第一章〜三通りの道しるべ(13)〜
自分の名前を呼ばれたことで、アレンの拳はキヴィの腹寸前で止まった。体に衝撃がないことを不思議に思い、キヴィはそっと目を開ける。アレンは目の前に居た。しかし、彼の動きは止まっている。キヴィはアレンの後ろに目をやった。後ろでは、いつの間にか立ち上がったシルキアがこちらを見ている。アレンを呼んだのはシルキアだろう。
「……次にオレが決着をつけてやる。少しくらいは俺にゆずれ、アレン」
シルキアは、アレンに相変わらず無表情のまま言った。アレンは一旦肩を竦めるが、顔をキヴィに向け笑いかけた。
「はは、オレ達。女には甘いよ? 良かったね。キヴィ」
そういって彼女からすっと離れた。シルキアが帰ってこようとするアレンを睨む。達は余計だったらしい。アレンは笑って誤魔化した。
キヴィはというとほっと息を吐き、その場にヘナヘナと座り込んでしまう。ラジウとクレクが彼女に駆け寄った。そこで、シルキアは三人に目をやるとふんっと鼻を鳴らした。
「立てなくなるまで踏ん張るとは、相変わらずだな」
「仕方ないだろ! 性格なんだからっ!」
「ふん……まぁ、いい。さっさと退け」
「言われなくとも!」
キヴィはラジウとクレクの肩を借りて起き上がった。シルキアの言葉にここまで食いつくならまだ大丈夫のようだ。
キヴィとアレンの戦いは、見た目的には引き分けだが、実際はアレンが引き下がったことにより一応キヴィの勝ちである。
しかし、キヴィ対シルキアの戦いは、キヴィが体力的に次の戦いができないため場を降りた。となると、今度はラジウ対シルキアで、負けたキヴィ側。つまりはラジウがルールを決める番だ。やっと大将戦と言ったところだろう。
「……ところで、ルールはどうする?」
シルキアがラジウに視線をよこす。ラジウは既に戦い方が決まっているのだろう、すぐさまシルキアを見上げ口を開いた。
「シルキアって、この近くにある洞窟知ってる?」
「あぁ」
「そこでさ、次勝負しない?」
「……別に構わない」
シルキアのそっけない返答を受け、ラジウは大きく頷いた。シルキアのあっさりとした答えにも、ラジウの心臓が大きくなるのには十分で、ラジウは落ち着こうと深呼吸をする。
そして、キヴィの歩くのを補佐するように自分の肩を貸し、彼女を連れて歩き出そうとした。
「……明日でもいいが」
「え?」
シルキアの突然の発言にラジウは足を止めて思わず振り返った。
「どうせ、そこの奴も来るのだろ?」
シルキアは顎でキヴィを指した。ラジウは頷いて答えたが、顔が不思議そうにシルキアを見ていた。何を言い出すのだろうかという顔だ。
「足手まといはゴメンだってさ。それに、キヴィが心配なんだよ」
アレンがシルキアの意思を汲み取ったのだろう、あははーと笑いながら弁護する。が、アレンの頭にシルキアの手とうが入った。
「ふん。貴様が心配で気が散るだろう? そんな奴を相手にしてもつまらん」
シルキアは痛がるアレンを無視し、ラジウの目をしっかりと見ていた。
あながちアレンの言ってることが当たっているのかもしれない。そうラジウは思ったが、口には出さず彼の黒い瞳を見返していた。
シルキアはすっと背を向けて歩き出した。
「しっかり養生しなよ、キヴィ! ちっこいのも、せいぜい一晩で強くなってみろよぉ!」
アレンも笑顔で手を振り、ハネッタを退き擦りながらシルキアを追いかける。
「一言よけいだよ! 明日の昼、洞窟前な!!」
ラジウはアレンにあっかんべーをして、シルキアに大声で伝えた。シルキアは片手を挙げて返事する。
彼等を見送ってから、ラジウ達も帰路へと着いた。やはり、空はいつものように赤く染まっている。
太陽が高く上り、暑さも増す時間。近くの洞窟へと向かっていく人影が三つ。
「おっ、きたきた」
そう言ったのは、洞窟前で待つ二つの影のうちの一つだった。ラジウ達が到着するころには、既にシルキア達はその場で待ち構えていたのだ。
アレンがラジウ達に気付いて笑顔で手を振っている。それに対してキヴィも彼等に手を振り返した。
「さ、それじゃあ。さっさと始めようか」
着いてそうそう、キヴィは取り仕切る。それに頷くラジウと彼女に視線を投げたシルキア。二人ともわかっている。とでも言いたげだ。
「じゃ、ラジウ。お願いね」
二人の仕草を確認し、キヴィはラジウにウィンクを飛ばす。ラジウはさっきよりも大きく首を縦に振り、頷いた。
「ルールは、この洞窟内にある。えっと……宝玉をとってくること。あ、何してもOKね」
ラジウがたどたどしくルールを説明する。ちらりちらりとキヴィを見ることから、不安さが伺えた。それを見て、どうせキヴィに覚えさせられたのだろうと、アレンは勘繰った。また、シルキアはふんっと鼻を鳴らし、了承の合図をする。それから彼は、もう一度キヴィに視線を投げて口を開けた。
「……キヴィ。どうせ貴様が何か仕掛けたんだろ」
「ふふ、たくさん仕掛けたよ。勝てるかねぇ?」
「負けはせん」
キヴィはシルキアを挑発するように口の端をあげ、にやりと笑う。それにシルキアは興味なさそうに一言答えた。こいつは本当に勝負する気があるのか。とラジウを不安にさせるくらい、顔から闘気を感じることができない。
「上等!私たちも後から行くよ。それじゃあ、位置について!」
ラジウとシルキアが、洞窟の前に立った。キヴィの掛け声を待つ二人。その場に一瞬の緊張が走る。
「よーい……スタート!」
声と同時に二人とも地面を蹴った。シルキアはすぐに洞窟の暗闇に姿を消す。それを必死にラジウも追った。
「大丈夫でしょうか……ラジウ様」
二人の背中を見送りながら、クレクは不安そうに表情を曇らせ、ぽつりと呟いた。
「心配性だな、あんた。そんなに心配なら、こんなことさせなきゃいいのに」
クレクのあまりに心配そうな顔に、アレンは肩をすくめて言った。その言葉に、クレクはアレンを一瞥したが、何も言うことはなかった。
「さ、私達も行くよ!」
手を叩いて二人の視線を自分に集めると、キヴィは大きな声で述べた。それから二人の返答も聞かずに、洞窟へと歩き出す。二人は慌ててキヴィを追うのだった。




