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ウィズアウト  作者: 加水
第一章
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第一章〜三通りの道しるべ(10)〜

「OK。それじゃあ始めようか。こっちの1番手はクレクだよ。そっちは?」


「てきとう」


 なんですとーっ!?という内心突っ込みを、シルキア以外の全員がしてしまった。その証拠に、全員の顔に陰が入っている。


「ちょ、シルキア!?」


 アレンが、慌ててシルキアを凝視する。シルキアは、額から一筋の汗を流しなが眉を潜めるアレンに視線を返すだけだった。


「……もしかして、シルキアって誰とも話してない?」


 さらに汗を流しながらアレンは問う。


「……あぁ、話す前に貴様が全部話すだろ?」


 真顔で返答され、アレンは開いた口が塞がらなかった。そして、同時に理解した。彼が仲間の中で誰が強いのか知らないのだと。また、目が少し閉じかけているのを見て、選ぶのが面倒くさいのだということも悟った。


「わかった……オレがなんとかするよ」


 アレンが溜め息混じりに両手を挙げてそう言うと、シルキアは彼から視線を外した。それから近くの岩へと腰を降ろす。

 アレンはしばらく顎に手を当て考え込むしぐさをする。しかし、すぐさま顔を上げてにっと笑う。何かを思いついたようだ。


「ハネッタ!」


 そして、何かを呼んだ。すると、近くでドンガラガッシャン!という物が壊れる音がした。続いてドタドタという慌てた足音がこちらに向かってくる。

 ラジウ達は慎重に目を凝らしてこちらに走ってくる人影を見た。


「な、なんっすか?」


 走ってきたのは、大きな瞳に抜けている顔立ちをした少年とも青年ともつかない男だった。手にはオタマとナベを持ち、黄色のシンプルなエプロンを着用している。顔や服はミートや他の食べ物で汚れていた。

 へらっとした表情をアレンに向ける彼。少し恥ずかしそうに頭を掻いているのは、さっき作っていた料理を引っくり返してしまったからだろう。


「あのなぁ……まぁ、いいや。ハネッタ、お前にチャンスをやるよ」


「本当っすか!?」


 アレンは溜め息をついて頭を落としたが、すぐに気を取り直して顔を上げた。そして、ハネッタと呼んだ男に視線を投げる。

 アレンの言葉にハネッタは彼を見返し目を輝かした。また、口からは驚きと喜び、警戒が混じった返答が飛び出す。


「あぁ。今から戦う相手に勝てたら解放してやるよ。ってことで、こっちの一番手はこいつ。ハネッタだ」


 嬉しそうに頷くハネッタを、アレンはクレクの方に押し出した。双方が睨みあう。

 ラジウはこの対決を密かに主婦(夫)決定戦。と名付けた。心の中で。


「ルールは、どちらかが参った。もしくは死ぬか。のデスマッチでよろしいですか? では、武器の使用も有りでいいでしょうか?」


 クレクは微笑むと、ハネッタに優しい口調で問うた。ハネッタは、うんうん。と頷きながらもクレクをじっと凝視している。どうやら様子を伺っているらしい。


「それでは、キヴィさん。かけ声をよろしくお願いします」


 クレクの言葉に反応するかのように、ハネッタは目を閉じた。ナベとオタマはまだしっかりと握っている。


「OK。それじゃあ、よーい……スタート!!」


 キヴィが始まりを告げた。同時に空が曇る。クレクは眉を潜める。目の前の光景がみるみるうちに変わっていくのだ。彼は自分の武器に手をかけず、それをじっと見つめていた。

 ハネッタの腕が、茶色い羽根に覆われていく。足は既に鷹のような鋭い爪が姿を現し、腕同様茶色い羽根に埋め尽されていた。


「……魔鳥ですか」


 クレクは目を細めて確認する。その間にもハネッタの体は変化していた。肩まであった赤茶の髪が炎のように舞い上がり、目は模様が浮きだち大きな目が鋭くつり目になっていく。

 クレクは背中の弓を手にとり、矢を弓に収めた。しかし、まだその武器は降ろしたまま。

 ハネッタは地面を蹴って空に舞い上がった。高い空上からクレクを見下ろす。


「キーッキッキ! 追い付けないだろ!?」


 さっきとはうって変わった甲高い声は頭にキーンとこだまする。

 クレクの頭上を円を描いて飛び回るハネッタ。その飛ぶ速度はドンドン増すばかり。

 クレクは無言のまま弓を空に向けて構えた。そして、ゆっくりと弓を引く。

 そして、ためらうことなく放った。


「そんなん当たんないよ! それ!!」


「……ちっ。」


 ハネッタが掛け声をかけると、彼に向かってきた矢は光とともに灰となった。天井から光と熱が放たれたのだ。そう、雷である。

 それに、クレクは眉を顰め舌打をしたたが、もう一度弓を構えなおす。冷静にハネッタの行動を見て、機会を窺っているのだ。


「じゃ、今度はこっちから!」


 ハネッタは思いっきり羽で空を仰いだ。すると、羽から何枚もの羽根がクレクに風を切りながら襲い掛かってくる。しかし、クレクは微動だにせずにハネッタを凝視していた。

 羽根がクレクの頬を、腕を、足をすり切る。さらに羽根は、クレクの顔を自分の攻撃範囲内に捕らえた。それを確信したハネッタの顔が緩む。


「っ!!?」


 次の瞬間、ハネッタは目を白黒させながら落下していた。ハネッタの翼の根、肩に矢が刺さっていたのだ。これでは羽を動かして飛ぶことはできない。

 クレクは彼の注意が散った瞬間に弓を放ち、弓の棒の部分で自分に襲いかかって来た羽根を叩き落していた。


「弓は本来。遠くのものを仕留めるために作られたもの。鳥などの空を飛ぶものも例外ではありません。貴方では、この武器に勝つことはできませんよ。負けを認めてくださいますか?」


 地面に落ち、矢が刺さった部分を庇うようにして蹲っているハネッタに近寄って、クレクは笑みもこぼさずに丁寧な口調で聞いた。それは、ひどく冷たさを感じさせた。

 ハネッタは目を見開きクレクを凝視する。その体は徐々に初めの姿へと戻っていっていた。そして、足を地面で押し、彼はクレクから離れるように後ずさった。


「……ま、まいった」


 元に戻ると、ハネッタはやっとそれだけ口にした。声も体も震えている。クレクはそんなハネッタからまだ視線を外そうとしない。そして言葉を紡いだのである。


「……貴方は、魔族ですよね?」


 突き刺すような冷たい瞳がハネッタに注がれる。クレクは嫌悪感を明らかに露わにしていた。口調が、視線が、空気が、いつもに比べて明らかに異質で、相手、いや他の者にも恐怖心を煽っていた。

 ハネッタはそんな彼に怯えながらしきりに頷く。


「魔族の貴方が、何故そんなにも早く戦いを諦めるのですか? 人間に負けを認めるのですか? 何故、人の元につくのですか?」


 クレクはハネッタに問いをぶつける。落ち着いていたクレクの口調はだんだんと荒げてきて、ハネッタに圧力をかけていた。また、緊張した雰囲気が辺りを包む。それもそのはず、この世界では今。魔族や魔物が世界を支配している。そんな彼らが人間に負けを認めるなど、ましてや人間に従うなどあるはずがないのだ。


「ハネッタ! 戻れ!!」


 アレンが蛇に睨まれた蛙のごとく固まっているハネッタに呼びかけた。しかし、二人とも動こうとしない。


「……ちっ。そいつは、オレに負けたんだよ! だからオレに従ってるだけだってば! もう、終わりだろ!? 次は、オレが相手だ!!」


「従ってる!? 負けただけでですか!!?」


 アレンが大声でクレクにくってかかったが、クレクはもっと大きな声で叫んだ。信じられないと言った感じで。

 クレクの目はまだなおハネッタに注がれている。また、いきり立ったまま言葉を続けるのであった。


「魔族というのはプライドが高いんです。負けたなら、寝首を掻いてでもその相手を殺します。そういう奴らなんですっ!」


「……あんた、いったい誰のこと言ってんだ? ハネッタはそんな奴じゃない」


 クレクの言葉に、アレンは眉を顰めて首を横に振った。

 アレンは尋常でないクレクの反応が気にかかった。彼の台詞はハネッタに向けられたものではないと感じたから。だからだろう、アレンがクレクを見る目には多少の哀れみが覗いていた。


「こいつは元から気が弱いんだ。戦うより、家事が好きって奴だよ。その証拠に、あんたに怯えてんじゃねぇか」


 アレンはハネッタに近づき、腕を掴むと立ち上がらせた。ゆっくりと、相手に聞き取りやすいように言葉をつむいでいく。そうすることで、自分も相手も落ち着けさせようとしているのだ。


「人間にだって、魔族にだって色んな奴がいるさ。あんたがどんな奴らを見てきたか予想は付くけどな。魔族だって、人間に怯えるんだぜ?」


 アレンの言葉に、クレクは目を見開いてから段々と血の気が引いていき下を向く。頭に上った血が下がって冷静になり今の状況が掴めたクレクは、後味が悪そうに何かを噛み殺すような苦い表情をしていた。

 それを見たラジウは顔をしかめて駆け寄っていき、心配そうにクレクのすそを掴んだ。


「……そう……ですね。すいませんでした」


 苦笑いをラジウに向け、クレクは彼の頭を撫でた。また、アレンとハネッタに向かって謝罪の言葉を述べる。

 クレクの口調はだんだんといつもの柔らかい口調へと戻っていった。


「魔族を久しぶりに見たもので……警戒心が強くなったというか、頭に血が上ってしまったみたいで。すいませんでした」


「そ、まぁ、わからんでもないし。良いよ、もう」


 アレンは軽い口調でそう言い、ハネッタを石の上に座らせた。そして、まるで気にしていなかのようににっと笑い、クレクに視線を投げる。


「じゃ、もう頭は冷えたみたい?」


「えぇ、今はもう冷めてます。冷静ですよ。……次の戦いをお願いしてもよろしいですか?」


 やっとクレクは微笑を浮かべた。アレンはOKっとウィンクしてみせると、クレクの正面に移動した。

 二人が次の戦闘相手だと、互いに認め合ったのだ。双方の視線が絡み合い、闘士が立ち上っている。


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