238 流民と治安維持(二)
「北区は二人から三人が暮らすための住居なんだと思うが、二部屋とキッチン付きだから、四人から五人で使えばいいと大司教様は仰ってる」
教会の会議室で緊急会議を始めた冒頭、正式に大賢者の補佐に決まった上位神父のバスランさん四十歳が、大神官様の意向を伝えてくれる。
「そうですね。それで十分でしょう。ギューメラ王国の農奴の家は、一部屋と土間という小屋のような家に、ひと家族四人くらいが住んでますからね。
農奴ではない農民だって、一部屋多いくらいの家に、五人~八人くらいが暮らしていますよ。雨風がなんとか防げる程度の家ですが」
神聖領ガイアスラーの領主代行であり、ギューメラ王国担当官のノムさん四十二歳も、ギューメラ王国の現状を話しながら同意する。
「二間の部屋に八人? それはちょっと狭いね。でも、家族が別々の家に住むのはかわいそうだから、六人までの家族には同じ家に住んでもらって、二人だったら二組で使ってもらおう。
家族以外は、女性だけの家と男性だけの家に分けなきゃいけないね」
「はい大賢者様。できれば同じ地域の者たちで組み分けをさせ、リーダーになる者を決めて世話をさせます。
地上に働きに出る者たちはゲートの登り口付近に住まわせ、病人や年配者や子供は、できるだけ奥に住まわせるのが良いでしょう」
流民担当事務官に決まったオリバーさん三十八歳は、流民の元の住所と家族構成等を記録してくれているから、今日の三百人は明日の午前中までに組み分けを完了させると言ってくれた。
「各住居に最低でも四人が暮らすとして、ロードの片方は販売用だから、十三キロある北区だと、当面五キロの区間で十分かな。
五キロより先には行けないよう、地上の土を持って入り高さ五メートルくらいの壁を作って、簡易扉を魔法で作る予定です」
北区の片側の販売用の部屋の扉には、これから開閉禁止の魔法を掛けるんだけど、先まで手が回らないし盗難等を避けるために、五キロ以上は流民の侵入を禁止すると伝えた。
「では、その仕事は僕が先に行います。五キロですね。扉の魔核は……手持ちの物は三センチくらいですが大丈夫でしょうかサンタさん?」
「うん、大丈夫だよアレス君。流民の人たちは魔力充填なんて知らないから、三センチのカラ魔核でも開錠できないと思う。
簡易扉の付近は、教会大学や能力学園の皆さんの居住区にする予定だから、門番代わりになると思う。地上に水を引く工事は、五キロより先だし」
大賢者である私は、使える人材は余すことなく使い倒す主義である。
いや、倒さなくてもいいけど、お手伝いするって言質を取ったから大丈夫。
三センチの魔核なら、鑑定士学部のシリテーナ教授と発明学科のミルーメ教授が開錠可能だし、その先の調査に向かうのにも問題ない。
「サンタさん、念のために中央区の扉にも開閉禁止の魔法を掛けておこう。中央区と南区の居住区は、まだ殆ど確認ができてないから」
「そうだねアレス君。探求心旺盛な皆さんが、勝手にあれこれやらかさないよう、いや、水道工事や農業を優先してやってもらう必要があるもんね」
……調査は、水の確保と農業の開始を条件に進めてもらわなきゃいけない。
「大賢者様、煮炊きはロード内で行わせますか? 千人分の食料ですと、薪も多く必要ですし、煙が充満する可能性もあります」
もう一人の流民担当であるイエサムさん二十二歳が、心配そうに訊いてきた。
「う~ん、それなんだけど、多少の風の流れがあって、煙や熱が地上に抜けるようだったら問題ないと思う。
北区には側道が無かったから……ん? 本当に側道がないんだろうか? あんなに長い距離があるのに、地上に出る道がないのは変じゃない?」
とても大事なことを見落としていたことに気付き、背中に冷や汗が……
「確かに変かも……中央区と南区には地上に出るための側道があったよね」
アレス君も思い出しながら変だと言う。南区の側道の中には、子供が遊ぶような公園に通じている側道もあった。
これは絶対に調査しないといけない案件だ。地底生物の侵入はない気がするから、地上への道は溶岩によって塞がれているのだろう。
数えきれないくらいある扉の中に、地上へと続く道が隠されているのかも。
『サンタさん、地上に出る側道にーは、共通する扉を使っていた気がするーよ。ごめんーね。ちょっとずつ思い出してきたーよ』
「共通する扉? それって、同じ色とか同じ模様の扉を探せばいいってこと? ゴモラさん。よく見てなかったけど、確かに商店の扉は他の扉より大きかったわ。だったら、住居用の扉とは違う特徴がある扉を開いてみたらいいのね」
私は皆にも聞こえるよう、ゴモラさんとの会話内容を声に出し、きちんと説明した。
「これは、ハンター仲間も総動員しなきゃダメね」
やることリストを書きながら、どんどん内容が増えていく。
流民を【サンアンシスロード】に連れていくまで、僅か二日間しかないのに。
明日の早朝から潜って、明後日の夕方には戻ってこなきゃいけない。
『サンタや、王立能力学園の助手三人を連れゆけ。流民の世話を手伝う条件でロードの入場料をタダにする約束じゃろう?』
「あっ、そうだったサーク爺。若くて元気な助手が三人いた」
使える人員を思い出し、能力学園の皆さんが泊っている宿舎に使いを送ってもらった。
よし、側道探しと探索は、助手三人と【ロードの悪魔】の二人に任せよう。
【最速踏破者】の六人には、片側全ての扉を開けてもらい、一般住居には青色ペンキで数字を記入してもらう。
【ロードの申し子】の5人には、一般住居以外の扉の中を調べて、赤色ペンキで記号と数字を記入してもらう。
バーリアン連合国のオルスバーンさんとデルンさんには、空間拡張バッグを持たせて、一般住居から流民が使えそうな衣類や雑貨だけを回収してもらう。
私とアレス君は、販売予定の奥に向かって左側の部屋の扉の全てに、開閉禁止魔法を施す。
明後日は、居住区域予定の右側の部屋の中の、売れそうな魔術具や食器や鍋等の遺物を、片っ端から空間拡張ボックスに収納していく。
一部は先に商業連合に売って資金を集め、残りは販売用の部屋に全て収納しておく。
……今夜は徹夜で空間拡張ボックスを作らなきゃ。
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