第一章〜三通りの道しるべ(12)〜
「さ、それじゃあ。行くよ!」
キヴィの掛け声にクレクが時計を見て時間を計り始めた。
アレンはじっとキヴィを見る。キヴィも彼を見返した。しばらくその場の時が止まった。アレンがため息をついてからにやりと笑む。
「キヴィ、オレを甘く見るなよ!?」
アレンが動いた。声を出すと共に地面を蹴ったのだ。
「なっ!!?」
キヴィが驚嘆の声をあげる。クレクと戦った時よりも、アレンのスピードが速かったのだ。すぐさまアレンはキヴィの目の前に現れる。キヴィは目を見開いたままアレンを凝視して身動きがとれないでいる。
「もう、終わりっかな?」
アレンはそっとビー玉に手を伸ばす。キヴィは、はっと我に返ると慌てて身を引いた。額には冷や汗がにじみ出ている。アレンは、そんな彼女を薄笑いを浮かべながら見ていた。
「っ……どうして!?」
ビー玉をぎゅっと握り締め、胸にその手を押し付けたたキヴィは、アレンから目を離せないでいる。その顔は驚きの色を隠せていない。
「アレがただの武器だと思った?」
「くそっ……重りの役目も担ってったってーのかい!?」
予想以上の速さに、いささかキヴィは頭の中が混乱していた。しかし、少し考えればわかることだった。武器を捨てることで素早さが増したならば、それは武器が早さを抑えるための重りであったということ。完璧にキヴィの計画はこの予想外のことに打ち砕かれたのだ。
一時間と言ったのは、クレクとアレンの戦いを見た上での計算でしかない。それが狂わされたことで、初めてキヴィは30分も危ういのではないか。と危険を感じていた。
「そっ、軽いのもあるけどさ。普段は重いのつけてんの」
アレンはケラケラと子供のように笑い、それから目を細めてキヴィを見た。
「諦める?」
「ばっ……ふん。バカ言うんじゃないよ! たかだかほんのすこーし速くなったからって、調子にのって! そのくらいじゃ、このキヴィ様には勝てやしないよ!」
アレンに罵倒し、キヴィは意を決したように口をぎゅっと結んだ。そして、力強くアレンを睨みつける。どうやら、やっと驚きと動揺を抑えられたようだ。
「そうこなくっちゃ!」
アレンは楽しそうに笑むと、再びキヴィに突進していった。
軽い攻防がしばらく続いた。
アレンは軽い動きで幾度となくキヴィに襲い掛かる。しかし、流石このゲームのベテランであるキヴィに攻めあぐねいていた。
残り10分。
キヴィは薄手の服になっていたが、汗が地面に滴り落ちる。顔には疲労の色がありありと浮かび、動きもだいぶトロくなっていた。対して、アレンはさっきよりも動きの速さが増していた。顔には余裕の笑みが溢れでている。キヴィはまたアレンの攻撃をすれすれで避けた。しかし、キヴィはよろめいてしまう。
「キヴィ!」
ラジウが焦ったようにキヴィを呼ぶ。その声に、彼女は立ち上がりアレンを見据えた。アレンは動くのを止め、キヴィを見つめ返した。その目は決して先程のクレクに対する獲物を狙う目ではなく、どこか優しさが残っていた。
「……キヴィ、そろそろ諦めたら?」
「い……イヤだね」
吐く息が荒く、キヴィは言葉を詰まらせながら苦しそうにアレンに返答した。アレンは一旦眉を潜めたがすぐに眉を上に軽く上げ、口の端も上げた。
「ふーん。じゃ、もらうまでだけどねっ!」
アレンは今までよりも、もっと速い速度でキヴィに襲い掛かった。
「ぐっ!!」
キヴィは、体が動かないのか避けない。そのせいで地面に倒された。アレンがキヴィの首を掴み、彼女を地面に押し付けている。だから、キヴィは起きることができなかった。必死にアレンの手にビー玉を持ってない手の爪を食い込ませるキヴィ。しかし、アレンはそれにピクリとも反応を示さない。キヴィは力の差を感じ、更に額から汗が吹き出る。
「時間もないしね。ジ・エンド。だぜ?」
アレンが、もう片方の手をキヴィの片手に握られたビー玉に手を伸ばす。キヴィは、爪を食い込ますのを止め息を吸った。諦めたのかとアレンはほっとする。
「わぁぁああああ!!」
キヴィがいきなり大声を上げた。アレンはそれに驚き行動を止めてしまう。それを見たキヴィは、すかさず彼の腹を思いっきり蹴った。男にしては軽いアレンの体は大きく飛んだ。いきなりのことに、アレンは目を白黒させながらもキヴィから離れたところに着地する。
「ぐっ……」
腹を押さえながら、キヴィを凝視する。彼女は既に立ち上がっていた。
「アレン。なんであたしがこんな小さなビー玉を選んだかわかるかい?」
キヴィは疲労が見え隠れする顔で、少しだけ笑んだ。アレンは眉を顰めて訝しげにキヴィに視線を送る。キヴィはゆっくりとビー玉を口元に近づけた。
「ちょっ!?」
アレンが腕を伸ばすが、キヴィはそのままビー玉を口に含み、ごくんと喉を鳴らしてそれを飲み込んだ。それを見ていたアレンは口を金魚みたくパクパクとしている。
「ふぅ。ビー玉は呑みやすくていいねぇ」
にやりと笑むキヴィ。アレンは目を細めてキヴィを睨んだ。冷たい視線にキヴィは鳥肌が立ち、一歩後ずさった。
「初めに言ったよな? 攻撃有りって。ようは、吐かせればいいわけだ」
アレンはキヴィの腹に狙いを定めると、地面を蹴った。キヴィには、それを避ける体力すらもう既に余ってない。立ち尽くして、ぎゅっと目をつぶり唇を強く噛んだ。決して吐き出してなるものか。と。
「アレン!」




