第一章〜三通りの道しるべ(9)〜
「シルキア、見てみろよ!ほら、サーカステント!」
「バカか」
やけに元気よくはしゃぐ赤髪の男に、薄汚れた金髪の男シルキアは、細い目を彼に向けることなくすぐさま言った。
場所は、城の裏手の近くにある開けた草原。草原と言っても、大きな岩がいくつも出ており、木も大きな木から小さな木までところどころに聳え立っている。
そこよりもっと離れた、平たい何もない場所に、大きなテントが張ってあるのが見える。それを差しながら、アレンは楽しそうに目を輝かしている。
「ひっでぇ。また昔みたくサーカスやろうかな。って思ったのによ」
「貴様だけでやってろ」
しかし、さらなる連れない突っ込みに、赤髪の男はショックを隠すことができず口を開ける。
「相変わらずだねぇ」
女にしては少し低めの声が、シルキアの見ている方から聞こえた。シルキアは声の主を見て、眉を潜める。
「……かえ」
「キヴィーーーっ!!」
赤髪の男が、目の前に現れた女の名を呼んだ。もちろんシルキアの言葉を遮って。
そこに立っていたのは、青緑の髪を持ち、キリっとした強気な瞳を持つキヴィ。彼女は白衣を着たままの姿でそこに立っていた。
「アレン、久しぶりだねぇ。元気だったかい?」
近寄ってきた赤髪の男アレンに、キヴィはカラカラと笑いながら聞いた。
アレンは懐かしむような柔らかい笑みから、ニカッと子供のような笑みになる。
「元気、元気! なぁ、キヴィ。シルキアったらひどいんだぜ?」
アレンはシルキアをビシッと指差し、キヴィに訴える。それがとてもおかしいらしく、キヴィは笑いながら、いつものことじゃないか。と呟いた。シルキアは黙ってその様子を見ると、深いため息をつく。
「あら? アレン。その髪飾り可愛いね」
キヴィはアレンの赤い髪に栄える、金色のピンどめに目を奪われた。というよりは社交辞令である。
「だろ、だろ!シルキアってば、気持悪いっつーんだぜ?」
「気持悪いに決まっているだろう。女ものをつけるな、アホ」
「そうかねぇ。かわいけりゃ良いと思うけど。シルキアもつけたらどうだい?」
既に三人の会話は、世間並になっている。また、シルキアの言葉にショックを受けたアレンは、キヴィに抱きついき抗議する。
その様子をポカンと口を開けて、ラジウとクレクは見ていた。ラジウにいたっては内心、大人ってこんなもんなんだ。という衝撃を受けていたりもするが。
「あっ」
ラジウはアレンと目が合った。ラジウはキヴィの後ろにいたため、彼女に抱きついて後ろを見たアレンとちょうど視線がぶつかったのである。しばし固まってしまうラジウ。
「……いたんだ。ちっさくてわかんなかったわ」
アレンは口だけで笑んだ。それにラジウがムカっとしたのは言うまでもない。アレンの言葉に思いっきり眉を潜めている。そして、大口を開けた。
「いたよ! つか、キヴィ。こんな人とも知り合いだったの!?」
こんな人とは、明らかにアレンを指している。ラジウはキッとアレンを睨み上げた。怒っている彼をふんっと鼻で笑い、アレンはキヴィから離れる。鼻で笑われたことに、ラジウはさらに額に皺を寄せた。
「あぁ、アレンとも知り合いだよ。だって、私たち三人は、おさ」
「心の友だ」
キヴィが振り向いてラジウに答えた。が、しかし、アレンがキヴィの語尾を掻き消してしまう。また、彼の発言に全員が口を開け、目を真ん丸にし、「はっ?」と声を出してしまった。
「いや、だから。心の友」
「恥ずかしいことを二度も言うなーーーっ!!」
「そんな嘘くさいものでまとめるな」
アレンが再びその言葉を発した時、二つの論点がずれまくっている突っ込みと同時に、ドスっやら、バシっなどの激しい音がした。
それは、もちろんキヴィとシルキアが、突っ込みと共にアレンをどついたからである。キヴィはハリセンで後頭部を、シルキアは背中を足蹴にしていた。
「いったーっ!?冗談なんだから本気で突っ込むなよ!」
アレンは後頭部を押さえながら二人に対してわめく。
「冗談でも言うんじゃないよ!鳥肌がたっちまうだろ。まったく……」
キヴィはわざと体を身震いさせてから頭を掻いた。それに対してアレンは詫びれた様子もなくおかしそうに笑んでいる。
「こいつらとは、たんなるクサレ縁さ。小さい頃、よく一緒に遊んでね。ようは幼馴染みってわけ」
三人の漫才に、またもやポカンと口を開けているラジウとクレクに、キヴィは苦笑いを浮かべながら説明した。
説明を聞いて、ラジウは思った。この三人でどんな風に遊んでいたのか。と。
「どうでもいいが、何しに来た?」
シルキアが、ナチュラルにアレンを無視してラジウ達に問いかけた。その顔はこの間同様、額に眉を寄せており、ラジウはつい一歩退いてしまう。しかし、クレクが退いたラジウの背中を軽く押すと、彼は顔を引き締めてシルキアを見上げたのだった。シルキアもラジウを無言で見返す。
しばらく黙ってしまったラジウだが、意を決して口を開いた。
「た、戦いに来た!」
「帰れ」
上擦った声でやっと絞りだした言葉は、即答で却下された。案の定ピシッと石のように固まるラジウ。そんな彼を気にもとめず、シルキアはさっさと背中を向けた。
「負けるのが恐いのかい?」
歩き去ろうとする背中に、キヴィは腕を組んで挑発的な言葉を投げつけた。
「……ふん。負けるわけないだろ」
振り向く気配さえも見せずに鼻で笑われた。キヴィがむっとしないわけがない。そんな二人をクレクが冷や汗を流しながら見守っていた。
「そんなん、やってみなけりゃわからないだろ!? だいたい敵に背中みせる奴があるかい! 逃げるんじゃないよ!!」
キャンキャンと吠えるキヴィに、シルキアはため息をつく。アレンはその様子を見、苦笑いをして肩をすくめた。彼の雰囲気はまさにやれやれと呆れている感じだ。
「……条件は?」
シルキアは振り返ってただ一言聞いた。しかし、それだけでキヴィは満足そうに微笑んでいる。彼女は彼がもう引き下がらないことを知っているのだ。
キヴィは踵を返してクレクとラジウのもとに戻る。
「3対3の勝ち抜き戦。それ以外のルールはその都度、変更する。変えてもいいのは負けた方。ようするに新たに戦う奴が決めるってことさ。もちろん、最後に勝ち残った方が勝ちだよ。さらに負けた方が勝った方に従うってーのはどうだい?私達が勝ったら、あんた達全員ラジウに仕える。ってことさ」
「……こっちが勝ったら貴様ら全員、元居た場所に戻れ」
不敵な笑みを浮かべるキヴィと、それを鬱陶しそうにみつめるシルキア。何故か、その二人の間で火花が散っている。本当のところ、大将はラジウなのだが。




