244 流民と治安維持(八)
地上に戻る前の五日間、順々に流民が【サンアンシスロード】に移ってきた。
初日こそ大人しかったけど、次の日に他の町の流民がやって来てから、何かと揉め事が勃発した。
蝋燭の倹約のため、寝る時間以外は明るいロード内で過ごさせたことが原因だけど、料理を任せた女性たちが、陰でこっそりスープを食べているとかいないとか、どうでもいいようなことで喧嘩をする。
「領主が子供の女の子だと分かって、完全に舐めてるなこいつら」
「そうっすね、リーダー。タダ飯食わせてもらって、寝床を与えられた恩なんて、これっぽちも感じてねえみたいですぜ」
リーダーに続いてサブリーダーが、指をボキボキ鳴らしながら喧嘩している男たちを睨みつける。
【最速踏破者】のメンバーは、地上に戻らず私の護衛をしてくれていたから、恩知らずの者たちに対して容赦なんかしなかった。一緒に苦労してきたもんね。
喧嘩していた五人を引きずり倒し、縄で縛って私の前に座らせた。
「今後、喧嘩をしたり揉ませた者は、ペナルティーとして地上の小屋で暮らさせる。外は暑い上に水もない。領主に見捨てられ神聖領ガイアスラーの住民になったからには、ガリア神の教えに従い、協力し合うことを義務付ける。
嫌なら出ていけ! ただし、シャングラの町には戻れないぞ」
私の隣に居た流民担当のオリバー神父が、ロードに響き渡るような大きな声で、嫌なら出ていけ! と言ったから、ざわざわしていたロード内が、一瞬で静かになった。
「やっぱり人間は、日の光を浴びないとダメね。あなた方は元気が余っているみたいだから、明日から荒地の開墾を命じます」
ここで甘い顔をしたらダメだと分かっているから、私もちゃんと罰を下した。
まあ明日から畑づくりを始める予定だったから、別に罰って程の事でもないんだけどね。ふーっ。
「アレス君、地上に水を引く計画は進んでる?」
同じ日の午後、私はシリスを連れ五キロの仕切り壁を越えて、噴水から地上に水を引く予定地に行って質問した。
「サンタさん、地底から地上を目指すのは無理だ。地上からなら真っすぐ穴を掘ることが可能だし、工事が簡単に済む。問題は、この真上が地上のどの地点なのかを割り出すことだ」
建設学科のミルベ教授が、ロードの簡易地図と、地上のゲート付近の地図を出して、測量が必要だと言う。
「確かにそうだよね。でも、機材が無いよね」
「いや、実はな、戦争前に王宮の地下室で魔術具の検証をした際、測量や計測の役立ちそうな魔術具を、起動できるかどうか試すために学園に持ち帰っていたんだ。
でも、魔核の大きさが分からないし、起動のさせ方が分からないから、つい、空間拡張リュックに入れたままになっていたんだ」
つい? そんな訳ないだろうと他の教授も分かっているけど、ミルベ教授に何も言わない。
それどころか、やはり第一人者の大賢者様に起動させて頂くのが一番だなんて言い出す始末。
結局、私とアレス君と発明学科のミルーメ教授の三人で、起動させることにした。
「これは……なんと言うか凄いな。もしも地上の明るい場所で起動していたら、この光に気付かなかったかもしれない。
遠くまで真っすぐに照らす光に、障害物が光の途中にあると、その障害物の高さと距離までが、高度文明紀後期の数字で表示されるなんて」
建設業界に革命が!って、ミルベ教授が感動している。
王宮の地下倉庫から拝借してきた魔術具は、これまで見てきた魔術具の中でも、最も高度な技術で作られた素晴らしい物だった。
確か開戦した時、戦争に有用な魔術具の起動に成功したご褒美に、王立能力学園が使えそうな魔術具は頂けると、王太子様から聞いた気がする。
ということは、もう、この魔術具は工学部の物であり、あの時に協力した学園の教師や学生の物ということだ。
あれだけ国のために尽くしたのに、王立能力学園には何の褒章もなかった。
それどころか、敵国の呪術師に狙われ多くの犠牲を出した。現在も治療中の学生や教師が魔術師学部にいる。
あの時に検証しなかったら、他の魔術具も含めて、ずっと王宮の地下で眠ったままになっていただろう。
……フッフッフ、働いた分の褒章は頂かないとね。
「これは国宝級ね。照らした光の方角から距離まで、一目で分かる数字や記号で表してくれるんだもの。
思い出したんだけど、あの時に王太子様は、戦争では役に立たず、学園で使えそうなら使っていいって私に言ってたわ。だからもう、この魔術具は王宮の物ではなく、私たちの物」
勝手に使うのに少し戸惑っていた皆さんに、私はにっこり微笑んで自分たちの物だと言い切った。
「オォーッ!」と、その場にいた全員が嬉しそうに声を上げる。
「もしも、此処に居る皆さんで複製できたら、それこそ世界中で売れるでしょうし、複製に関わった者は、全員が特許料を貰えるレベルだわ。
だけど複製するには、サンアンシスロード内の素材を使うしかないから、ガリア教会に二割、学園には一割くらい特許料をあげれば十分かしら」
瞳を輝かせて測量魔術具を見ている王立能力学園の皆さんに、夢と現実を織り交ぜて、一緒に稼ぎましょうと勧誘する。
素材という点を重要視すると、エイバル王国内で複製するのは不可能に近い。
それに、此処なら学生を教えなくていい上に、研究に没頭できる。
皆の瞳がギラリと輝き、ごくりと唾を飲み込む音が聞こえる。
「ガリア教会大学にも、特許をとれるような魔術具の複製権利を、一つか二つは差し上げる予定なんだけど、ガリア教会大学の皆さんと同じように、私に全面協力していただけるなら、この素晴らしい魔術具の複製に必要な素材を、無償で提供してもいいわ。
ああ、そういえば、照明の魔術具はどうしようかしら? ガリア教会大学にあげようかなぁ?」
照明の魔術具を勝手に分解し組み立て直した教授たちに向かって、私はにっこりと笑いながら問う。
「大賢者様、あれは我々が既に起動させた物です。どうか、あの照明の複製権利を発明学科に、いえ、王立能力学園にください!」
徹夜で起動させていたミルーメ教授が、両手を合わせてお願いする。
他の王立能力学園のメンバーも、絶対に売れる魔術具だと確信しているから、ミルーメ教授に加勢して「ぜひ、王立能力学園に」と懇願する。
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