表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ウィズアウト  作者: 加水
第一章
9/65

第一章〜三通りの道しるべ(8)〜

「それでは、よーい……スタート!」


 クレクの掛け声とともに、ラジウが地面を蹴った。キヴィもゆっくりとだが右へ移動する。ラジウがキヴィの一歩手前でブレーキをかけた。


「おっ……」


 キヴィもその変化に気付き、後ろへと一歩退く。それを追うかのように、ラジウは状態を低くし、足をぐんと曲げる。また、彼の目はキヴィの右手に持たれているボールに注がれてはいなかった。視線はキヴィの腹。ようは目の前を凝視しているのだ。

 ラジウの足が伸びる。


「ちっ!」


 このまま突っ込まれては避けきれないと理解したキヴィは、仕方なく左手を内に曲げた。そして、その手を払うようにラジウに向けて繰り出した。

 ラジウは地を蹴ったと同時に前のめり、地面に両の手をつく。それによって、彼のスピードは失速した。次に、足を手の近くに着地させる。はたから見ると、かえるのような格好だ。

 いきなり低くなったラジウのせいで、キヴィの左腕は宙を切った。彼女の腕が自分の頭上を通りすぎると、ラジウは勢いよく手足のバネを伸ばして、キヴィの右手目がけて飛びかかった。


「しまった!」


 避ける前に、キヴィにはラジウの体重がのしかかる。だから右手を軸に、キヴィは後ろに倒れこんだ。

 ラジウは彼女と違って、軽々と地面に着地し、両手を高々とあげバンザイをしている。

 その手にはゴムボールがしっかりと握られていた。


「やった!!」


「あーあ、やられちまったねぇ。……よくやったよ」


 苦笑いをしながら立ち上がったキヴィが、ラジウの頭を軽く叩いて褒める。


「へへ。だって、キヴィが攻撃する時は読みやすいし、した後は隙があるって言ってたからね。やってみようと思ってさ」


 照れて頭を掻くラジウ。顔は嬉しそうで、ほんのり赤い。


「ね、クレク! 時間は?」


 ラジウはクレクに駆け寄って、フェンス越しに聞いた。クレクを見上げるその目は、とても強く輝いている。


「約一分ですよ。素晴らしい戦いぶりでしたね。ラジウ様」


 クレクはラジウの頭を優しく撫ぜて微笑んだ。

 そこにキヴィも駆け寄ってきたかと思うと、ラジウよりも先にフェンスを飛びこえた。それからクレクと向かい合って苦笑う。


「悪いんだけど、今日はここに泊まってもいいかい? 今から帰ると、家につく頃には真夜中になっちまうよ」


「えぇ、どこでも空いているので好きに使って下さい。お風呂は右の方に、夕飯は食堂が左の方にありますので、お気軽に使ってください」


「わかったよ。ありがとう」


 クレクは微笑みをキヴィに向けた。そこにフェンスを登りながら、ラジウが割り込んだ。


「キヴィ! いっそのこと、ずっとここに住んでよ!」


「考えとくよ」


 背中を二人に向け、キヴィは片手をあげた。そして去っていく。

 ラジウに満面の笑みが溢れているのを見て、クレクはまたラジウの頭をそっと撫でた。また、キヴィが去っていった方向に、深く頭を下げたのだった。





 太陽が高く登り、もっとも暑くなる時間帯に、ラジウは目を覚ました。久しぶりにぐっすりと寝れたことに、大きな欠伸をしてから嬉しそうに笑む。

 ベットから降りて着替えると、勢いよく扉を押し開け、廊下に飛び出した。


「クレク! キヴィ!」


 二人の名を呼び、キョロキョロと辺りを見回す姿は、とても元気で子供っぽい。


「こっちですよ」


 ラジウの声に返答が返ってくる。声のする方を見やると、フェンスの外。ようは庭で、クレクとキヴィが白いテーブルを囲んでいた。

 テーブルの上にはカップとクッキーの入ったお皿がのっている。どうやら二人でお茶をしていたようだ。

 ラジウは二人に駆け寄った。


「おはよう! クレク、キヴィ」


 『おはようございます。ラジウ様。』


 ラジウの挨拶に、二人はハモって挨拶を返した。

 ラジウは驚いて、きょとんとしながらキヴィをみる。


「どうかしました? ラジウ様」


 にっこりと笑んで首を傾げるキヴィは、いつものクレクそのもので。ラジウは口元を引きつらせながら一歩後ずさった。


「……キヴィ……だよね?」


「当たり前じゃないですか。何言ってるんです?」


 なおも昨日とはまったく違った笑顔と口調のキヴィに、ラジウは目を大きく見開いたかと思うと、


「……こんなのキヴィじゃない!!」


 わっと駆け出し、近くの開いている扉に隠れてしまった。そして、扉からそっと二人の様子をうかがっている。はっきり言えばアホ丸出しである。

 しかし、それを見てクレクはなぜか楽しそうに微笑んだ。


「なめてんじゃないっつーの。このくそガキ」


 ガラッと口調と声色を変えて、キヴィは毒付いた。さっきまでの和やかな雰囲気はどこへやら、大雑把なきっぱりとした雰囲気をかもしだしている彼女。

 しかし、その雰囲気にラジウは嬉しそうに反応した。


「あ、キヴィだ」


 彼女の雰囲気に安心し、ラジウは扉からそそくさと出てきた。そして、キヴィ達の元に駆け寄った。

 キヴィはそんなラジウを見て溜め息をつき、背もたれにどっかりと寄りかかる。


「あんたねぇ、人がせっかく大人とする関わり方でやったげたのに……まったく、子供だねぇ」


 キヴィの顔は緩く笑っていた。

 彼女の言葉に、へへっとラジウは笑い、子供だよ。と認める。それから彼は、クレクの隣に座り、出されたパンを頬張った。

 キヴィは少し真剣な瞳に戻ったかと思うと机に肘をつき、前のめりになってラジウの瞳を見つめた。


「ラジウ、戦う勇気はあるかい?」


「はる!」


 彼女の問いにラジウは大きな声で即答した。しかし、口の中にはパンがつめこまれていたため、『ある』と言ったはずが、濁った音になってしまったようだ。


「そうかい。それじゃあ、さっそく作戦立てて、今日のうちに挑みに行くかねぇ」


 爽やかな昼時、ラジウはパンを片手にキヴィの話を聞き、クレクはそれに助言する。その内容は、どのようにして敵を陥れて勝つか。である。

 見た目だけは和やかな昼時の食卓であった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ