246 走り出した統治(一)
シャングラの町の住民が全面的に協力してくれることになり、一気に神聖領ガイアスラーの開発が進み始めた。
バーリアン連合国の二つの商会は、ゲートに近い場所に仮設事務所を建て、本国から戻ってきた商会員や応援要員によって、簡易宿泊施設も建設中である。滅茶苦茶仕事が早くて優秀だ。
懸案事項の水道工事は、私とアレス君が頑張って穴を掘り続け、三日で地上からロードまで貫通させた。
今はお宝倉庫から持ち出したパイプと呼ばれる物を、繋げていく作業を工学部チームが進めている。足らない長さをどうするかは思案中だ。
地上の水源となる水道の位置は、サンタゲートの入口より四キロも南になった。
でも、町の広さをサンタゲートを中心に半径五キロの円形で考えていたから、ちょうど町の外れに畑がある感じになり、結果オーライと考えることにした。
荒地の開墾は結構大変で、大きな岩がゴロゴロあるし、土壌もよくないから改良も必要になる。
畑の水は現在、流民の皆さんが蓋つき大瓶に入れて、ロードから運んでいる。
まあ人数だけは居るし、水が零れないから問題ない。外は暑いのもあり、ゲートの入口まで水を運ぶ仕事は希望者が多い。
地上で開墾作業をしているのは、これまで問題を起こした者や男性が中心で、シャングラの町の警備隊員の監視の元、ご飯のために頑張って働いている。
流民たちは、治安維持のために毎日やって来るハンターたちから、シャングラの町以外が、どれだけ悲惨で、どれだけ多くの人が道端で死んでいるのかを聞かされ、大干ばつの今の様子を知って、態度を改めるようになった。
お前たちがどれだけ幸運だったのか、よく考えろと厳しく言われて、喧嘩や暴言はめっきり減った。
でもまあ、ハンターの言うことが信じられず、神聖領ガイアスラーの領民になんかなりたくないと考えた十三人が、勝手に逃げ出したけどね。
二日後には半分の七人が戻ってきて、もう一度チャンスをくれと言って頭を下げたけど、当分は領民認定をしない方針だ。
希望となる成果もあった。
王立能力学園農学部のミーノデル准教授と、先行してやって来たガリア教会大学農学部ホウサーク教授と学生八人の農学チームが協力して、高度文明紀後期の種を発芽させることに成功したのだ。
しかも、大麦と小麦と思われる両方が発芽し、野菜や豆類と思われる植物の芽と一緒に地上に移して、改良したばかりの土に植えられた。
六月末には、高度文明紀後期の医療用魔術具発見の一報を聞いた、王立能力学園の医学部から医師が二名と助手が二名やって来た。
魔術師学部からもヒョーイ主任教授と、何故か王子の側近である魔術師学部のマジメーダ先輩と、他にも学生が三人、医学部と一緒に到着した。
ガリア教会大学からも、各学部の代表者が最低でも学生を二名連れてきたので、王立能力学園との協力、協業体制の元、研究や調査が本格的に始まっている。
時間はあっという間に過ぎ、もう七月に入ってしまった。
王立能力学園の助っ人軍団は、農学部のミーノデル准教授と発明学科のミルーメ教授とキンデル先輩の三人を残して、一旦エイバル王国へと戻っていった。
例年通りなら七月二十五日から九月十三日まで夏季休暇なので、ほぼ全員が戻ってくると言っていたけど、学園長の許可が出るんだろうか?
農学部のミーノデル准教授と発明学科のミルーメ教授は、解雇されても何の問題もないと言って、エイバル王国に戻る他の教授に、学園長宛ての休職願いをことづけていた。キンデル先輩は休学届を出していた。
工学部の皆さんにはお宝部屋を見せたから、何が何でも戻ってくる気がする。
あの素晴らしい素材の山があれば、魔術具の複製も夢ではない。
魔術師がやって来たので、起動させていなかった新しい魔術具を、発明学科のミルーメ教授を中心に起動できるよう頑張っている。
特に医療系の魔術具は、見たことも聞いたこともない感じだから、丁寧に文字を解読し、いったい何の治療をするための魔術具なのか、医師と一緒に日々研鑽に励んでいる。
シャングラの町の様子はというと、門を固く閉ざしたままで、実際に王都からやって来た軍と対峙はしているけれど、争いは勃発していない。
シャングラの町の領主は、水だけ兵士たちに配給し、人ではなくなった王や貴族に施す食料などないと、強気な姿勢を崩さない。
どう考えても軍の要求は、罪もない住民からの略奪行為に等しいから、兵士たちも気が重そうだ。かと言って、帰る様子もない。
当然のことながら、私は隣国である神聖領ガイアスラーの領主だから、全く関わっていない。
大神官様も無視していればいいと仰るので、日々忙しく畑の開墾作業に追われている。
人力だと限界があるので、魔法を使って岩を持ち上げ、その岩を使ってゲートから半径五キロを囲むように城壁もどきを作っている。
「な、な、なんと、領主様は神の使いだったのか!」
開墾作業をしていた流民の皆さんが、初めて見る魔法に驚き、私を神の使い様と呼ぶようになった。
そんなんじゃないからって言ったんだけど、何故か皆が畏れの視線を向けるようになった。解せん。
急に敬語っぽい話し方になり、ガリア神にも興味を持つようになったので、大神官様は「良いことですね、大賢者様」って嬉しそうだ。
子供たちには、ご飯の前にお祈りをするように教え始めたりして、少しずつ纏まりもでてきた。
七月十五日、神聖領ガイアスラーに結構な量の雨が降った。
発芽した麦や豆類にとって恵みの雨だ。畑仕事をしていた全員が雨に濡れながら喜んで、開墾作業をしていた者は、作業がし易くなって万歳していた。
シャングラの町にも雨は降ったけど、僅かな量だったみたい。
十キロくらいの違いなんだけど、湿った程度の雨でも、シャングラの町の畑の野菜は喜んだと思う。
「大賢者様、シャングラの町の城壁が、魔術師から攻撃を受けています」
麦畑の様子を見ていたら、シャングラ支部のサブチーフが、急ぎの用事らしく馬に乗ってやって来た。
「えっ? どこの魔術師?」
「ギューメラ王国の、国王直属の宮廷魔術師五人だそうです」
「宮廷魔術師? なんだか大層な名前ね。それで被害状況は?」
「間もなく、裏門の城壁が崩されそうです」
……今、アレス君はホッパーさんと一緒に、町に買い出しに行っていたな。
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