236 迫る大飢饉(十五)
午前十一時に集合場所に到着すると、興奮状態でテンション高めの皆さんが、瞳をキラキラさせて待っていた。
私の姿を見付けると走り寄り、興奮しながら一斉に感想や希望を述べるので、一旦落ち着いてもらうために、空間拡張ボックスから大トカゲを取り出しドサリと石畳の上に置いた。
死んでいるとはいえ不気味な地底生物であることは間違いないので、皆は顔を引き攣らせて二歩後ずさり、弾丸トークは治まった。
「頑張って流民のために食料調達をしてきました。途中、巨大蜘蛛に襲われ死闘を繰り広げた結果、あちらの外殻を持ち帰ることもできました。
これから流民の対応で寝る間もなくなる可能性があるので、皆さんの調査報告はゲートの入口に戻るまでの間にしてください」
馬車が待っているので、さっさと帰るわよと皆に告げ、私への報告や要望の順番は、喧嘩しないようジャンケンで決めてもらった。
五百メートル間隔でジグザグに登っていくので、折り返し毎に報告者を交代する。各チームや学部に与えられる時間はおよそ十分くらいになるだろう。
テンションが一番高かったのは、予想通り歴史学者のターンキュウ教授で、此処に住みたいなんて言い出したから、流民のお世話を少ししてくれるならいいよと答えておいた。
ターンキュウ教授と発明学科のミルーメ教授には、教会まで帰る馬車に同行してもらい、他の人には発表を控えている医療施設や医療魔術具の発見について説明し、王立能力学園の医学部の皆さんを、是非お誘いしてねと頼む予定だ。
ゲートの入口に到着した時点で、予想していた通り王立能力学園メンバーは、全員が泊まり込みで調査したいと要望してきたから、にっこり微笑んで許可を出した。
特に農学部のミーノルデ准教授は、高度文明紀後期の植物の種が保管してあったことや、品種改良の話を少しだけしたら、自分が全力で発芽させたいと張り切っていた。
教会に戻ったら直ぐに、研究生や教授に応援の手紙を書くと約束してくれた。
……よしよし、順調に助っ人が集まりそうだ。農業の指導は私じゃできないから大助かり。
発明学科のミルーメ教授、建設学科のミルベ教授、地質学科のカンドウ教授、鍛冶学科のオーナシ准教授の四人の工学部の皆さんは、地下水の汲み上げ技術に驚嘆し、私が考えている地上まで水を汲み上げる工事に、率先して協力してくれるそうだ。
この工事には土魔法が得意なアレス君の力が絶対に必要なので、暫く別行動になるだろう。ちょっと寂しいけど、最優先事項だから我慢、我慢。
エイバル王国の商業連合の三人は、あの美しい短剣があった部屋の全ての物と、どの部屋にも置いてあった照明魔術具と思われる物に興味を示し、あの魔術具が起動できてランプよりも優れていたら、国中から穀物を集めるから販売の優先権をくれって交渉してきた。
これまでお世話になっているバーリアン連合国の二つの商会との関係もあるし、もっと素晴らしいお宝を発見しているからと濁し、答えを先延ばししておいた。
……あぁ、そうだ! 流民の皆さんが【サンアンシスロード】で生活するなら、たくさんのランプが必要だった。ギャーッ!!
メインロードには、ホッパー商会が持ってきてくれたお爺様が発明した広域ランプを設置する予定だけど、それでも数は二十台しかない。
広域ランプの代金は、ガリア教会が既に支払ってくれたから、次に潜る時に設置することになる。魔核が足らないから、今回は持ってこれなかった。
魔術師学部のヒョーイ主任教授が、遅れてやってくるみたいだから、バイトでカラ魔核に魔力充填してもらおう。
ホッパー商会とモステル商会は、今回、声を掛けてもらえた幸運に感謝しますと、凄く低姿勢でお礼を言っていた。
エイバル王国内で、【サンアンシスロード】の遺物を独占して販売できる権利を貰ったことで、かなりの利益を出せると計算したみたいだ。
特にモステル商会は、格安で建築資材を神聖領ガイアスラーに販売する仕事だと思って来たらしく、遺物の購入権や販売権までもらえると知り、直ぐに人員の補充と資材を大量追加すると言っていた。
どんどん必要な人材が集まってくるのはいいけれど、問題は食糧だよね。
流民の食料だけでも頭が痛いのに、助っ人の食料までは手が回らないから、自分で持参するようお願いはしてあるけど、何か月も滞在するなら他国の商会からの買い入れも考慮すべきだろう。
ギューメラ王国の南の隣国であるアーラ皇帝国は、今回の大干ばつの支援を断っているけど、支援ではなく神聖領ガイアスラーの領主が購入すると言えば、きっと食料を調達してくれるだろう。
まあ、皇帝じゃなく商会に打診すればいいんだけど、大賢者であり神聖領ガイアスラーの領主として動くなら、皇帝にも話を通しておいた方がいいって大神官様が言うんだよね。
会いに行く時間がないから、先日お手紙を書いて教会経由で送っておいた。
やることも、考えることも多すぎて、思わず音を上げそうになるけど、そんな時はアレス君が一緒に考えてくれて、いつも支えてくれる。
他にも、教会大学や王立能力学園の教授たちも力を貸してくれる。まあ王立能力学園の皆さんは、互いに得るものがあるから対等に近い関係だけどね。
ハンター仲間だって、遠い異国まで来てくれた。有難い、有難い。
……いつだって一人じゃなかった。だから頑張れる。仲間って大事。
予定通り午後四時には教会に戻ってきた。
でも、そこで見た光景は、私の想像をはるかに超える悲惨なものだった。
「どうして皆、着替えも持ってないの?」
「どうやら途中で、水や僅かな食料と交換したようです大賢者様」
私の問いに答えた教会長は、困ったを通り越して頭を抱えていた。
既に教会に辿り着いていた流民の数は三百人くらいで、西からシャングラの町に来たらしく、誰も彼もボロボロの服を着ており、ひどく痩せ顔色も悪かった。
「昼過ぎに城門前に到着し、門番の案内で水飲み場で水を飲み、領主の指示通り教会まで案内されて全員が此処にいます。
二時間前に豆のスープの炊き出しをして、現在は長旅で疲れたのか、皆が横になっている状況です」
「年配者や子供が多いと思っていたけれど、成人した男性もたくさん居るなんて驚きだわ、教会長」
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