247 走り出した統治(二)
町の城壁を壊してまで食料を奪いたいなんて、全く理解できない。
なんで隣国に買い出しに行かせないの?
神聖領ガイアスラーは、ちゃんとお金を払って隣国のアーラ皇帝国の商会から、豆や小麦を届けてもらったよ?
お金を出せば、ちゃんと隣国の商会は売ってくれるのに、民から搾取することしか思い付かないのかなぁ? まさか隣国に、安くしろと強要したりした?
「今は緊急時で、国民が生きるか死ぬかって事態なのに、ギューメラ王国の王族は、備蓄食料ばかりか、お金さえも民のために出さないつもり?」
「お恥ずかしい限りです。宮廷魔術師の口上によると、王族と高位貴族のために今直ぐ、町の食料の八割を差し出せ。断れば、住民の多くが死ぬことになるぞと叫んで、城壁を壊し始めたようです」
大きな溜息を吐いて、サブチーフが状況を説明する。
「王族と高位貴族以外は、死んでもいいんだ……本当に腐ってるのね」
ぶわって魔力が溢れてきて、怒りの感情と共に体が熱くなる。
『サンタや、抑えよ!』
『分かってるけど、勝手に溢れてくるんだよ、サーク爺』
「まあ噂では、高貴なる者のために死ねる栄誉を与えてやろう……なんて平気で言えるみたいですから」
サブチーフの言葉の中に悔しさと諦めの感情を見て、魔力が勝手に外に漏れだしそうになる。
……ダメだ。もう無理! 苦しい。
「出でよ雷雲! シャングラの町の外門の上空にて鉄槌を下せ!」
勝手に溢れた魔力が魔法になって、意図せず辺りを壊滅状態に……なんてことにはしたくないから、私は天に向かって魔力を放つ。
裏門の映像をはっきりと脳裏に焼き付けながら、稲妻と共に大粒の雹を降らせるイメージを強く思い描く。
すると上空にシャングラ教会の敷地位の大きさの黒い雲が現れ、バチバチと放電を始めた。
「行けー!」
行けと叫んで、上げていた両手をシャングラの方向に向かって大きく振る。
黒い雲の塊は上空で不気味な渦を巻きながら、雷鳴を轟かせて西に向かって流れていく。
「サブチーフ、悪いけど、あれを馬で追ってくれる? もしもシャングラの町に被害が出たら直ぐに教えて」
「りょ、了解です、大賢者様」
不気味な雲を見上げていたサブチーフは、私の指示を聞いて慌てて馬に跨った。
「なんてことだ。神の使い様を怒らせるとは、罰当たりな宮廷魔術師め!」
ひそひそとじゃなく、大きな声で付近に居たシャングラの町の農家の皆さんや警備隊員の皆さんが、神の使い様なんて言いながら、去っていく黒雲を見ながら怒りを露にする。
農奴の皆さんは恐怖で顔を引き攣らせながら、うんうんと頷いている。
『ああ、やっと魔力が落ち着いた』
『言いたいことは色々あるが、まあ、仕方なかろう』
『いやいや、此処はよくやったと言っても、ええんやないかサーク爺』
『そうですわね。折角だから見に行きましょうよ、サンタさん』
パトリシアさんが、久々の上級魔法に感心しながら、魔法の顛末を見届けなきゃって言うから、他の守護霊も見に行こうと同意する。
「ちょっと、様子を見てくるわ。作業はこのまま続けておいてね」
どこか恐々とした表情で私を見ている皆さんに、指示を出して走り出し、魔法で加速しながら雲を追いかけていく。
ゲートまで戻ったら遠回りだし、馬車はアレス君が使っているから走るしかない。
最近私は、いつものぴよーんぴよーん飛びをレベルアップさせることに成功し、飛ぶ距離が長くなり速度も上がっている。
神聖領ガイアスラーは、教会本部がある台地から、なだらかに下る位置にあるから、シャングラの町より標高が少し高い。
シャングラの町が眼下に見えてきた時、ちょうどサブチーフに追いついたんだけど、爆走してくる私を見た時は、幻かと思ったって言いながらサブチーフは顔を引き攣らせた。
……誰も彼も、まるで私が怖い人みたいな目で見るんだけど、失礼じゃない?
『いや、普通の反応だと思うぞ』
『そうですよね、ダイトンさん。僕もあれは当然の反応だと思うよ』
ダイトンさんとショーニスさんまで、まるで私を常識外れの変人扱いする。
『まあ仕方ないわよサンタさん。大賢者であり大魔法使いなんだから、普通じゃなくて当たり前よ』
マーガレットさんまで、普通じゃないって認める発言をするなんて……うぅって鳴き真似して出てない涙を拭いてみる。
「オォーッ! さすがは大賢者様、いや、大魔法使い様。王宮から来た宮廷魔術師も軍の兵も、突然降ってきた大粒の雹に、頭を抱えて逃げ惑っています。
ワハハ、今度は雷まで落ちて固まっています。アーッ、とうとう雲の渦に飲み込まれ、舞い上げられてシャングラの町から離れていきます。なんという光景だ!」
サブチーフの興奮した実況中継の声を聞きながら、私は雲の渦に向かって両手を伸ばし、シャングラの町から離れていくよう強く念じていた。
「ハアハア、結構魔力を使ったわね。これで、危機は去ったかなぁ?」
予想以上に脱力感がきて、私はその場に座り込んで、ハアハアと肩で息をする。
『無茶をしよる。これは上級魔法ではなく、特級魔法の部類じゃ』
『そうなんだサーク爺、ハアハア、どうりで魔力が枯渇するはず……良かった。シャングラの町を破壊しなくて』
「大丈夫ですか? 大賢者様」
「ゴメン、暫く動けそうにないから、町まで連れて行ってサブチーフ」
そう言って私は、ぱたりと大の字になり、青い空を眺めて大きく息を吐いた。
サブチーフの馬に乗せてもらって、裏門に近付くと、兵士や宮廷魔術師の持ち物と思われる物が散乱していた。
「おーい、大賢者様が、戦利品は領主屋敷に運んどけってさー」
城壁の上で警備していた町の兵士に、サブチーフは大きく手を振りながらそう言って、門番に扉を開けさせる。
門が開いて飛び出してきたのは、兵士だけではなく、町の住民たちも大勢いた。
どうやら、あの雷雲と雷鳴と竜巻を町の中から見て、何事かと駆けつけてきたようで、大騒ぎになっていた。
「あれは大賢者様の大魔法だ。大賢者様が町を救ってくださったー!」
集まってきた住民たちに、サブチーフが胸を張って、全ては大賢者様の大魔法だったのだと説明していく。
「ウォー!」とか「ワーッ!」と歓声が上がり、皆が私に向かって「ありがとうございます」と礼を言い始めた。
意識が朦朧とするほど眠い私は、頑張った笑顔で小さく手を振って、教会へ急いでとサブチーフに頼んだ。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。




