ。


「そうだよ。だから、あんたの国以外は相当酷いもんだったよ」


「噂で聞いてます。魔物に家畜として飼われたり、労働力として働かされたりしていると……」


 昔の記憶がキヴィを苦虫を潰したような顔にしている。

 それにつられて、サートの表情も曇った。

 ラジウはその言葉に驚き、二人を交互に見ている。


「それ、で? なんで僕の国は平気なの?」


「平気? そりゃあ、あんた、ホーデュ様の力さ。ホーデュ様を怖がって魔物が寄ってこなかっただけの話」


「けど、ホーデュ様がいなくなった今。いつ攻め込まれるかもわからないんですよね」


 ラジウの疑問はあっさりとキヴィに返される。

 サートが心配そうに顔を落とした。昔と今では状況が一転していること、それがラジウにもしっかりと伝わってきた。同時にラジウの奥から隠していた思いが首をもたげてしまう。


「……そう。だよね。ねぇ、父上ってどうして死んだか知ってる?」


「魔王に挑んだから。じゃなかったかね」


「ラジウ様……」


 突如ラジウの目から大粒の涙が流れた。それを見て、サートが困ったように彼の名を呼んだ。


「ごめっ、平気。ありがとう。キヴィ、サート。僕に、父上の仇を教えてくれて」


 ラジウは必死に涙を拭いながら笑ってみせた。けれど、涙はとめどなく流れ落ちる。


「あー……ラジウ。あたしが聞いたホーデュ様の噂、他に変なのがあるんだけどさぁ」


 キヴィは頭をガシガシと掻いて目を泳がせ、何かを思いついたのか言葉を紡いだ。


「変なの?」


 それにラジウはすぐさま食いついた。気を紛らわせるなら、他のどんな話題でも良かったから。


「あぁ、行く先々で現地妻作る。とか、愛人が星の数ほどいる。とか……女ったらし。だとか」


 キヴィの言葉は段々と小さくなっていった。なぜなら、ラジウが固まって動かなくなってしまったから。

 ラジウの表情からは、ハテナマークが頭の中で無数に浮かんでいるのが手に取るようにわかる。それもそのはず、ラジウにとっての父のイメージは、厳格で優しくて何より母といちゃつきこいていた。というイメージなのだから。


「そ、そんなことないよっ! 父上は母上と、僕が見てられないほどラブラブだったんだよっ!?」


「……じゃあ、やっぱり嘘なのかねぇ」


「その噂、嘘じゃなくて本当のことですよ」


 ラジウがキヴィにそうだよっ! と叫ぼうとした瞬間、横からあっさりと肯定の台詞が飛んできた。その声はラジウの隣で二人の会話を聞いていたサートのものだった。

 驚いた顔を自分に向けるラジウとキヴィに笑顔を返しながら、サートは言葉を続けた。


「ホーデュ様は無類の女好きで、おとした数もふられた数も星の数。だとか。このことは国でかなり有名でしたよ。それさえなければ完璧なお人なのに。って皆言ってましたし。あれ? ラジウ様、知らなかったんですか?」


 そんな彼の言葉に砂のようになるラジウ。でこを突けばそのまま崩れ去ってしまいそうだ。そんな彼の反応に、サートは不思議そうに首を傾げる。

 しばらくたってからやっともとの状態に戻ると、ラジウはうつむいて肩をわなわなと震えさせ始めた。


「…………クレクーっ!!」


 そして、両の手をぎゅっと力強く握り、大きな声で叫びながら来た道を走り出す。


「ちょ、ラジウ!?」


「ラジウ様!?」


「あれ~? ラジウさま~?」


 そんな彼の名を、キヴィとサート、ノメルがそれぞれ呼んだ。

 しかし、ラジウは止まらない。そのうち見えなくなってしまった。

 三人は顔を見合わせてから、仕方なく彼を追いかけることにする。


 息絶え絶えに走ったラジウが行き着いた場所は城の洗濯場。


「クレク!!」


「おやおや、どうしました? ラジウ様」


 そこに居たのは、ちょうど洗濯物を干しているクレクだった。ラジウは息をしっかりと整えようと深呼吸をするが、気持ちだけが焦ってどうも上手くいかない。

 それに対してクレクはいつものにこやかな笑顔で見守っている。


「父上が……父上が女好きだったって本当!!?」


 やっとラジウは言葉を紡ぐ。

 彼からの大きな声での問いただしは、クレクをピシっと音をたてて固まらせるのに十分な効力を発揮した。クレクは明らかに多大な衝撃を受けている。


「……誰がそんなこと……を?」


「ちょ、ラジウ! 早いよ、あんた!!」


 口だけをやっとこさ動かすクレクの視界に、やっと追いついてきた三人が捕らえられる。そして、その三人のうち唯一大人であろう女性にクレクの目は向けられた。


「キヴィさんですか? ラジウ様に余計なことを吹き込んだのは」


 笑顔のままキヴィに疑問が投げかけられた。その疑問には激しい怒りと不信感が上乗せされており、必要以上の気迫を感じずにはいられなかった。


「は、はい……」


 先程まで元気いっぱいにラジウを追っていたキヴィだが、その気迫に押され顔を引きつらせながら返事をしてしまう。


「ね、クレク! 本当なの?」


 クレクの意識がキヴィに向かったので、ラジウは彼の服を引っ張る。自分の問いに答えさせようとしているのだ。


「それは……」


 ラジウに視線を戻すものの、押し黙って返答をしないクレク。話したくないのがみえみえである。それにラジウはこめかみをピクリと動かした。


「クレク……答えて」


「…………ラジウ様、私の口からは……」


 真剣に見つめるラジウの視線に耐え切れなくなったのか、クレクは顔を逸らして拒否の意を述べた。

 しかし、顔を逸らし拒否をするという仕草は本当だと言っている様なものだ。ラジウの顔が曇る。

 そして、そんな彼に更なる痛い追撃が繰りださられる。


「ラジウさまー。本当のことよ。わたし、ホーデュ様の娘だってママが言ってたもの」


「オレ達、全員。ホーデュ様の子供なんですよー。あはははははー」


 その痛い追撃を行ったのは幼い少女ノメルだった。単刀直入に言う彼女の言葉でラジウは背中に影を落とした。

 そして、サートによる止めの一撃。

 これは痛いではすまなかった、ラジウだけではなくクレクも砂と化してしまうほどの威力だ。

 キヴィは話を聞いて思わず三人を見比べてしまう。血が繋がっている、まぁ片方だけだがそう言われると似ているような気もしないでもない。


「あ、あれ? ラジウ様……? もしかして知りませんでしたか……?」


 あまりに無反応を決め込むラジウ。実際は頭が混乱して動けないだけなのだが、何も発さないラジウにサートは慌てたように聞いた。


「…………っ」


 ラジウは顔を茹でタコのように真っ赤にし、向きを変えると一目散に駆け出した。逃げたとも言う。

 彼の姿が小さくなりやがて消えてしまうのを、ポカンと見送るその場に残された者たち。


「あ……ラジウ様」


「……クレク。あんたも知らなかったんだね?」


「まさか、サート君たちがそうだとは知りませんでした……」


 サートが去っていたものの名を呼び、キヴィとクレクの二人も半ば放心しながらポツリポツリと会話を交わしていた。

 ホーデュの間近にいたクレクでさえ知らなかったことが明らかになったのだ。驚きを隠せないのは当たり前であろう。しかし、ラジウが何故逃げ出したのかは流石にクレクでさえよくわからなかった。


「サートお兄ちゃん、ラジウ様どうしたの?」


「わからないよ、ノメル」


 兄妹の会話が全員の気持ちの代弁をしてることは言うまでもない。


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