240 流民と治安維持(四)
ロードに出したままになっている支援物資は、各家毎に責任者が同居人と一緒に希望を出し、健康状態や年齢や男女を考慮し、限られた物の中から最低限で配布する。
食器は各家に二個、体を拭くための布は一枚、水を入れる容器として瓶、石鹸は洗濯場にしか置かない。
流民に与える仕事も必要だし、至れり尽くせりの支援なんてあり得ないと、バーリアン連合国の二人も言っていた。
そもそも、本来支援すべきギューメラ王国の貴族は、シャングラの町に流民を向かわせるだけで、何一つ支援する気配さえない。
頑張れば頑張るほど、皆が怒りの感情を募らせていく。
そして戻った教会で目にしたのは、先日と同じ様子の八百人の新しい流民たちだった。
予想していた千人より、この時点で百人も多い。ど、どういうことよー!
中には、今にも息を引き取りそうな者が数十人もおり、教会はてんやわんやになっていた。
……見たくない。こんな現実なんて見たくなかった。でも、私は大賢者として、やれることをすると宣言した。だから逃げることなんてできない。
「お疲れさまでした大賢者様。昼前にシャングラ支部から、大トカゲの肉が届き、親指大の肉をスープに入れ食べさせることができました」
私同様に疲れた顔の大神官様が、食料はなんとかなっていると報告してくれた。
そして、かつがつでも動けそうな者を、明日の朝から【サンタゲート】へと移動させると報告を受けた。
……うん、そうだよね。明日も行かなきゃいけないよね。とほほ。
「申し訳ありません大神官様。私とアレス君は魔力枯渇状態なので、早めに休ませていただきます」
ここで倒れたりしたら迷惑がかかる。だから、教会の皆には悪いけど休むことにする。
守護霊の皆が、働き過ぎだ! 早く休め! って煩いし、アレス君は私より魔力をたくさん消費している。
「もちろんです大賢者様、お弟子様。どうぞお休みください」
申し訳なさそうに大神官様が了解してくれたので、私とアレス君はこっそりシャワーを浴び、自分たちで用意したご飯を食べて、ベッドに潜り込んだ。
ぐっすり眠った翌朝、日の出とともにシャングラ支部へ行き、解体し終わっている大トカゲ二頭分を受け取った。
昨日は一頭分を急いで解体し、荷車二台で教会に持ってきてくれたんだけど、空間拡張バッグを持っている訳でもないから、大変だったらしい。
「昨日も今日もありがとう、チーフ。ところで、魔力循環の訓練した?」
徹夜で二頭を解体し、お疲れのチーフにお礼を言って、魔力循環について質問する。
「ああ、なんとか毎日やってるぞ。でもなあ、クズ魔核くらいじゃないと無理だ」
「そうかぁ……だったら空間拡張バッグは無理だから、空間拡張ポーチ(大)を、シャングラ支部に寄付するね」
「な、な、なんだと! 寄付? 白金貨二枚のポーチをタダでくれるのか?」
チーフじゃなくて、サブチーフが大きな声で確認してきた。
「そうだよ。いろいろお世話になるからね。これなら、チーフでもサブチーフでも魔力を流せば使えるよ。容量は二メートルの正方体」
空間拡張ポーチ(大)を掌に載せ、にっこり笑いながら差し出す。大トカゲなら一頭分の肉が入る大きさだ。
「間違っても、ハンター協会の幹部に盗られたりしないでくださいね。これは、使用者登録ができない魔核の大きさだから。それで、頼んでいたカラ魔核は、どれくらい集まりましたか?」
嫌いなハンター協会の奴等には、ポーチを教会から借りていることにした方がいいと思うって言いながら、依頼していたカラ魔核について問う。
「ああ、ハンターたちにも協力させて、町中から有料で買い取ってはみたが、大きくても五センチのカラ魔核しかなかった。金持ちの商会や下級貴族でも、一番多く使う旧式の大型ランプ用の三センチしか持ってなかったぞ。
それから、最初の三頭と今回解体した三頭の大トカゲには魔核が入っていた。五センチが二個と七センチが四個だ。ほら」
ニヤリと笑いながら、オレンジと赤が混じった感じの魔核六個を、サブチーフがテーブルの上に置いてくれた。
「やったー!【サンアンシスロード】の大トカゲにも、魔核が入ってたんだ!」
「良かったねサンタさん。これで空間拡張ボックスを起動できる。三センチのカラ魔核も五個あるから、照明の魔術具が五台使えるね」
飛び上がって喜ぶ私に、アレス君は笑って言いながら、テーブルの上に置かれたカラ魔核と大トカゲの魔核を、自分のウエストポーチに収納していく。
徹夜で空間拡張ボックス二つとバッグを三つ作ったけれど、魔核がないから半分が使えなかったのだ。
ポーチでも、二センチ以上の魔核を使わないと空間魔法が発動しない。
「カラ魔核の代金はいくら? 現金じゃなくてもいいなら、エイバル王国の広域ランプと同等の明るさが出せる、照明の魔術具を一台だけ、特別に納品するよ。
売値は三センチの魔核込みで、最低でも白金貨一枚だから、余ったお金で残りの大トカゲの解体をよろしく」
「分かった。それでいい。あの流民の数だ……受け入れも大変だろう。
シャングラの町の住民は、流民を受け入れてくれた神聖領ガイアスラーの領主である大賢者様に、とても感謝してるんだ。
食品以外の商品をいろいろ購入してくれて、町の商店は大喜びだし、治安の心配がなくなっただけでも、本当に有難いんだ」
チーフがそう言って頭を下げるから、サブチーフや職員さん、徹夜で解体してくれたハンターさんたちまで「ありがとう」とお礼を言ってくれた。
……ああ、こうやって感謝されると、大変だけど頑張ろうって思える。うん。
教会に戻る途中で、燃料鉱石や石鹸等を大量購入し、布や針や糸なども買えるだけ購入した。
教会に戻って、空間拡張ボックスに流民の食料である豆や小麦や乾物などを収納し、王立能力学園の皆さんを連れて【サンタゲート】に向かった。
動ける流民は、教会メンバーと一緒に徒歩でゲートへと出発する。
商業連合や各商会の皆さんは、事務所や店を建てる資材確保や諸々の準備のため、ギューメラ王国の近隣の町へと買い出しに出かけるそうだ。
シャングラの町の目ぼしい資材は、バーリアン連合国の二つの商会が殆ど押さえており、今日から建設が開始される。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。




